AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

バード・ストライクの脅威度

大型回転翼機の要求性能の変化

ティア・ラーセンカルカノ
ホイ・ケン・ホアン

耐空性を保証するための要求事項は、設計保証コンセプト(concept of design assurance)に基づいて決定されます。その要求事項が保証する対象には、ソフトウェアの完全性やハードウェアの構造強度だけではなく、環境要因への耐性も含まれています。

環境要因への耐性を保持するためには、対象となる環境を把握し、定義し、その範囲を明確にするとともに、それに対応するための要求事項に変化が生じる可能性があることを理解しておかなければなりません。環境を変えることはできませんし、軍用機の場合、飛行する環境の範囲を変えることもできませんが、環境に関する要因を定義し理解することで、一部の「既知の要因」に対して耐性を持つ要求事項を設定することが可能となるのです。

現在進められている、ウインドシールドのバード・ストライク・テストにおける鳥の大きさに関する要求事項の検討にも、この理解と評価のプロセスが適用されています。FAA(Federal Aviation Administration, 連邦航空局)は、現在、CFR(Code of Federal Regulations, 連邦規則集)第14巻の29.631に従い、2.2ポンド(約1.0キログラム)の鳥でテストすることを要求しています。これに対し、アメリカ陸軍は、MIL-I-81752、ASTM(American Society for Testing and Materials, 米国試験材料協会)F330、およびAMACC(Army Military Airworthiness Certification Criteria, 陸軍安全性認定基準)に従い、4.0ポンド(約1.8キログラム)の鳥でテストを行っています。しかしながら、アメリカ陸軍のFVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)、FAAのアーバン・エア・モビリティ(都市型航空交通)やeVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft, 電動垂直離着陸機)への取り組みが進む中、低高度での高速飛行の機会が増加し、大型回転翼機の運用環境に変化が生じようとしています。バード・ストライクは、一般的に、低高度を飛行するクリティカル・フェーズ(離着陸時)に発生しやすいため、これらの領域での飛行が増加するに従って、その発生頻度も増加することが予想されます。

第1に必要なのは、現在議論されている問題が何なのかを理解することです。ある事象がもたらす危険性は、事故に至る可能性とそれが及ぼす影響という、2つの側面から評価されるべきでしょう。バード・ストライクが事故に至る可能性に関しては、FAAが公開している野生生物データベースによると、2000年から2020年までの間に200,000 件を超えるバード・ストライク事故が発生しており、ウインドシールドに衝突したものはそのうちの約26,000件であることが分かります。さらに大型の鳥によるものは約 1,000 件であり、ウインドシールドが損傷したものはその25%でした。バード・ストライククが及ぼす影響に関しては、機体が墜落することはほとんどありませんが、視界が低下したり、コックピット内飛び散ったウインドシールドの破片により搭乗員が負傷したりする可能性があります。機体が墜落することも、全くないわけではありません。

第2に必要なのは、新たな飛行エンベロープがバード・ストライクに生じさせる変化を理解することです。アメリカ合衆国南部(訳者注:アメリカ合衆国の東南部の16の州を指す)では、鳥、特に大型の鳥が低空を飛びやすい傾向があり、フロリダ州はバード・ストライクの報告件数が最も多い州となっています。バード・ストライクは、離・着陸時のクリティカル・フェーズで発生するのが一般的で、その多くは水辺で発生しており、ウインドシールドに衝突したケースの84%は高度10,000 フィート以下で発生しています。加えて、アメリカ合衆国南部は、FAAに認定された現役パイロットの人口が最も多い(2022 年の統計によれば、総パイロット数757,000名のうち125,000名)地域でもあります。このパイロット人口の密集と10,000フィート以下での飛行時間の増加は、それだけでは安全性に影響を与えませんが、バード・ストライクの発生率を考慮に入れたならば、事故の要因を著しく増加させることになります。

設計者が制御できない予測不可能な環境上の要因を完全になくすことは不可能ですが、予期可能な既知の要因も少なくありません。バード・ストライクは、これまでもパイロットにとって脅威であり続けてきましたが、飛行エンベロープの低空領域への拡大に伴い、ウインドシールドに関する要求事項(鳥の大きさ)を再検討すべき時期を迎えていると言えます。鳥類が最も多く生息する地域に多くのパイロットが存在し、かつ、低高度領域での飛行時間が増加することを踏まえると、バード・ストライクはこれからも重大な懸案事項であり続けることでしょう。

ティア・ラーセンカルカノ氏はアラバマ州レッドストーン工廠の航空及びミサイル・センターで勤務する工学生理学者であり、ホイ・ケン・ホアン氏は同センターで勤務する電子エンジニアである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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