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陸軍航空の情報センター

新装備満載の特殊作戦用MH-60ブラック・ホーク

より困難な任務を可能にするセンサー、自己防護システムおよび通信機器

ジョセフ・トレビシック

アメリカ陸軍の精鋭部隊である第160特殊作戦航空連隊(Special Operations Aviation Regiment, SOAR, ナイト・ストーカー)が保有するMH-60Mブラック・ホークが数々の特別な器材を搭載していることは、かねてより知られてきた。しかし、今回、新たに公開された写真(特に冒頭の写真)により、さらに新しい機器が搭載されていることが判明した。

この写真は、9月初めにベーリング海(アラスカとロシアの間の海域)において撮影されたものである。そこに写っている第160SOARのMH-60Mは、アメリカ海軍のサンアントニオ級水陸両用艦USSジョン・P・マーサの支援を受けながら、訓練に参加していた。

USSジョン・P・マーサから発艦する第160SOARのMH-60M(記事冒頭の写真からトリミングを解除したもの)(写真:アメリカ海軍)

ポーラー・ダガー(極地の短剣)と呼ばれる、この大規模な特殊作戦能力展示訓練における第160SOARのブラック・ホークの主な任務は、水陸両用艦から作戦地域にネイビー・シールズを投入・回収することであった。この訓練の主な目的は、特殊作戦部隊が重要拠点の防御作戦でどのような役割を果たすことができるのか、また、北極および亜寒帯地域においてどのように作戦を支援すべきなのかを実際に検証することであった。この訓練およびそこでMH-60Mが果たす役割の重要性の詳細については、本誌(WarZone)が今月初めに報告したとおりである。

USSジョン・P・マーサの甲板に着艦する第160SOARのMH-60M(写真:アメリカ海軍)

ポーラー・ダガーで撮影されたMH-60Mの正面からの写真を最初に見た際に、真っ先に目に飛び込んできたのは、機首中央部にある地形追従・回避レーダーとその真下にあるAN/ZSQ-2センサー・ターレットである。

地形追従・回避レーダーは、悪天候や夜間においても低高度のほふく飛行を安全に行うため、第160SOARのブラック・ホークに不可欠なツールである。このツールを活用することにより、敵の対空火器を迂回し、それによる探知を回避することが可能になる。

ポーラー・ダガーに参加したMH-60Mに搭載されていたのはAN/APQ-174レーダーであるが、最新型のAN/APQ-187サイレント・ナイト・レーダー(SilentKnightradar, SKR)への換装が進行中であることが分かっている。サイレント・ナイトは、ナイト・ストーカーのMH-47Gチヌーク・ヘリコプター、アメリカ空軍のCV-22オスプレイ・ティルト・ローター、およびMC-130JコマンドII特殊作戦空中給油/輸送機にも搭載されている。

サイレント・ナイト・レーダーに関する説明スライド(図:特殊作戦コマンド)
(図:特殊作戦コマンド)

AN/ZSQ-2ターレットには、電子光学式赤外線フルモーション・ビデオ・カメラおよびレーザー測距器が組み込まれている。ダイレクト・アクション・ペネトレータ(Direct Action Penetrators, DAP)と呼ばれる武装型MH-60Mのターレットには、レーザー照準器も追加されている。DAPには、レーザー誘導式のヘルファイア・ミサイルや先進精密破壊兵器システムII(Advanced Precision Kill Weapon System II,APKWSII)70mmロケットなどの兵装が搭載できる。

AN/ZSQ-2の向かって左側には、別のセンサー・システムが確認できる。このセンサーは、DVEPS(Degraded Visual Environment Pilotage System, 悪視程環境誘導システム)の構成品であり、地形データベースにリンクされ、カメラにLIDAR(laser imaging detection and ranging, レーザー画像検出・測距)機能を組み込むことによって、塵、砂、雪、霧などによる「悪視程」環境下での飛行を可能にしている。

AN/ZSQ-2ターレットおよびDVEPSセンサー(向かって左側)部のクローズアップ(写真:アメリカ海軍)
悪視程環境軽減の重要性

センサー・ターレットの反対側には、DVEPSのもう一つの構成品である大型のセンサーが装備できるようになっているが、このMH-60Mには装着されておらず、代わりにフェアリングが取り付けられている。下の写真に写っているのは、DVEPSを装備した、第160SOARの別のMH-60Mである。

(写真:アメリカ陸軍)

機首の上部には、キャノピーの上および前部胴体の両側に追加されたストラットに、自己防護システムが並んで取り付けられている。これらには、画像/赤外線ミサイル、レーダーおよびレーザーのワーニング・センサーに加え、アクティブ・ジャマーなどの電子戦システムが組み合わされている。これらのシステムは、機体全体に分散配置されており、全方向をカバーできるようになっている。

各種ワーニング・センサーが配置された部分のクローズアップ(写真:アメリカ海軍)

ワーニング・センサーは、地対空ミサイルなどの脅威、および敵のレーダーやレーザーによる補足を警告するために用いられる。このセンサーは、自己防護システムにもリンクされ、おとりとなるフレアやレーダーを混乱させるためのチャフをテールブームの両側に取り付けられたディスペンサーから自動的に発射することができる。

ポーラー・ダガーに参加中の第160SOARのMH-60M。フレアやチャフを発射するディスペンサーがテールブームに取り付けられているのが確認できる。(写真:アメリカ海軍)

ポーラー・ダガーに参加した第160SOARのMH-60Mには、新型のCIRCM(Common Infrared Countermeasures, 汎用対赤外線)システムも装備されていた。このシステムは、DIRCM(directional infrared countermeasures, 指向性対赤外線)システムの一種であり、一対のターレット型ビーム・ディレクタからレーザー・ビームを照射し、赤外線ホーミング・ミサイルのシーカーを混乱させるものである。CIRCMは、通常型の陸軍ブラック・ホークのほか、同軍のCH-47チヌーク大型輸送ヘリコプターやAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターにも搭載されており、既存の警報センサーと統合されて、飛来する脅威に対しレーザーを指向するために用いられている。

CIRCMによる肩打ち式ミサイルの破壊

MH-60Mの電子戦用装備品は、レーダー誘導ミサイルなどの電磁波領域の脅威に対する自己防護能力を有している。

また、特殊作戦用のブラック・ホークには多様な通信機器が搭載されており、機体の上下には多数のアンテナが装備されている。ポーラー・ダガーに参加しているMH-60Mを正面から撮影した写真を見ると、コックピットの真上にX字型の衛星通信アンテナが確認できる。

さらに、機体の右前方には、空中給油プローブが取り付けられたブームも確認できる。このブームは、給油機やそれが曳航するドローグとローター・ブレードとの距離を確保できるように、使用時には前方に伸ばせるようになっている。

ヘリコプターへの空中給油

前述のとおり、陸軍の非特殊作戦用UH-60にもCIRCMが搭載されいる。また、HH-60医療後送型機の一部にはDVEPSが搭載されている。しかし、それ以外のブラック・ホークには、第160SOARのMH-60Mのようなレーダーなどのセンサーや高度な自己防護・通信システムは搭載されていない。第160SOARのMH-60Mは、少なくとも我々が目にすることのできる範ちゅうにおいて、究極の改良型ブラック・ホークだと言える。なお、正式には公開されていないステルス・ブラック・ホークは、これらの改造の多くを行なわないことで滑らかな外観を維持し、低視認性による自己防護を追求しているものと考えられる。

いずれにせよ、今回、ベーリング海でUSSジョン・P・マーサに着艦するMH-60Mの写真を新たに入手できたことで、第160SOARのブラック・ホークには、他の派生型機にはない能力が備わっていることが明らかになった。

編集者注:先に公開した記事においては、ポーラー・ダガーに参加したMH-60Mに装備されているレーダーは、AN/APQ-187サイレント・ナイト・レーダーであると記載していましたが、旧式のAN/APQ-174地形追従・回避レーダーの誤りでした。これらを見た目で判別するのは難しいのですが、サイレント・ナイトのレドームは、先端が丸く、マット仕上げの塗装が施されています。また、最新のサイレント・ナイト装備機は、レーダー・ハウジングおよび先端部の形状がさらに大きく異なっています。

著者連絡先:joe@thedrive.com

                               

出典:The War Zone 2023年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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5件のコメント

  1. 管理人 より:

    約30年前、陸自にUH-60JAが導入された頃、当時米軍が使用していたUH-60Lを遥かに超えた性能を有していました。それが追いつかれ、追い越され、今ではぶっちぎられようとしています。

  2. ナイトストーカーズは諦めず より:

    この機首や胴体に後付けされたセンサー類やカメラ類のゴテゴテ感がたまりませんね。特にDAP仕様のフル武装の姿がいいのですがDAPの映像や写真はあまり出てきませんね。

  3. 飛龍3111 より:

    分かりやすい翻訳ありがとうございます。色んな装備品の一部でも機能が分かって勉強になりました。
    ブラックホークダウンが公開された頃は、映画に出てきたMH-60と陸自のUH-60JA、それほど違い無いのかなと、勝手に思っていましたが、今やぶっちぎりと言う表現になるほど、外観が違い過ぎますね。空中給油やミサイル警報装置がいるかどうかは別にして、あれば運用の幅広がりそうですね。