2030-2040年の患者後送(CASEVAC) – 陸軍航空の重要な役割
陸軍航空は、大規模戦闘作戦(large-scale combat operations, LSCO)でのCASEVAC(casualty evacuation, 患者後送)で重要な役割を果たすことになる。その将来の紛争における死傷者の発生は、第1次および第2次世界大戦以来の規模となる可能性がある。
アメリカおよびその同盟国は、ほぼ対等な敵との戦いである大規模戦闘作戦においても、戦場から負傷者を排除し、医療施設まで滞りなく輸送できる能力を保持しなければならない。紛争の激化に伴い、MEDEVAC(medical evacuation, 医療後送)などの患者後送能力が飽和状態となり、陸軍医療システム(Army Health System, AHS)を通じた患者の収容が困難になる恐れがあるからである。
任務を完遂するためには、死傷者の数が急激に増加した場合においても、地上部隊の機動能力の低減を回避しつつ、利用可能なあらゆる手段を用いて患者を後送することが重要となる。そこには、あらかじめ準備された専用機または汎用機をもって患者を後送する陸軍航空の存在が欠かせない。航空および衛生計画は、十分に訓練された練度の高い搭乗員による周到に準備されたCASEVACと連携したものでなければならない。
長年にわたる対反乱作戦によってもたらされた障害
MEDEVACは、20年以上にわたる対反乱(counterinsurgency, COIN)作戦の遂行を通じ、迅速かつ効率的に患者を後送できるように進化を続けてきた。専用の機体と十分に訓練された搭乗員が行う空中MEDEVACは、戦場から迅速に患者を後送するための手段として積極的に用いられてきた。
対反乱作戦においては、死傷者の数が比較的少なく、制空権が脅かされることもなかったため、非戦闘状況下でのMEDEVACが可能であった。このため、負傷者が発生しても、MEDEVAC救助要請から1時間以内に、負傷地点 (point-of-injury, POI) から医療施設まで直接後送し、外科的処置を施すことができた。負傷者の後送に汎用機を利用する場合は少なく、特に大規模なCASEVACにおいてはほとんど皆無であった。
主たる戦いが対反乱作戦になる前には、戦術的および戦略的作戦のいずれにおいても、作戦機によるCACEVACをあらかじめ計画しておくのが常であった。例えば、24名分のリッター装置を短時間で装備できるCH-47は、野戦病院を迅速に移動するための手段として貴重な存在であった。リッター装置は、現在、どの部隊においても耐用年数を超過して払下げが進められているが、このようなCASEVAC能力への要求は依然として大きい。陸軍航空には、十分な予算と時間を投入して訓練を行い、この要求に応えてゆくことが求められている。
MEDEVACとCASEVACはいずれも重要
最近になって、CASEVACドクトリンの提唱者であるアメリカ陸軍衛生教育研究センター(U.S.Army Medical Center of Excellence, MEDCoE)がATP 4-02.13を発出した。CASEVACは、AHS(Army Health System, 陸軍医療システム)自体には含まれていないものの、負傷者を負傷地点からMEDEVACにより移動させる一連の行動の最初のステップになりうるものとして位置づけられている。指揮官であれば、誰もがCASEVACを行う責任がある。
CASEVACをMEDEVACと混同してはならない。CASEVACとは、一般車両または航空機を使用して、経路上で医療行為を行うことなく死傷者を移動させることをいう。死傷者とは、死亡、所在不明、行方不明、病気または負傷が確認され、損耗した人員である(JP 4-02)。CASEVACは、特定の作戦を支援するためにあらかじめ計画される場合もあるが、弾薬輸送を行った車両による死傷者の後送などのように計画外で行われる場合もある。
MEDEVACとは、正式の標識を装着した専用の医療用車両等を使用して、医療従事者による経路上での治療を行いながら、患者治療施設相互間で受傷者、負傷者および病人を適時かつ効率的に移動させることをいう(ATP 4-02.2)。患者とは、医学的に訓練された要員による医療または治療が必要な、病気になったり、負傷または受傷したりした兵士である(FM 4-02)。MEDEVAC用救急車両等は、MEDEVAC任務の遂行およびクラスVIII緊急物資の提供のみを目的としている。その車両等に特別な要求事項はない。ただし、必要性の高い装備品であるにもかかわらず、その装備数量は限定的である。このため、負傷者数がその輸送能力を超過し、MEDEVAC車両等の急激な不足が生じる可能性がある。
CASEVACは、過去20年間のMEDEVAと同じく、用語としても訓練課目としても一般的なものとして扱われなければならない。次の戦いにおいては、MEDEVACとCASEVACのどちらもが欠かせないのである。
CASEVACに関する今後の取り組み
2024年に陸軍の新たな衛生科部隊として編制されることになっているのが、PCAD (Prolonged Care Augmentation Detachment, 長期治療強化分遣隊)である。多様な機能を有するPCAD(または同種の衛生科部隊)は、前方に展開し、MEDEVACが遅延する場合に必要な治療を行うことができる。また、CASEVAC用車両等に同乗し、経路上での治療を行うこともできる。
革新的な自律型生命維持システムを装備することにより、負傷者の状態の遠隔監視、経路上での治療、受け入れ医療施設への患者情報の提供を行うことができる。状況により、一部の医療要員および戦闘救命員が抽出され、CASEVAC用車両等に搭乗する場合もある。
将来的には、AIや人と機械のチーム化による自律輸送システムも活用されるようになってゆくであろう。完全自律型ブラックホークを用いた任務遂行能力の実証も進んでいる。400回分の血液のクラスVIII緊急血液輸送任務およびリアルタイムの患者監視システムを備えた模擬のCASEVAC任務を遂行できることが確認できた。エンジン始動からエンジン停止までの任務全体が自律的に実行されたのである。
関連システムの調達
将来のすべてのシステムには、その要求性能の決定および開発において、CASEVACに関する仕様が盛り込まれる必要がある。戦場から患者を迅速に後送し、医療処理が行われるまでの時間を短縮し、任務復帰の可能性を最大化するためには、任意の有人または無人装備品をCASEVAC用車両等として利用できることが必要なのである。そのためには、必要に応じて、迅速に展開および形態変換を行い、CASEVAC用車両等として運用できなければならない。
量産が始まってからそのための改修を行うことを避けるため、CASEVACに関する仕様は、調達段階から盛り込まれていなければならない。JLTV(Joint Light Tactical Vehicle, 統合軽戦術車両)から得られた教訓は、量産後の患者後送能力の追加には多額の費用を要し、ひいては部隊の負担を増大させるということであった。
自律/無人機を含む、人員を輸送できるすべての将来型航空機の開発および資金調達においても、CASEVACを積極的に考慮しなければならない。加えて、受傷者をMEDEVACに引き継ぐまでの輸送間に必要なCASEVACキットの装備化についても検討すべきである。
最後に
制空権を確保できていた対反乱作戦が過去20年間続いたことから、CASEVACの練度はほとんど失われてしまった。将来の作戦環境においては、負傷者数がさらに増大し、短期間でMEDEVACの能力を超過する可能性がある中、その重要度が増大している。CASEVACは、MEDEVACの作戦領域を補完および拡張することにより、戦闘状況下での兵站問題を克服しつつ、戦場から負傷者を回収し、任務への復帰を促すために欠かせない。他任務と連携したCASVACを計画し、訓練し、予行することが求められている。また、将来の戦いに備えるため、新規システムの導入に際しては、CASEVACに関する考慮事項を改めて検討し、当該システムが的確に開発されるようにしなければならない。CASEVACの実施には選択の余地はなく、その必要性は後付けの理屈などではないのである。
サミュエル・L・フリックス大佐は、アラバマ州フォート・ラッカーに所在する陸軍将来コマンド(Army Futures Command, AFC)将来および構想センター(Futures and Concepts Center, FCC)衛生能力開発統合局(Medical Capabilities Development Integration Directorate, CDID)医療後送構想および能力部(Medical Evacuation Concepts&Capabilities Division, MECCD)の部長である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
CASEVAC(患者後送)とMEDEVAC(医療後送)は、しっかり区分して翻訳しなければならないと、改めて認識しました。
偵察や対戦車戦闘といった役割が無人機へと移行しようとする中、陸上自衛隊のヘリコプターにおいても、CASEVACへの対応がこれまで以上に重要になってゆくことでしょう。