リアルタイムの危険見積
ATP 5-19は、「リアルタイムの危険見積」を「作戦、任務などを遂行中に危険状態が生じた場合に行う即時の安全管理手順」と定義しています。
また、国防総省が定めた「事故の人的要因の分類」には、「リアルタイムの安全管理の不適切」という項目があり、「特定の行動方針に関するリスクを適切に評価できなかったため、不適切な意思決定またはそれによる危険状態を生じさせたもの」と定義されています。
なぜ、リアルタイムの危険見積が重要なのか?
多くの事故において、搭乗員たちは、迫りくる危険について、何らかの言及をしています。例えば、接触しそうな物体があるとか、視界の状態が変化しているとか、存在するはずの危険状態が見えない、などです。にも関わらず、すべてが計画どおりに進んでいるかのように飛行を続けてしまうのです。
ATP 5-19は、また、日頃行っている訓練以外にリアルタイムの安全管理に必要なスキルを修得する方法はない、と述べています。では、日頃行っている訓練にリアルタイムの安全管理を組み込むためには、どうすれば良いのでしょうか?私は、任務ブリーフィングおよび搭乗員ブリーフィングを活用するのが良いと考えています。いずれも、日常的に行われる業務ですが、適切に行うことによって、任務を変更または中止すべき事象を明確にすることができます。
AR 95-1には、任務ブリーフィングの内容および任務担当士官が説明すべき項目のリストが記載されており、任務を綿密に計画し、任務開始前の要求事項を網羅できるようになっています。しかし、飛行が計画どおりに進まない場合はどうでしょうか? 大規模な戦術任務においては、状況が変化した場合でも躊躇せずに対応できるように、任務中止の基準および代替の行動方針があらかじめ定められています。これは、適時かつ適切に対応行動を行うために非常に重要なことです。
回転翼機の危険見積は、「任務の重要性」と「任務の危険性」とのせめぎ合いです。あらゆる時点における成果と危険を見積ることは不可能ですが、任務遂行間の重要な各結節点における危険見積をあらかじめ行うことは可能でしょう。任務ブリーフィングで行われた議論は、搭乗員ブリーフィングへと引き継がれ、安全管理に必要な手順が継続されることになります。ごく日常的な任務であっても、状況は刻々と変化するものであり、不確実性は常に存在することを忘れてはなりません。
着眼点は、自信過剰の防止です。ただし、そのためには、相当な努力が必要です。脳の網様体賦活系(もうようたいふかつけい)と呼ばれる部分が、見慣れたもの(ノイズとみなされるもの)を排除しようとするからです。これに対抗する最善の方法は、危険パターンを見つけ出す訓練を行うことです。ATP5-19に述べられているとおり、「この能力は、訓練、実践および検証を行うことにより、最もよく向上させることができる」のです。任務ブリーフィングおよび搭乗員ブリーフィングは、そのための非常に優れた方法です。
『Beyond the Checklist(チェックリストの向こう)』(ゴードン、メンデンホールおよびオコーナー共著)は、コミュニケーションで重要なのは適切なレベルの詳細さを備えていることである、と述べています。搭乗員にとって適切なブリーフィングであるためには、予想される事象を十分に共有できるものでなければなりません。また、機体が地上滑走を開始するまでに、飛行中に決心を行うべき緊要な時期がいつなのかが明確に理解され、計画されていなければなりません。
適切な搭乗員ブリーフィングは、フライトに好ましい雰囲気をもたらし、適切な業務分担を可能にし、予期していたまたは予期していなかった事象への対応を容易にし、リアルタイムでの危険軽減を確実にします。航空機の複雑化に伴い、飛行中の緊要な時期に何をすべきかだけでなく、それを誰が行うべきなのかも明らかにして、各搭乗員の危険認知のための負担を軽減し、業務の飽和状態を回避することが重要になっています。
ショーン・オコーネル中佐は、アラバマ州フォート・ノボセルにある米陸軍戦闘即応センターの分析予防局航空部の部長である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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risk assessment = 危険見積
risk management = 安全管理
と翻訳しています。