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陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:より速く、より遠くまで飛ぶために

FARAの空力効率を向上させるための設計手法

トーマス・L・トンプソン博士

陸軍のFARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)には、現行機であるOH-58Dカイオワよりも、50%以上速くかつ遠くまで飛行できることが求められています。この果敢な目標を達成するため、FARA機には、GE T901改良型タービン・エンジン(Improved Turbine Engine, ITE)が搭載されることになっています。このエンジンは、現行機種に搭載されているエンジンよりも、(エンジン重量あたりの)利用馬力が非常に大きく、かつ、燃料消費率(1時間あたりの馬力あたりの燃料消費量)が少なくなっています。さらに、FARA機の設計者たちは、(1)メインローターが必要とする揚力および推進力を減少させ、(2)ローター速度の減少およびブレード先端の形状を工夫することで必要馬力を減らし、(3)胴体の抵抗を最小限にすることにより、空力効率を向上させようとしています。この記事では、これら3つの手法について、より細かく説明することにします。

ケンタッキー州キャンベルのドン・F・プラット博物館(Don F. Pratt Museum)前に展示されているAH-56Aシャイアン攻撃ヘリコプター(写真提供:ドン・F・プラット博物館)

回転翼航空機の速度と航続距離は、揚力や前進推力を得るために翼や補助推進装置を使うことで向上できることは、以前からわかっていました。このため、これまで長年に渡って、さまざまな複合ヘリコプターが試作されてきました。そのひとつが、1960年代後半に陸軍とロッキードによって開発された攻撃ヘリコプター試作機であるAH-56Aシャイアンです。胴体下部に翼を持ち、後部に推進プロペラを備えたシャイアンは、最大水平飛行速度220ノットを達成し、その機体に課せられた要求性能を満足していました。しかし、その製造は、ローターダイナミクス(回転機械の振動)の問題やコストの超過により、キャンセルされてしまいました。2010年には、シコルスキー社が推進プロペラを備えた小型の同軸反転ローター式回転翼機であるX2技術実証機を開発し、最大水平飛行速度253ノットを記録しました。2015年には、それよりやや大型の後継機であるS-97レイダーが初飛行に成功しました。この機体は、現在、FARA競争試作プログラム用機として製造および試験が行われているレイダーXの設計に必要な技術実証のために用いられています(S-97レイダーの大きさは、レイダーXの約80%です)。一方、FARAのシコルスキー社のライバルであるベル・ヘリコプター社は、高速飛行時に必要な揚力の約3分の1を発生する翼を持った360インビクタス(訳者注:原文には機種名の記載なし)を設計しています。

FARAの設計者たちは、メインローターに必要とされる揚力と推進力を減らすことに加えて、高速飛行時のローター回転速度(RPM)を遅くして、ブレード先端のマッハ数を減らし、圧縮抵抗(compressibility drag)を低く抑えようとしています。また、より高いマッハ数で発生する造波抵抗と衝撃誘起境界層剥離による圧縮抵抗についても、ブレードの先端に薄い翼形を使用し、かつブレードの先端を後退させることにより、ローターディスクの前進側(つまり、ブレードが飛行方向に向かって回転している側)のブレードが「出会う」有効マッハ数を減らすことによって最小限に止めようとしています。これらの設計構想により、圧縮効果の発生を遅らせ、ローターの必要馬力を減らすことができます。

前進飛行性能を向上させるための3番目の手法は、機体の抵抗を少なくすることです。抵抗は対気速度の2乗に比例するので、FARA機の巡航速度が180ノットだとすると、その外部に取り付けられた機器に生じる抵抗は、巡航速度約105ノットのOH-58Dに取り付けられた同一の機器に生じる抵抗のほぼ3倍になります。このため、FARA機は、兵器格納ベイ、引き込み式降着装置、流線型の胴体、埋込式のセンサーおよび外気インレット、フェアリングが装着されたガンタレット、およびフェアリングを装着することでローターピッチリンクやダンパーの露出を最小限にしたローターハブを装備しています(ローターハブの抵抗は、機体全体の抵抗の50%に達することもあります)。これらの設計は、縮尺模型を用いた風洞試験数値流体力学分析の結果に基づいて修正され、機体抵抗の大きさが精密に推定されます。その値は、設計の進捗に応じて飛行性能技術者が設定した目標値を下回っているか、確認が行われます。最後に、FARA機の高速飛行時の飛行制御則(舵面を動かす法則)は、機体抵抗と必要馬力を最小限にしつつ機体のトリムを維持できるように、エレベータや水平尾翼の迎え角を調整します。

空力効率は、FARA機が要求性能を満たすための鍵となっていますが、機体の開発および承認において、速度、ペイロードおよび航続距離に制約をもたらす可能性のある要素には、これ以外にも、機体重量、搭載重量、振動などがあります。これら3つの要因が持つ潜在的な制約を理解し、予測し、制御することの重要性については、別の記事で改めて説明したいと思っています。

トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在するアメリカ陸軍戦闘能力開発コマンド航空およびミサイルセンター(U.S. Army Combat Capabilities Development Command Aviation & Missile Center)航空力学システム即応維持部局(Aeromechanics Systems Readiness Directorate)のチーフエンジニアである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2021年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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