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陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:応力腐食割れの原因と対策

マイケル・ケイン博士

陸軍機がその安全性を維持するためには、点検や整備を行って疲労や腐食などの欠陥を発見し修復することが必要である。

応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking , SCC)は、発見が困難な腐食の一種であるが、その発生は、壊滅的な不具合や人命の損失に繋がる。

応力腐食割れは、延性のある材料をもろくする。極端に言えば、ゴムバンドを陶磁器(セラミック)のコーヒーカップに変えるようなものである。応力腐食割れが発生するためには、3つの条件が満たされている必要がある。つまり、脆弱な材料であること、持続的な引っ張り応力(残留応力またはが負荷応力)が存在すること、そして、腐食が発生しやすい環境であることである。

応力腐食割れの発生には持続的な引っ張り応力と環境への暴露の双方が必要であるため、そのほとんどは材料の表面から始まるが、疲労した材料においてはその内部から始まる場合もある。合金は、一般的に応力腐食割れに対して脆弱であり、あとは、環境の厳しさと応力の大きさだけが問題となる。環境については、例えば、無水メタノール中のチタン合金は、応力腐食割れに対し非常に脆弱である。酸素を供給する水分がない状態では、チタニウムは酸化不働態膜を形成することができないからである。応力については、残留応力は、構成品(コンポーネント)の組立、機械加工、曲げ加工、成型加工などによって生じる。また、負荷応力は、ボルトの取り付けや飛行荷重によって生じる。

環境への暴露

応力腐食割れは、環境への暴露に影響を受ける。陸軍機は、高温、低温、塩水、酸性雨など、世界中の様々な環境にさらされている。このため、合金への応力腐食割れの発生しやすさは、それがどこで使用されてきたかによって、著しく変化する。応力腐食割れは、それが発生すると文字どおり一晩で構成品が破損に至る可能性があるため、事前に発見することが困難である。事実上、我々が運用している機体は、すべて高張力鋼やステンレス鋼を用いている。これらの合金は、180ksi(ksi=キロポンド/平方インチ)以上の応力にさらされると、応力腐食割れに対して脆弱となる。

応力腐食割れの抑制または防止には、各種の設計上の対策も有効である。保護被膜やシーラントなどにより環境への暴露を減少させたり、緊要な部位に加わる引っ張り応力の持続的負荷を局限したりすることができる。

持続的な引っ張り応力を低減するための一つの方法は、角部の半径を増加させることである。所望の航空機の性能を満たすためには、応力腐食割れに対し脆弱な高強度材料を使用してでも、重量を軽減しなければならない場合が多い。応力腐食割れを防止するための最も効果的な方法は、部品の表面に残留圧縮応力を与えることである。そのための方法は数多く存在するが、最も一般的なのは、ショット・ピーニングである。

ショット・ピーニング

Shot-Peening

ショット・ピーニングは、圧縮空気とノズルにによって加速された小さな堅い鋼球を表面に吹き付けるという、比較的単純な加工法である。

その加工は、鋼球を表面に打ち付けることにより、当該材料の数ミル(ミル=1/1000インチ)の深さにおいて、その材料の最大引張強度の約50%に相当する圧縮応力が生じるように行われる。加工後の圧縮応力の細部状態は、合金の種類およびショット・ピーニングの工程における諸元(パラメータ)に応じて変化する。

ショット・ピーニングは、比較的単純な工程であるが、その役割は極めて重要である。特に疲労および応力腐食割れに対して脆弱な重要部品(クリティカル・セーフティー・アイテム)については、ショット・ピーニングが品質維持上重要なものとして指定され、その製造工程においては、100%の部品について検査するように要求される。また、安全性を確認するプロセス全体を通じて、ショット・ピーニングに関する全ての詳細な諸元(パラメータ)が、特定の構成品(コンポーネント)ごとに最適化され、その値に固定される。

応力腐食割れに対し脆弱な材料は、適切なショット・ピーニング(圧縮残留応力)を行うことにより、少なくともショット・ピーニング層が機械的に損傷を受けたり腐食したりするまでの間は、応力腐食割れに免疫を持つように製造される。ただし、わずかな機械的損傷や、2、3ミル(ミル=1/1000インチ)足らずの深さの局部的な腐食(ピットやクレビス)であっても、応力腐食割れを発生させ、壊滅的な破壊をもたらす可能性がある。このため、厳密な検査を実施し、わずかな機械的損傷や腐食をも見逃さないようにすることが重要なのである。

マイケル・ケイン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠の航空技術本部構造材料部局の材料部署の長である。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2017年11月

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    「応力腐食割れ」現役の頃は、不具合発生の原因として良く聞いていた言葉だったのですが、その意味するところは、あまり理解できていなかった気がします。ちなみに、「我が国でショットピーニングが知られるようになるのは、戦後のことであり航空機エンジンのバルブスプリングや機関銃のスプリングの耐久性が欧米のショットピーニング加工されたものに比べ劣りエンジン故障や暴発事故が多発し稼働率を低下させていた」(ショットピーニング、ウィキペディア (Wikipedia)フリー百科事典)のだそうです。