AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

CH-47でのセットリング・ウィズ・パワー

上級准尉3 ジョン・K・シルジス
航空施設安全担当将校
カリフォルニア州フォートアーウィン

それは、イラク北部でいつもとは違う任務を遂行していた夜のことでした。その任務は、前方運用基地スペイサーの北側や南側に向かう、いつもの環状ルートの飛行とは、ちょっと違っており、それが始まるのを待ち遠しく思っていました。

任務に関するブリーフィングを受け、飛行前点検を異状なく終了すると、離陸前の軽食を食べに向かいました。チヌークによる機外搭載(スリング)任務を実際に行うのは、私にとって、初めての経験でした。まだ300時間ほどしか飛行していない新米パイロットだった私は、何でもやってみたかったのです。一緒に飛行するパイロットは、教官操縦士であり、他のすべての搭乗員も経験豊富な者ばかりでしたので、搭乗者全員を信頼していました。タワーの許可を得た後、ホバリング時のパワー・チェック(power assurance test, PAT)を行うためにE誘導路まで移動しました。

E誘導路に到着するまでに、操縦系統と自動操縦系統の一連の点検を完了しました。到着したならば、直ちに機体を180°旋回させて南向きにし、風に正対させました。パワー・チェックを行うため、2番機と使用滑走路の間で、少し上昇して、トルクが60~70%であることを確認しようとしました。いつもの夜ならば、機内搭載貨物の重量の関係から、双方のエンジンは簡単に100%に達します。しかし、その夜は、8,000ポンドの機外搭載物を懸吊する予定だったため、機内に貨物を搭載していおらず、60%程度までしかトルクが増加しませんでした。

私が「No.1エンジンをグランド・アイドルまで絞りますか?」聞いたところ、機長は、それを制したうえで、もう少しパワーを上げて60%以上を維持すれば、両方のエンジンのパワー・チェックを同時にできる、と言いました。私は手を戻しました。機長は上昇を開始して、機付長にNo.1およびNo.2エンジンのパワー・チェックを指示しました。計器を確認していた私は、毎分約300フィートで上昇していることが分かりました。無言で、他の計器の確認を続けました。

機付長がパワー・チェックが完了したと告げた時、電波高度計を見ていた私は、対地高度が約800フィートに達していることに気づきました。それを機長に告げると、機長は了解し、これから下げるところだと言いました。まだ少しずつ上昇していましたが、私は、それを気に留めず、別なことに気を取られていました。その頃は、毎晩のように同じことを繰り返していました。特にその夜の機長は操縦教官であったため、注意を継続する必要はないと思ったのです。これは、まだ、任務が始まる前のいつもの手順にすぎないのです。

機外に目をやってから、機内に注意を戻すと、昇降計が毎分1,000フィートの降下率を示していました。ただちに「降下してます! 降下してます!」と叫びました。地面が急速に近づいてきており、機長はすでに推力を増加させようとしていましたが、降下が止まる気配がありませんでした。機体が、セットリングに入っていたのです。

タンデム・ローター式のヘリコプターの場合、セットリングから脱出するためにノーズを下げて前進しようとしても、前後のローターへのコレクティブ入力に差異を生じさせ、問題をさらに悪化させるだけです。左側方に移動することがベストなのですが、そちら側には2番機がいました。右側方に移動するというオプションもありましたが、使用滑走路までの距離が十分でなく、その滑走路では別の機体が離陸しようとしていました。このため、機長は、右前方に機体を移動させました。汚れた空気から脱出した機体は、対地高度10フィートでやっと沈下が止まりました。機長は、機体をEタクシーウェイに戻し、2番機がパワー・チェックを完了した後、任務に向けて離陸しました。

その後の任務は順調に進み、私にとって初めての機外搭載任務は、無事に完了しました。しかしながら、その夜、私は重要な教訓を得たのです。パイロットや機付長は、間違いを犯すものなのです。そうではないと思っていた私の考えが、事故の一因となるところでした。機長を信頼しすぎていた私は、「機長ならば、間違うはずがない」と思い込んでしまっていたのです。

副操縦士の仕事は、ただ単に機長の隣に座っていることではなく、あらゆる飛行場面において、機長の操縦をアシストすることなのです。機長が操縦教官の資格を有しているからといって、副操縦士の支援がなくても任務を遂行できるということにはならないのです。パイロットや機付長としての経験時間にかかわらず、すべての搭乗員は、同一の判断基準を共有し、任務完遂と安全確保を確実にするため、相互に協力し合う義務があるのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    「タンデム・ローター式のヘリコプターの場合、セットリングから脱出するためにノーズを下げて前進しようとしても、前後のローターへのコレクティブ入力に差異を生じさせ、問題をさらに悪化させるだけです。」の部分の原文は、「In a tandem rotor helicopter, nosing it over to fly out of it would only increase the problem due to differential collective input.」です。もし、ニュアンスが違っていたら教えて下さい。