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陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:鋼の水素ぜい化

デビッドB.クリップス

には多くの種類があり、一般的には、その用途に応じて、最も適合した種類の鋼が用いられる。鋼の持つ特性は、その種類によって異なり、ある特定の用途に適合したり、適合しなかったりするのである。ヘリコプターの設計においては、数種類の高張力炭素鋼の中から、その特性に応じて、用途に適したものが選択される。残念なことに、その中には、各種の悪条件に対して脆弱なものもある。

Hydrogen Embrittlement in Steel
図1-水素ぜい化の過程

そのような悪条件の1つに、水素ぜい化と呼ばれる、環境が原因で亀裂が生じさせる現象がある。一部の炭素鋼においては、通常の環境温度においても、自由水素が原子の形態(H)または分子の形態(H2)で吸収される。鋼に吸収された水素は、徐々に粒界の中に入り込んで寄り集まり、図1に示すような水素の泡を形成する。水素の量が十分になると、その泡は、粒界を傷つけ、鋼の延性を損ない、強度を低下させることになる。強度の低下した鋼に引っ張り応力が加わると、クラックが発生し、機械的破壊が生じて、それが用いられている機体構成品に不具合が生じさせる可能性がある。

図2は、水素ぜい化により破損したボルトを示す。図3は、水素ぜい化により破壊された鋼の破断面を撮影した走査型電子顕微鏡の画像であり、粒界が確認できる。

Hydrogen Embrittlement in Steel
図2-電気めっきが施されたボルトに生じた水素ぜい化
Hydrogen Embrittlement in Steel
図3-水素ぜい化が生じた破断面の電子顕微鏡写真

幸いなことに、通常の運用環境において、航空機用部品が自由水素にさらされる機会は、まずないと言ってよい。ただし、その製造工程においては、その機会が多少なりとも存在する。良く知られているものの一例として、電気めっきがある。電気めっきとは、部品を溶液に浸して電流を流し、溶液中のめっき金属を部品の表面に堆積させる手法である。この手法は、めっき(主として亜鉛めっき)が必要な航空機用締結部品類(ナット、ボルト、スクリューなど)に広く用いられている。これらの部品類には、違う種類の金属が接触することによって生じる異種金属接触腐食を防止する必要があるためである。

さらなる一例として、酸洗処理がある。酸洗処理とは、部品を酸浴槽に浸して酸化スケール、さびなどの表面不純物を除去する手法である。
ただし、これらの製造工程中において水素ぜい化の発生を防止するための方策は、すでに確立され、実証されている。自由水素にさらされた鋼に、特定の温度と時間の加熱処理(ベーキング)を行うと、自由水素を鋼から遊離させることができるのである。その加熱時間と温度は、鋼の種類とそれが自由水素にさらされた工程に応じて異なる。鋼製の締結部品に亜鉛めっきを行った場合の一般的な温度と時間は、華氏約400度(摂氏約204度)で数時間である。

これらの工程は、一般の製造規格に明確に規定されており、その実施は、航空機、構成品、補給用部品等の製造契約書により要求されている。装備品の契約においては、国防契約管理局が製造工程を監督し、これらの重要な工程が適切に行われていることを確認している。
これらの処置が適切に実施されている限り、水素ぜい化に関する陸軍航空の安全性は確保できていると言ってよいであろう。

デイビッド クリシップス氏は、アラバマ州レッドストーン工廠の米陸軍航空およびミサイル研究、開発および工学センターの航空技術部局の副部長です。

出典:ARMY AVIATION, January 2019, Army Aviation Association of America

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

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