UH-145導入決定とEADSノース・アメリカ社の米陸軍航空への参入
2006年、EADSノース・アメリカ社のUH-145が米陸軍の新型軽多用途ヘリ(LUH, Light Utility Helicopter)に選定された。EADSノース・アメリカ社は、これまでも各種対テロ用装備品等を米陸軍に供給してきたが、その支援の範囲をさらに広げることになった。
また、UH-145製造による労働需要の増大や、航空機ユーザーとの良好な関係の構築等により、EADSノース・アメリカ社の米国内における存在価値は確実に高まっている。
UH-145軽多用途ヘリ(LUH)
EADS社は世界第2位の防衛・航空宇宙関連企業であり、その米国内における事業体がEADSノース・アメリカ社であるが、その機体が米陸軍に導入されるのは、今回のUH-145が初めてのことである。UH-145が、最大で322機の調達が予定されている米陸軍用LUHとして採用されることとなった背景には、国防省、沿岸警備隊、通関国境警備、DEA(米連邦麻薬取締局)、FBI(米連邦捜査局)等の各行政機関に対し、過去20年間にわたって航空機を供給してきたEADSノース・アメリカ社の実績がある。
これらの機関において、緊急患者空輸、捜索・救難、犯罪捜査、海上輸送等、LUHに求められる用途とほぼ同一の用途に使用されてきたのがEC145多目的ヘリであり、UH-145はこの機体をベースに製造された。
以下、今回新しく米陸軍用ヘリコプターの仲間入りを果たしたUH-145の概要について紹介する。
航空機用統合化コックピットの開発に関するEADS社の豊富な経験を生かして開発されたUH-145のデータ通信能力やNVG対応グラス・コックピット等は、米陸軍操縦士のニーズに十分に応えるものとなっている。計器板には、4×5インチの高機能多目的ディスプレイとVEMD (vehicle and engine management displays, 機体・エンジン管理ディスプレイ)が装備され、飛行情報及び機体システム情報の統合表示が可能であり、操縦士の状況認識の向上とワークロードの軽減が図られている。
メイン・キャビンには、2名のパイロット以外に8人の兵士が搭乗可能であり、兵員用座席には耐クラッシュ性と取付・取外容易性の双方を考慮した設計がなされている。このため、通常の人員輸送用レイアウトから、MEDEVAC(Medical Evacuation, 患者後送)用、兵站空輸用及び複合任務用レイアウトへの変更が迅速に実施可能である。
さらにメイン・ローター及びテール・ローターの位置が高いため、ローター回転中であっても、機体両側の大型スライディング・ドア及び機体後方のクラムシェル・ドアから、安全かつ迅速に搭載・卸下が可能である。
安全性及び信頼性に定評のあるEADS社製ヘリコプターの例にもれず、UH-145のオートパイロット、GPSナビゲーション・システム、VOR、エア・データ・コンピュータ及びフライト・コントロール・ディスプレイ・モジュールは、完全な冗長性を有している。
機体の両側面には、折りたたみ式のステップが装備され、エンジン及びメイン・ローターへのアクセスを容易にしている。
ヒンジレス(リジット)ローター・システムは、いかなる飛行状態においても良好な操縦性を有しており、低空の飛行、タービュランスからの離脱、障害物の回避等に際して必要となる急激な機動においても、十分な操舵マージンが確保されている。
エンジンは、高い安全性、性能及び耐久性を誇るアリエル社製ターボ・シャフト・エンジンであり、潤滑・電気系統は各エンジン別々の冗長性を有しており、オーバーホール間隔は3,000飛行時間となっている。機体側の燃料系統もエンジン毎に独立した2つの系統で構成され、約30分間の予備燃料を確保したうえで、約2.5時間の飛行が可能である。
現在、UH-145の製造は、最終組立のみがミシシッピ州コロンバスに所在するアメリカン・ユーロコプター社(EADSノース・アメリカ社の一部門)の工場で実施されているが、将来は全ての生産工程がこの工場で実施される予定である。この生産要領の変更は段階的に実施され、その間に、コロンバス工場は現在のほぼ3倍に拡大されるであろう。
UH-145の生産、調達、訓練及び維持は、関係する製造会社等で構成されるUH-145チームにより実施されるが、その主体となるのは、主契約者であるEADSノース・アメリカ社である。現在、EADSノース・アメリカ社の工場においては、2007年に実施予定の運用試験に向けて準備するため、MEDEVAC形態における衛生器材の搭載状態を確認中である。また、11月からはUH-145の操縦・整備訓練が開始される予定であり、装備化のための諸準備は順調に進んでいる。機体の生産・維持、操縦・整備訓練等以外の部分については、米国内の関連下請業者がその役割を担っている。
民間用ヘリの先進技術を有効活用するという米陸軍の要求に基づき、従来のいわゆる「開発機」とは異なる新しい枠組みの中で調達されたUH-145は、陸軍航空の歴史に新たなページを加えることになるであろう。
C-295JCA
EADSノース・アメリカ社は、また、レイセオン社とともに、米陸軍・空軍用統合輸送機の候補機としてC-295JCA(Joint Cargo Aircraft, 統合輸送機)を共同提案している。
EADS CASA社が製造しているC-295は、イラク及びアフガニスタンにおけるNATO諸国支援に使用される等、戦場における十分な運用実績を有する機体である。この機体は、既にFAAの耐空証明を取得済みであり、スペイン、ポーランド、ブラジル及びヨルダンにおいて、兵站・航空輸送用軍用機として7年間以上の運用実績がある。さらに、ポルトガル、フィンランド及びポーランド向けの機体が現在製造中であり、オーストラリア、スイス及びアラブ首長国連邦においても正式に採用が決定している。この機体は、同系列機のCN-235シリーズを加えると、既に合計100万時間以上の運用実績を有している。
C-295は、71名の兵員又は5個のパレットを搭載可能であり、CH-47やC-130との共通性を考慮した設計がなされているため、標準の463L型パレットが使用可能である。C-295の胴体を短縮したCN-235は、沿岸警備隊の新型の遠洋監視機として導入が決定しており、本年度に納入開始の予定である。
SETIシステム
EADSノース・アメリカ社は、航空機の製造以外の分野においても米陸軍に対する支援を模索しており、米陸軍用地上エンジン試験装置として、SETI(Shaft Engine Test Instrumentation, シャフト・エンジン・テスト装置)システムを提案した。
既に4台のSETIシステムの生産を受注しており、従来の手動式テスト・システムの更新用として各地の飛行部隊等に補給が予定されている。本システムの導入により、データの取得、処理及び転送が自動化され、運用経費の低減及び各種試験要求への柔軟な対応が可能となる。このシステムは、海軍の高段階整備部隊での使用を目的として、T58、T700及びT64ターボ・シャフト・エンジン用に設計されたものであり、新型のVH-71大統領専用ヘリ用のエンジンにも対応が可能である。
兵士達の支援
EADSノース・アメリカ社は、単に製品を供給するだけではなく、各種の慈善事業の実施により兵士とその家族を支援している。
AAAA(Army Aviation Association of America)に奨学金のための新たな基金がEADSノース・アメリカ社により設立され、その最初の奨学金は、ホイートン大学在学中のMegan K. Stewartに贈呈された。EADSノース・アメリカ社は、今後もこの奨学金制度のさらなる発展に貢献し、AAAAとの連携をさらに深めてゆくことであろう。
2006年、EADSノース・アメリカ社はLUHの製造会社に選定され、米陸軍航空への仲間入りを果たした。これからは、米陸軍の任務遂行に対し、より広範囲の分野にわたって、より積極的な支援を実施してゆくことになろう。
トム・ハリソン(元陸軍大佐)は、 EADSノース・アメリカ社ディフェンス部門の副プレジデントであり、LUH担当のプログラム・マネージャである。
訳者注:「UH-145」は、2006年12月11日に初号機が米陸軍に納入された。その際、名称が「UH-72A ラコタ」に変更されている。なお、この機体のベースとなっているEADS社のEC145は、元々は日本の川崎重工業と共同で開発された機体であり、同社のBK-117と共通する部分が多い。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2006年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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