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陸軍航空の情報センター

FVL(将来型垂直離着陸機計画)機能横断型チームの現況

少将 ウォルター・T・リューゲン(共著:中佐 ジョン・マイケル・マクレーン)

FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)機能横断型チームは、航空企業、統合企業、および業界パートナーとともに順調な滑り出しを続けている。アメリカ陸軍の軍団および師団に変革的な機動力と作戦遂行頻度がもたらされようとしていることに、大いなる期待を抱いている。

この5月に実施される予定のエクスペリメンタル・デモンストレーション・ゲートウェイ・イベント21においては、新たな戦術、技術および相互接続アーキテクチャが用いられ、ジョイント・キルチェーンの変革など、これまでの業績を踏まえた、さらなる前進が期待されている。加えて、航空領域の下層域におけるJADC2(Joint All Domain Command and Control, 全領域統合指揮通信能力)の発揮に向けた革新的取り組みにより、FARA(将来型攻撃偵察機)装備系列の到達性および殺傷性がさらに拡張されようとしている。ジョイント・キル チェーンの確立へのFVLの貢献度を理解するためには、実験、実証および忠実度の高いモデル化に着目することが重要である。

2021年3月、FTUAS(Future Tactical UAS, 将来戦術UAS)ロデオにおいてジョージア州フォート ベニングに着陸するアークラウラス・ジャンプ20

FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)

FARA は、陸軍航空の近代化の最優先事項である。供給業者の約30%がすでに製造に着手しており、2022年12月までに飛行が開始される予定である。装備系列として統合的に運用されることにより、FARAの速度、行動半径、耐久性、および生存性は、比較的安全な地域からの作戦遂行を可能とし、損耗が許容できるALE(Air Launched Effects, 空中発射型UAV)がもたらすメッシュネットワークを活用して敵を識別、照準および攻撃し、かつLRPM(Long Range Precision Munition, 長射程高精度弾薬)により30キロメートル以上の範囲のA2AD/IADS(anti-access/anti-denial, 接近阻止・領域拒否、integrated air defense systems, 統合防空システム)を実質的に無効化することが期待されている。装備系列としてのFARAは、現有装備品の能力を超えてジョイント・キルチェーンを促進・拡大させ、将来の戦闘活動範囲を強化するのである。

今年の3月、陸軍はベル社の360インビクタスとシコルスキー社のレイダーXをFARAの競争試作機に選定し、開発継続を決定した。現在、両社は、それぞれの競争試作機を製造中であり、2023年度第1四半期までに初飛行を行う予定である。機能横断型チームは、PEO Aviation(program executive office aviation, 航空計画管理室)と継続的に連携し、特にFARAの重要な技術、特にITEP(improved Turbine Engine program, 改良型タービン エンジン プログラム )、XM915 20mm機関砲、MEL(Modular Effects Launcher, モジュラー型機器発射器)の統合について、その進捗(しんちょく)状況を監視する。FARAの開発要求性能は、現在、陸軍上層部の承認を待っているところであり、5月までに承認される予定である。2021年度予算が増額されたことは、このプログラムの過去4年間の進捗が極めて順調であったことを表している。

FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)

FLRAAの速度、行動半径、耐久性、および機動性は、UH-60に代わる陸軍次世代型強襲機の変革の方向性を体現している。ベル社のティルトローターV-280「バロー」とシコルスキー・ボーイングの同軸揚力オフセット複合ヘリコプター・デファイアントXは、JADO (Joint All Domain Operations, 統合全領域作戦)戦闘環境のあらゆる局面において、革新的な戦術効果を発揮できる能力を有しており、2030年に最初の機体の配備が予定されている。

昨年10月には、FLRAAの開発要求性能が陸軍の上層部により承認された。FLRAAプロジェクト・マネージャ・オフィスは、CD&RR(Competitive Demonstration and Risk Reduction, 継続的な競争実証・リスク軽減)への取り組みを通じて、JMR-TD(Joint Multi-Role Technology Demonstration, 統合多機能技術実証)の機体設計をデファイアントXおよびバローの装備設計へと変換するための改良と熟成を続けた。CD&RR の卓越した価値を認識した議会は、このプログラムに9,050万ドルの予算を追加し、第2段階の資金を準備した。FLRAA計画は、2022年の夏までに行われる予定の陸軍による機種選定までの間、その着実な進捗が維持されることであろう。

FUAS(Future Unmanned Aircraft Systems. 将来型無人航空機システム)

60キロメートル以上の到達性拡張を実現するALE(Air Launched Effects, 空中発射型UAV)としてプロジェクト・コンバージェンス20に参加したエリアIアルティウス600

FUASシステム系列のFTUAS(Future Tactical UAS, 将来戦術UAS)、ALE(Air Launched Effects, 空中発射型UAV)、およびSCI(Scalable Control Interface, 拡張型制御インターフェース)は、試作機を兵士のもとに直接供給することにより、「買って、試して、役立てる」という手法を実現している。

3月には、4機の垂直離着陸 (VTOL)型FTUASの試作機がFORSCOM(United States Army Forces Command, アメリカ陸軍総軍)の5つのBCT(brigade combat teams, 旅団戦闘団)に装備された。滑走路への依存から解放されたこの機体は、FTUASの戦闘環境への適応に改革をもたらした。FTUASの「試して、役立てる」という取り組みは、先月、ジョージア州フォートベニングで開催されたFTUASロデオにおいて最高潮に達した。平等な立場でデモンストレーションに参加した陸軍の指導者、BCTの運用者および業界パートナーは、要求性能を明確にすることによりRQ-7Bの更新を加速するための円卓会議を開催した。

小型、静粛かつ連携可能なALEは、状況認識を容易にし、ジョイント・キル・チェーンを確立する。昨年5月には、ALEの開発要求性能が承認された。8月までに、技術開発の速度を維持するため、10件、約3,000万ドルのALE開発契約が締結された。プロジェクト・コンバージェンス20では、このコンセプトを発展させ、メッシュネットワークを60キロメートルまで拡張する6種類のALEを同時に使用して、その到達性および致死性を検証した。

FTUASが滑走路への依存からBCTを解放したのと同様に、SCIは、プロジェクト・コンバージェンス20で統合戦術航空管制官が実証してみせたとおり、運用者を地上管制局から解放する。さらに重要なことに、SCI は、相互運用性を向上させて迅速な情報伝達を促進し、センサーおよび武装をほぼ即時に制御することを可能にして、JADC2(Joint All Domain Command and Control, 全領域統合指揮通信能力)キル・チェーンにおける陸軍航空の有効性を拡大する。SCI の能力開発要求性能は、正式な承認手続きを待っている状態であり、2021年度に承認される予定である。

MOSA(modular open-system architecture, モジュラー方式オープン・システム・アーキテクチャ)

FARA、FLRAA、および FUASは革新的な機能を提供するが、MOSAは、これらの装備品が今後何十年にもわたって決定的な優位性を維持することを保証しようとするものである。FVLに関する取り組みののなかでも最も重要な事業であるMOSAは、機体と任務システム間のシステム相互運用性に資するための、公に定義されたデジタル・バックボーンを用いた経路を提供する。MOSAに対応したデジタル・バックボーンにより、陸軍航空は、敵の新たな脅威を凌駕(りょうが)する速度で新しい機能を迅速に導入することが可能となる。MSAD(Mission Systems Architecture Demo, 任務システム基本設計概念実証)およびFVL ACWG(Architecture Collaborative Working Group, Future Vertical Lift Architecture Collaboration Working Group, 基本概念共同研究ワーキング・グループ)の取り組みにより、オープン・インターフェースの標準化および仕様の決定に着手することができた。MOSAのFVLシステムへの統合に関する初期開発要求性能は、昨年、陸軍上層部により承認された。

殺傷性

32キロメートル先の水上目標に対して射撃を実施するためフロリダ沖でホバリングする、スパイクNLOSミサイルを搭載したAH-64E

FVLの殺傷性は、武装の精度向上と有効射程拡大に引き続き焦点を当て、能力向上および射程延伸が著しい敵のA2AD/IADS(anti-access/anti-denial, 接近阻止・領域拒否、integrated air defense systems, 統合防空システム))を凌駕しようとしている。2月には、エグリン空軍基地でスパイクNLOS(Non-Line of Sight, 非直接照準)ミサイルの海上実証試験が機能横断チームにより実施され、海洋環境での殺傷性と敵の高速近海戦闘艇などを用いた特殊作戦任務に対する有効性が検証された。スパイクNLOSは、標的の船舶に32キロメートルの距離から命中し、マルチドメイン環境下での有効性を証明した。陸軍は、暫定的に採用されているこのスパイクNLOSの後継として、LRPM(Long Range Precision Munition, 長射程高精度弾薬)シュートオフを2022年後半に指名する予定であるとしている。

生存性

FVLの生存性は、DVE(degraded visual environment, 悪視程環境)における高速低高度任務の遂行を可能にするための技術開発と統合に重点を置き、敵の対等もしくはほぼ対等なマルチドメイン脅威に対抗しようとしている。このため、最新の共通的かつ物理的なDVE解決法の確立に焦点を定め、誘導センサーおよび地形データベースを利用することにより360度の状況把握能力の向上させようとしている。FVLのDVEインクリメント1の要求性能は、陸軍上級指導者の承認を受けている最中であり、今後数カ月以内に承認されることであろう。

到達性

昨年9月、プロジェクト・コンバージェンス20において、FVL装備系列が戦闘状況下のA2AD/IADS(anti-access/anti-denial, 接近阻止・領域拒否、integrated air defense systems, 統合防空システム)領域の縦深部に到達するための手法が紹介された。FVL機能横断型チームは、他の機能横断型チームと提携して、高度な照準、通信、およびマルチドメイン情報の共有に関する実験および実証を行っている。タクティカル・スペース・レイヤー(Tactical Space Layer)からの情報をにより目標が指定されると、それを引き継いだFARA装備系列は、6機のアルティウスALEを放出し、FARA の前方探索範囲の60キロメートル先にメッシュネットワークを確立して、目標の照準および通信を容易にする。AI(Artificial Intelligence, 人工知能)、AiTDR(aided Threat Detection and Recognition, 支援された脅威の検出と認識)、および自動化された情報・目標指示(automated information and target dissemination)によって、センサーから発射機までの処理時間は数十分から数十秒へと短縮され、FVLがJADC2キル・チェーンに変革をもたらそうとしていることが明確に実証された。

ライフサイクルコスト

FVLは、AMCOM(U.S. Army Aviation and Missile Command, 航空・ミサイル・コマンド)およびいくつかの学術機関と提携し、革新的な検討および実践を行い、ライフサイクルコスト、任務への即応性および派遣先での整備性の向上が図られている。イノベーションおよびエンジニアリング軍事アカデミーセンター( The United States Military Academy Center for Innovation and Engineering)は、メンテナンスフリー運用可能期間(Maintenance Free Operating Period)の評価を行っている。サウスカロライナ大学は、陸軍航空の物的即応性を強化し、FVLプログラムにおけるコスト削減の優先事項を特定するための調査を行っている。ウィチタ州立大学と国立航空研究所(National Institute of Aviation Research)は、UH-60Lをデジタル化して、現在のシステムの即応性を向上し、コストを削減して、将来のシステムに大きな可能性をもたらそうとしている。

モデリングおよびシミュレーション

昨年、機能横断型チームのモデリング・チームは、米陸軍航空教育研究センター、研究分析センター、および米国政府の主要な脅威および能力関連機関と提携し、海上防御作戦におけるFVL装備系列の有効性を検証するための詳細かつ忠実なモデルを完成させた。この敵の脅威の範囲と交戦確率をはるかに超えた取り組みは、この領域に関する応用物理学、秘匿された敵の能力、および適用される戦術を厳格に評価し、航空領域の下層域におけるFVL装備系列の決定的地位の理解を助けた。要するに、FVL の到達性、生存性、および殺傷性は、作戦および戦略に現在は存在しない機会を生み出すのである。

結 論

昨年、FVL機能横断型チームおよび航空企業は、重要なマイルストーンを達成し、航空領域の下層域を支配する機体に革新的な機動能力と作戦頻度をもたらすための衝力を維持してきた。継続的な連携、同調、および職種としての過酷な選択を継続し、2030年にはFARA、FLRAA、および関連する主要器材を部隊に供給することになっている。

フォージ・ザ・フューチャー!(将来を担うために!)

ウォルター・T・リューゲン少将は、アラバマ州レッドストーン工廠のアメリカ陸軍将来コマンドFVL機能横断型チームの部長であり、ジョン・マイケル・マクレーン中佐は、同チームの主席統合将校である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2021年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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