AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

対テロ戦争の時代における自己防護

マイケル・クラパンザーノ、ジョン・G・ウィルコックス
ジェームス・ホーランド 共著

 2009年イラク・バクダッド-キャンプ・ビクトリーから兵士を輸送していたUH-60ブラックホークは、前進作戦基地マレッヅに着陸するため、対地高度1,500フィートまで降下しているところであった。
 その時、CMWS(common missile warning system,共通型ミサイル警報装置)(訳者注:陸海空軍共通の自己防護装備として開発されたミサイル警報装置)の警報音がヘッドセットに鳴り響き、接近中のミサイルが表示器に表示されると同時に、フレアー発射に伴う振動と光が感じられた。2-3数秒後、飛来してきた肩打ち式の地対空ミサイルは、機体から100メートル以上離れたところを何事もなく通過した-フレアーが効果を発揮したのだ!
 ミサイルはフレアーの後を追尾し、ブラックホークは、搭乗員に若干の刺激を与えたものの、何事もなく安全に着陸した。

戦士達の防護

ASE(Aircraft Survivability Equipment, 航空機自己防護システム)は、現在米国が遂行しているCOIN(counterinsurgency, 対テロ)作戦のように、敵のIR誘導ミサイルの脅威にさらされた環境において活動する際に不可欠の装備品である。ASEは、イラクやアフガニスタンにおいても、航空機と戦士達を肩打ち式ミサイルから防護するため、昼夜を問わず働き続けているのである。
 高性能なASEの重要性を理解するためには、現代の防空システムは、交戦時間が極めて短く、ほんの数秒で生きるか死ぬかが決まるということを認識する必要がある。ASEは、発射されたミサイルを搭乗員が反応するよりもはるかに短い時間で自動的に検知・識別し、対応できなければならないのである。
 ASEシステムが効果を発揮できるようにするため、実に多くの目に見えない活動が行われていることを忘れてはならない。本記事においては、ASEミッション・データ(ASEシステムがレーダー及びIR誘導ミサイルからの防護能力を維持するために必要なソフトウエア)の開発、維持及び配布について紹介する。
 敵のミサイル等の種類は、世界のそれぞれの地域毎に異なっている。 この違いは、国力、地域同盟及び経済力というような、多くの要因により生じている。また、ある特定の地域における敵の対空ミサイル等のシステム構成は、既存のシステムの改良又は新規システムの導入等により、時間の経過に伴って変化してゆくものである。このため、我の運用地域の変換に対応するとともに、改良された若しくは新たに開発された敵対空ミサイル等に対抗できる能力を維持するため、ミッション・データ・ソフトウエアをアップ・デートすることが必要となってくる。
 しかしながら、ミッション・データ・ソフトウエアは、搭乗員にとって、「ロード・アンド・フォーゲット(インストールすれば、ほったらかしにできるもの)」ではない。ある運用地域で用いられるソフトウエアの表示、指示及び対応は、他の地域で用いられるソフトウエアのそれとは異なっているかも知れない。また、より完全な防護のためには、フレアー等を発射中または発射後に、何らかのミサイル回避行動を行うことが必要な場合もある。そもそも、コックピットに装備されたASEの画像や音声により、果して全ての情報が得られるものであろうか?貴官の所属する部隊のTACOPS(Tactical Operations, 戦術運用)将校ならば、その答えが「ノー」であることを知っているはずだ。

ASEソフトウエアの開発プロセス

敵の対空ミサイル等の開発及び配備は、1990年代に一旦小康状態となったが、その後、加速度的に進行し始めた。これらの敵のミサイル等を発見し、これらに対抗するためには、あらゆる電子戦闘能力を総動員しなければならない。
先に述べたとおり、敵のミサイル等の種類は地域に応じて異なっており、また、例え同一作戦地域であっても、敵のミサイル等の局地的な設定に対応する必要があるため、多目的ミッション・データのインストールが必要な場合が多い。
 米陸軍の現在の作戦地域で脅威となる敵のミサイル等は、主として個人携行型の地対空ミサイルである。しかし、この状況は、一晩で一変するかも知れない。戦域の拡大や運用地域の変更に伴い、レーダー誘導型の対空機関砲又は地対空ミサイルが濃密に配置されている地域で運用される場合もあり得るからだ。
 敵のミサイル等に関する情報は、あらゆる手段を用いて収集される。収集された情報は、ARAT(Army’s Reprogramming Analysis Team, 陸軍再プログラミング分析チーム)の要員により分析され、ASEミッション・ソフトウエアのプログラミングに活用される。ARATは、様々な部署で構成され、敵ミサイル等の分析、ミッション・データ効果分析、ソフトウエア再プログラミング及び性能確認試験及びミッション・データ・ソフトウエアの配布サービスを実施し、米軍及び数多くの同盟国の戦士を支援している。
 運用地域における敵ミサイル等の構成、敵ミサイル等の識別及び弱点に関する分析は、ARAT-TA(ARAT-Threat Analysis, 敵ミサイル等分析部署)で行われる。 各ASE構成品のミッション・データが現在展開中の航空機を防護できることを確実にするため、分析は継続的に実施される。ミッション・データは、定期的に配布され、最新版に維持されるが、新たな運用地域において必要とされたり、新型の敵ミサイル等又は今までとは異なった敵ミサイルの運用モードが発見されたりした場合には、速やかに開発・配布が行われる。
 ARAT-TAが分析した敵ミサイル等の識別及び対抗手段は、ARAT-SE(ARAT-Software Engineering Section, ARATソフトウェア・エンジニアリング部署)により、ミッション・データ・ソフトウエア(インストール・セットを含む)に反映される。ARAT-SEは、ARAT-TAと緊密に連携しつつ、警報装置及び欺騙装置が必要とするプログラムを作成し、完全な探知、識別及び反応能力を供給して、戦士達が現代の防空環境下において生き残れるようにしている。ミッション・データ・プログラミングが完了したならば、そのソフトウエアはモデリング及びシミュレーション、並びに飛行試験によってその性能が確認される。
 ミッション・データは、アラバマ州フォート・ラッカーに所在するARAT支援セル(SC)、アラバマ州ハンツビル所在のPD-ASE(program director for ASE, ASEプログラム・ディレクター)及びARAT-SC、器材別のASEプロダクト・オフィス、機体プロダクト・マネージャー及び運用部隊の間で調整されたうえで配布される。ミッション・データの配布が承認されたならば、ARAT-OC(ARAT Operations Center, ARATオペレーションズ・センター)は、新しいインストール用セットをSIPRNET(secret internet protocol router network, 秘密インターネット・プロトコロル・ルーター・ネットワーク)を使用して、戦闘ソフトウエア・サバイバビリティ支援ポータル( Army Warfighter Software Survivability Support Portal)に直ちに配信するとともに、注意喚起のメッセージをTACOPS将校宛に送付する。
 ミッション・ソフトウエアの名称は、対象となるASEコンポーネントによって異なっている。通常、ミッション・データは、特定の地域に専用なものであり、航空機に搭載されている再プログラム可能なASEシステム毎に異なったものとなっている。各航空機に適切なソフトウエアがインストールされていることを確認することは、部隊のTACOPS将校の重要な責任のひとつである。 図1参照

図1:ARATプロセスにより、新しい敵ミサイル等のパラメータの偵知、関連する情報の形成、ミッション・データ・セット(陸軍部隊の防護、敵ミサイル等の警報及び目標探知システムに使用するもの)の開発、試験及び配布が統合・自動的に実施される。

ARATの現状

ARATの陸軍航空界に対する支援は、1991年に始まった。砂漠の嵐作戦が終結して、程なくして開設されたARATは、全ての陸軍TSS(Army target sensing systems, 陸軍目標探知システム)用ソフトウエア(陸軍FPS(Army force protection systems, 陸軍戦力(部隊)防護システム)を含む)の再プログラムを迅速に実施する機関として位置づけられ、陸軍TSSを使用している陸軍以外の米軍及びFMS対象国に対する支援も併せて実施している。ARATは、陸軍資材コマンド隷下の通信電子ライフ・サイクル管理コマンド(Communications and Electronics Life Cycle Management Command)のソフトウエア開発センターの構成組織であり、開発後のソフトウエア支援についても、責任を有している。
 今日、ARATが支援しているのは、30種類以上の航空機に搭載されたレーダー、EO/IR(electro-optic/infrared, 電子光学/赤外線)及びその他の目標探知システムである。図2参照。ARATは、軍関係者、企業及び大学関係者との関係を強化しつつ、陸軍ASEの研究、開発、供給及び運用について、適時適切な支援を実施している。PD-ASEと協力することにより、ARATは、ASEの再プログラミングの為の「卓越した研究拠点」を形成し、組織的能力を活用した迅速な再プログラミングを行って陸軍とその戦士に貢献している。
 陸軍資材コマンドの陸軍中将ジェームス・ピルスベリにより署名されたARATプログラムの設立許可書は、国防省のコンピュータ共通管理システムにならい、その基本的事項を定めている。
 ARATは、EWCBA(electronic warfare capabilities based analysis, 電子戦能力ベース分析)の開発に関し、開発中の統合EWCBAを含め、TRADOC(Training and Doctrine Command, 訓練教義コマンド)を支援している。さらに、ARATは、コマンドから部隊への現地派遣技術援助も行っている。部隊に対する現地派遣は、ASEの運用、整備及び機体搭載ASEの故障探求に関して実施されている。また、ARATは、ASEに関するコンピュータを用いた操縦士訓練手法の開発について、TRADOCに対する技術援助を実施している。

図2:ARATの支援対象システム及び部隊等

ARATの将来

ARATは、統合的なASE試験環境の研究開発を今後も継続する予定であり、また、改良型EO/IR及び多スペクトル感応に関する支援能力についても研究開発を予定している。また、特定のTSS及び防護地域に関し、統合レーダー及びIRの探知及び欺騙手段の分野において、継続的な改善を図っている。短期的には、より効果的な欺騙パターンを開発・装備するための能力向上を目的とした活動も実施している。
 ARATの任務は、「監視、捕捉、決定及び実行」というプロセスにおいて、陸軍航空が敵よりも先行することを確実にすることである。そのためには、世界中の敵の能力に関する継続的な分析が必要であり、それにより、世界中に補給されているASEシステムの最良かつ最適なプログラミングが可能となる。ARATプログラム・オフィスは、陸軍及び統合機関を支援するために働き続け、それらの部隊の防護システムが有機的に支援されることを確実にしているのである。
ARATプログラム・オフィスは、製造したソフトウエアに関する迅速かつ高品質な支援が、部隊における戦士達の状況認識及び自己防護性を向上させ、陸軍の改革に貢献できることを願っている。他方、自己防護装置を装備した陸軍航空機の操縦士やその他の戦士達は、ARATが現在及び将来の運用において要求される適時適切な支援を継続できることを望んでいるはずである。

マイケル・クラパンザーノは、ニュージャージー州フォート・マンモスの米陸軍通信電子ライフ・サイクル管理コマンドのソフトウエア開発センターの航空、欺騙及び警報装置プログラム・オフィスの陸軍再プログラミング分析チームのリーダーである。ジョン・グレグ・ウィルコックスは、ワシントンD.C.の陸軍省ARAT連絡将校である。ジェームス・ホーランドは、メリーランド州レキシントン車廠のARATシニア・システム・エンジニアである。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2009年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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