多用途ヘリコプター・プログラム・オフィスからの最新情報
UHPO(Utility Helicopters Project Office, 多用途ヘリコプター・プロジェクト・オフィス)は、アメリカ陸軍およびその戦略的利害関係者に世界最高の多用途ヘリコプターを供給すべく、日々進歩を続けている。現在、行っている事業は、陸軍のブラック・ホーク、ラコタおよびMEDEVAC(medical evacuation, 患者後送)機の管理、ならびにそれに関連する装備品および役務の設計、開発、供給、支援などである。この際、使用部隊への世界クラスの航空能力の提供およびパイロットと整備員の負担の軽減を主眼として業務を実施している。
この度、UHPOプロジェクト・マネジャーとして、再び航空計画管理室で勤務できることを光栄に思っている。これまで、さまざまな役職で勤務してきたが、今度は、プロジェクト・マネジャーとして、マルチドメイン戦場を勝ち抜くために我々の機体がいかなる新しい能力を必要としているのか、そして、FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)機への移行をいかに進捗(しんちょく)させるのかを決定し、UHPOの各プログラムを確実に実行してゆきたいと考えている。加えて、現行機種についても、FVL機の供給が始まっても、今後、数十年間に渡って運用状態を維持しなければならないし、MDO(Multi-Domain Operations, マルチドメイン作戦)でも有効に機能できるようにアップグレードを続けなければならない。
この記事は、UHPOの3つの取組みを紹介するものである。陸軍の多用途ヘリコプターの大部分は、陸軍州兵で運用されている。このため、陸軍州兵に関する業務は、UHPOの任務の中で重要な部分を占めている。その業務には、前線で部隊を支援するMEDEVAC(medical evacuation, 患者後送)機に関するものも含まれている。MEDEVAC用MEP(Mission Equipment Packages, 任務装置パッケージ)の近代化およびアップグレードを継続し、それが必要なときに準備ができており、能力を有しており、かつ生き残れるものであることを確実にしなければならない。UHPOは、多用途ヘリコプターに関し、マルチドメイン作戦に必要な持続性の維持にも貢献している。IOT&E(Initial Operational Test and Evaluation, 初期実用試験)を完了したUH-60Vプログラムは、FVL機が運用を開始するまでのギャップを埋める役割を担うことになる。
陸軍州兵航空は、陸軍の持久戦力の一部として、世界中に派遣されることが期待されている。つまり、海外での作戦に参加しつつ、国土防衛任務に従事し、かつ、災害時の初動対処部隊としても機能しなければならない。この独特な任務は、アメリカ陸軍がマルチドメイン作戦へと移行するに従って、それを支援する機関に、より重大な問題を投げかけている。航空計画管理室およびUHPOは、陸軍のヘリコプターが必要としている新しい技術と能力を設計し、開発し、供給し、実行可能な価格を実現して、マルチドメイン作戦および陸軍州兵の要求に適合させてゆかなければならない。陸軍のヘリコプターの大部分、特に最も多くの患者後送機を保有しているのは、陸軍州兵航空である。ただし、そのMEDEVAC機(患者後送機)の主体を形成しているのは、アナログ機であるUH-60A/Lヘリコプターであり、マルチドメイン作戦に必要な互換性に乏しい。UHPOは、これらの機体にデジタル能力を与え、マルチドメイン作戦の要求事項にUH-60V MEDEVACおよびUH-60Vを適合させるための新しい技術を開発しようとしている。
UH-60V MEDEVAC
UH-60V MEDEVACは、現在、その設計段階にあり、その最終設計審査は2021年度第1四半期に、飛行試験は2022年第1四半期に予定されている。患者後送任MEPの実装は、コーパス・クリスティ陸軍工廠(こうしょう)ですでに実行中のUH-60Vの生産プロセス(機体の分解、電気ハーネスの統合など)と同時並行的に実施されている。この重要な装備品の部隊への供給は、2023年度後半に開始される予定である。陸軍機には、現在、200機以上のUH-60L MEDEVACが含まれている。UH-60LのUH-60Vへの改修に際しては、そのうち200機をUH-60V MEDEVACへと改修することが決定している。これは、陸軍州兵が保有するすべての患者後送機の65パーセントに相当する。患者後送MEPをUH-60Vの機体に組み込むこの事業は、UH-60V MEDEVAC統合プログラムと呼ばれている。患者後送MEPは、MMS(MEDEVAC Mission Sensor, 患者後送任務センサー)、機外レスキュー・ホイスト、PHS(Patient Handling System, 患者搭載システム)およびBAM(Black Hawk Advanced MEDEVAC, ブラック・ホーク先進患者後送)ウィンドゥで構成される。
MMS(MEDEVAC Mission Sensor, 患者後送任務センサー)
現行のUH-60LのMMSは、機体に後付けされたスタンドアロンのシステムである。このため、センサーから得られた情報の提供に、機体側のシステムを利用していない。これに対し、UH-60V MEDEVACでは、MMSが機体に完全に組み込まれる。MMS自体は、UH-60L MEDEVACから再利用され、HH-60M MEDEVACの「アヒル口」状のマウントを利用して、UH-60Vの機首に搭載される。この搭載方式を採用することにより、降雪対応キットとの併用が可能となり、全天候性能の向上を図ることができた。UH-60VのMMSは、ビデオ表示装置がコックピット内の多機能表示機に直接組み込まれている。このため、UH-60Lでは、計器盤の横に取り付けられていたMMSモニターが不要になった。また、MMSを機体に組み込むことによって、パイロットは、MFCU(Multi-Function Control Unit, 多機能コントロール・ユニット)でセンサーを操作することが可能となった。このため、MMSコントロール・ユニットも不要になった。これらの改善により、コックピット内のスペースを有効活用し、パイロットの負担を軽減し、MMSの操作性を向上させることができた。
MMSは、機体からGPS位置情報を収集し、それを計算処理することによって、地理位置情報を提供できる。パイロットは、MMSビデオ・スクリーンの画像をクリックすることにより、その対象物のGPS座標を直ちに把握できる。また、地理位置情報の入力も可能である。パイロットは、戦術マップまたはMMSビデオ画像上のポイントをクリックすれば、MMSをその位置にロックすることができる。これにより、MMSは、機体の位置や姿勢に関わらず、その場所を指示し続け、パイロットが地上の患者の位置を標定し、識別するのを補助することができるようになった。
UH-60Lと異なり、UH-60VはHH-60Mと同じようにキャビンドアの機外上方にレスキュー・ホイストを装備している。UH-60Lは、機外レスキュー・ホイストの取り付けにESSS(External Stores Support System, 外部装備支持システム)用のハードポイントを利用していたため、CEFS(Crashworthy External Fuel System, 耐クラッシュ・外部燃料システム)の取り付け位置と競合していた。UH-60V MEDEVACは、CEFSが使用可能となり、後続距離および滞空時間が増大し、患者後送能力の向上を図ることができた。
IMMSS(Interim MEDEVAC Mission Support System, 暫定患者後送任務支援システム)
UH-60V MEDEVACは、現在、UH-60A/L MEDEVACに搭載されているIMMSS(Interim MEDEVAC Mission Support System, 暫定患者後送任務支援システム)と同じものを使用する。IMMSSは、4つの固定式担架と4つの歩行可能患者用座席で構成されている。歩行可能患者用座席は、担架の横に格納することができる。これらの装備により、4名の担架患者と4名の歩行可能患者を搭載可能である。さらに、後部兵員座席を利用すれば、8名までの歩行可能患者を空輸できる。IMMSSは、キャビン前方に位置し、床面、天井およびキャビン両側面の壁面に固定されており、その中央には、医療要員が治療を行うための余積が確保されている。すべてのIMMSSには、ICS(Intercommunication system, 内部通話装置)位置変更キットおよびBAMウィンドゥが併せて装備される。クルー・チーフと医療要員は、BAMウィンドウにより、キャビンの後方に搭乗するように変更となり、それに併せて、ICSの位置が変更された。IMMSSには、各担架に2つのコンセントが備えられており、必要な衛生装備品に電力を供給できる。その電力は、2組の電力供給装置により供給される。また、4つの酸素ボトル用架台を装備しており、4名の患者に携帯用酸素を使用することができる。現在、275セットのIMMSSが装備されている。
2019年1月、UH-60Vプロダクト・オフィスは、コーパス・クリスティー陸軍工廠におけるLRIP(Low Rate Initial Production, 低率初期生産)段階を開始した。これは、UH-60Lを完全デジタル・コックピット化し、パイロットの状況把握を容易にし、航法能力と安全性を向上させるためのものである。オープン・システム・アーキテクチャに基づくデジタル方式のコックピットは、このヘリコプターをマルチドメイン作戦に対応できるものにしている。すでに8機の機体が搬入され、2020年1月までにさらに2機が入場する予定である。最初のLRIP機は、2020年5月31日までに完成する予定である。
2019年9月、UHJ-60Vプロダクト・オフィスは、IOT&E(Initial Operational Test and Evaluation, 初期実用試験)を完了した。3機のUH-60V試作機は、312時間以上の飛行を行い、その間に展開、新装備慣熟訓練、集合訓練および試験飛行を支援した。この段階が終了したことにより、UH-60Vは、FRP(Full Rate Production, 全規模生産)の開始に必要な基準を満たしたことになる。
2019年4月、AAAA(Army Aviation Association of America, アメリカ陸軍航空協会)は、UH-60Vプロダクト・オフィスに対し、その業績を認め、ロバート・M・ライヒ賞を授与した。MOSA(modular open-system architecture, モジュラー方式のオープン・システム・アーキテクチャ)およびFACE(Future Airborne Capability Environment, 将来航空能力環境)に適合したUH-60Vへの改修は、コスト効率の改善、将来・近代化の迅速化および相互運用性の向上をもたらし、UH-60V以降の陸軍航空の飛躍を確かなものとしている。
大佐カルビン・レーンは、アラバマ州レッドストーン工廠の航空プログラム・エクゼクティブ事務局多用途ヘリコプター・プロジェクト・マネジャーである。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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UH-60Vの機体全体の画像は、こちらを御覧ください。MMS、BAMウィンドウおよび機外レスキュー・ホイストが確認できます。
UH-60Lの機外レスキュー・ホイストの取り付け状態は、こちらで確認できます。