戦争の特性変化に適応する陸軍航空

ペンタゴンからご挨拶申し上げる。ここでは、唯一の定数が「変化」であることを思い知らされている。陸軍は冷戦終結以来最も重要な変革期を迎えている。その変革を推進しているのは、今回も、地政学的および運用上の環境変化である。ウクライナおよび中東の戦場においては、継続的な索敵・標的活動、広大な地域における分散、そして無人システム利用頻度の指数関数的増加などの戦争特性の変化がリアルタイムで観察されている。陸軍航空は、兵士および統合軍に比類なき能力を提供できるように適応を続けている。特に、TiC(Transform in Contact, 作戦を通じた変革)事業を活用した迅速かつ反復的な実験や新機種の装備化により、その射程や殺傷力の拡大を図っている。
空域管理
空域管理は、将来のあらゆる紛争において、これまで以上に複雑化すると予想される。空域は、被我の無人機(drone)、空中発射機器(launched effects)、防空システム(air defense systems)、航空機(aircraft)、ロケット弾・砲弾(rockets and artillery)、電子戦システム(electronic warfare systems)などにより大混雑となるであろう。空域統制のアプローチは、空域の競合を回避することから、その迅速な統合により航空機を効率的に運用できるようにすることへと進化しなければならない。この新しいアプローチには、作戦を同期させ、その競合を回避するための迅速な情報交換が不可欠である。戦場全体における空域利用者の統合を促進するため、各梯隊の地上部隊に適切な航空専門要員を配置し、最新のソフトウェアを操作させなければならない。
陸軍がこの問題を解決するために取り組んでいるのが、空域統制スプリント(Airspace Control Sprint)である。空域統制スプリントは、さまざまな教育研究センター(Centers of Excellence)、機能横断型チーム(Cross Functional Teams)、計画管理室(Project Executive Offices)等を結集し、陸軍が戦術レベルでの短期的な段階的空域管理能力(計画立案、指揮統制、状況把握等)をどのように提供するかを決定し、要求事項を決定し、新規部隊の能力を同期化し、DOTMLPF(Doctrine, Organization, Training, Material, Leadership, Personnel and Facilities, 教義・組織・訓練・資材・統率力及び教育・要員並びに施設)スペクトラムを統合しようとしている。空域統制スプリントは、TiC事業内での2年間の短期的成果を追求しつつ、より変革的かつ長期的な成果への発展を目指している。
無人航空機システム
陸軍が空域管理事業と合わせて大規模な投資を行っているのが、UAS(Unmanned Aircraft Systems, 無人航空機システム)である。UASは指揮官がより広範囲の戦場を感知・観察し、電子戦・対空システムと連携し、非対称的方法により攻撃し、敵の監視・攻撃から防御することを可能にする。それは、現代の戦場における火力および機動を向上させるため、あらゆる種類の編成や梯隊に統合されるべき戦闘能力である。
異なる任務を実行する低位・高位システムを組み合わせた、階層的な統合アプローチが採用されている。軍団(Corps)には少数の精巧なシステムやそのための専門要員が配備されるが、大隊以下においてはMOS(Military Occupational Specialty, 事職業専門技能)を持たない操作員により、より多数の低位かつ費用対効果の高いシステムを運用できなければならない。すべての編成が同じUAS能力の組み合わせを必要とするわけではない。それらの相互運用性は、統一されたネットワーク、開放的なハードウェアおよびソフトウェア・アーキテクチャ、共通的な制御装置により維持され、それぞれの任務と編成を支援する最も先進的で関連性の高い技術へのアクセスが確保される。
このビジョンの完全な実現には、商用イノベーションを活用し、最も関連性の高い技術を迅速、経済的かつ大規模に提供し続けることが必要である。それを成功させるための必須条件は、調達アプローチを加速し、最適化することである。従来の長期のプログラム・オブ・レコード(programs of record, 正式承認装備調達プログラム)から、より短期間の複数契約に移行し、より頻繁な再競争を促すような契約を実現する必要がある。
UASの装備化を進めていた5年前に比べると、現在の事業へのアプローチは全面的に変更された。ここでも重要な事業はTiCである。TiCの下では、戦場での脅威に対する短期的(18-24か月)な解決策の創出に焦点が当てられ、新興技術を統合しつつ、部隊組織の変更を迅速に行うことが可能となった。UASに関しては、COTS(Commercial Off-The-Shelf, 民生品)システムを活用し、それらを兵士に届け、将来の要求事項を把握させつつ訓練を開始する「購入、提供、通知」モデルが促進されている。2024会計年度には、3つのTiC旅団に1,500万ドルを提供してCOTS UASを調達させ、装備品の隙間を補填し、部隊における実験やイノベーションを可能にするパイロット・プログラムが開始された。2025会計年度においては、さらに多くのCOTS UASが調達され、より多くのユーザー・レベルのフィードバックが生成されるようにプログラムの拡大が進められている。
小隊レベルのSRR(Short Range Reconnaissance, 短距離偵察)sUAS(small UAS, 小型UAS)などに関するTiCでは、複数の梯隊に複数のシステムが装備化されている。これまでに、1,138台のシステムが装備化され、今年後半に第2段階の装備化が開始される。MRR(Medium Range Reconnaissance, 中距離偵察)sUASについては、今年中に中隊レベルでの装備化が開始される。また、大隊レベルにおけるLRR(Long Range Reconnaissance, 長距離偵察)sUASについては、2027会計年度に装備化の開始が承認されている。
sUASに関しては、プログラム・オブ・レコードに加え、さまざまなレベルでのDR(directed requirements, 指示要求)を満たすCOTS UASが活用されている。これには、欧州およびハワイの部隊における中隊レベルsUAS DRの装備化が含まれており、MRRプログラム・オブ・レコードの要求事項を実験し通知することが求められている。また、今年後半の能力格差を直ちに是正するため、旅団レベルのUAS DRの装備化も進められている。それぞれのUASは、統合への階層的アプローチを実現するための独自の射程や能力を提供するとともに、TiCの購入・試行・通知モデルに基づく実験やイノベーションを可能にしている。役立つものを拡大し、役立たないものから離脱していく。能力を継続的に刷新し、実世界の脅威や機会に適応してゆくことこそが重要なのである。
旅団レベルでは、滑走路に依存せず、移動中でもRSTA(reconnaissance, surveillance, targeting, attack, 偵察・監視・標的設定・攻撃)能力を提供できるFTUAS(Future Tactical UAS, 将来戦術UAS)の開発が続けられている。また、軍団・師団レベルでは、グレイ・イーグル(Gray Eagle)の運用と維持が継続されている。グレイ・イーグルは、過去20年以上の対反乱戦闘で良好な機能を発揮してきた。その能力向上型ペイロード、オープン・アーキテクチャおよび近代型データ・リンクは、短距離離着陸能力を有し、遠方での感知が可能な装備品が配備されるまでの間、大規模戦闘作戦を支援できるであろう。
空中発射機器
UASと同時並行的に、プラットフォーム、ペイロード、任務システムのいかんに関わらずに能力を発揮できるLE(Launched Effects, 空中発射機器)の開発が進められている。LEは機体、ペイロード、自律機器、ネットワーク機器および制御ソフトウェアから成るシステムであり、戦術や作戦に柔軟性をもたらす。UASと同様に、LEも航空・地上部隊のあらゆる梯隊で運用される。航空科部隊へのLEの配備は、敵防空システムからのスタンドオフを拡大し、その殺傷力と生存性を劇的に向上させることになる。
FLRAA

TiC事業と並行して陸軍航空が取り組んでいるのが、FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)の装備化条件の決定である。現代の戦場における要求事項が変化する中、FLRAAは統合・諸兵科連合チームの大規模戦闘作戦を支援する航空機の能力を大幅に向上させようとしている。ゲーム・チェンジャーとなる速度や航続距離の増大に加えて、ほぼリアルタイムで脅威に適応でき、維持コストを劇的に削減するオープン・システム・アーキテクチャが導入されている。他軍種におけるティルト・ローター機の運用経験から得られた教訓を活用し、最初の航空機が納入されると同時にFLRAAの完全能力を発揮できるようにするため、DOTMLPF全体にわたる取り組みが行われている。
陸軍航空は、複雑な問題に対する革新的解決策と新しい変革的な能力を実現することで、ウクライナや中東の戦場から得られた教訓を活用し、戦争の特性変化にリアルタイムで適応しようとしている。
Above the Best!(さらなる高みを目指せ!)
マット・ブレイマン准将は陸軍本部G-3/5/7陸軍航空部(DAMO-AV)部長、ブライアン・セボルドはDAMO-AV戦略コミュニケーション部長です。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2025年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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