AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

レスキュー・ホイストの運用における安全性の向上

テクニカル・トーク

軍属 ラース・シブリー
軍属 デイビッド・クリーチ

レスキュー・ホイストの運用は、本質的に複雑であり、かつ危険を伴うものである。2016年6月、レスキュー・ホイスト訓練を実施中、レスキュー・シートとレスキュー・ホイスト・フックの間の結合に「ダイナミック・ロールアウト」として知られる現象が発生し、訓練に参加していた人員が重傷を負うという事故が発生した。

この現象は、「リング・ロールアウト」、「フォースド・ロールアウト」または単に「ロールアウト」とも呼ばれる現象である。フックとレスキュー器材の吊り下げ金具の間のテンションが緩むと、フックのノーズ部(ゲートとボディが結合する部分)に金具が乗ってしまう可能性がある。その際、フックが完全にロックされていないと、ケーブルに再びテンションがかかったときに金具がフックのゲートを押し開け、ダイナミック・ロールアウトが発生して、金具がフックから外れてしまうのである。

AED(Aviation Engineering Directorate, 航空設計部局)は、PDMEDEVAC(Product Director for Medical Evacuation, 患者後送担当プロダクト・ディレクター)およびUHPO(Utility Helicopters Project Office, 多用途ヘリコプター・プロジェクト・オフィス)安全チームと協力して作業を進め、レスキュー・ホイストの安全性向上のための対策を段階的に実施してきた。

2016年8月に事故調査委員会から最初の調査結果が公表されると、AEDは、フロリダ州アポロビーチでホイスト・フックの評価を実施した。その結果、14種類の認可されたホイスト器材のうちの5種類に、ダイナミック・ロールアウトに対する脆弱性が認められた。

その評価が得られると直ちに、安全対策として追加のカラビナを用いない状態での脆弱なホイスト器材の使用を制限するSOF(Safety of Flisht, 飛行安全)通達を発簡した。この対策は、当面のダイナミック・ロールアウト現象の発生を予防するための暫定的な処置として実施されたものであったが、ホイスト運用/使用者に対して、かなりのワークロードの増加を強いるものであった。

2017年1月、AEDは、提供されたデータを分析し、当該事故を発生させた型式のレスキュー・シートを改修するためのメタル・インサート・キットを承認した。そのメタル・インサート・キットでシートとフックの間の接続の全体的形状を変更することにより、当該レスキュー・シートは、脆弱な器材のリストから外され、部分的にではあるがホイスト運用者たちによる追加の安全対策を不要なものとした。

そのわずか3ヵ月後、AEDは、ホイスト・フックとすべての認可された救助器材との間に合金鋼の「Oリング」を「コネクター」として用いることを検討・認可した。

Rescue Hoist Operation
マット・ゲラー大尉は、テキサス州ヒューストンにおけるハリケーン・ハービーによる災害派遣活動にテキサス陸軍州兵UH-60搭乗員として参加した、第1テキサス任務支隊のヘリコプターSAR(Search and rescue, 捜索救難)要員である。

この「Oリング」は、ロールアウトの可能性がないと判断されたため、追加の安全装置を用いることがさらに不要となった。右側の写真が使用中の「Oリング」である。

2017年8月、AEDは、3種類のオート・ロッキング・ホイスト・フックについて、さまざまな構成および運用における適格性データを再確認した。

これらのフックは、そのデザインが本質的に安全なものであることから、AWR(Airworthiness Release, 安全性改善通報)に追加され、ホイスト使用者により調達・使用されることが可能となった。

ロールアウト現象が発生する可能性がないオート・ロッキング・フックの認可および導入は、レスキュー・ホイスト利用者たちにとって大きな進展であった。今後は、新型のレスキュー器材がホイスト運用(バスケット、レスキュー・シートおよびストラップ)用として導入される際には、そのホイスト・フックへの結合部がダイナミック・ロールアウト現象に対して脆弱でないことの確認をAEDが実施することとなった。新型器材の導入に関するこの方針は、すべてのレスキュー・ホイスト救助関係者により適用される。

ラース・シブリー氏は、米陸軍航空及びミサイル研究・開発・設計センターの航空設計部局の多用途部の設計担当者である。デイビッド・クリーチ氏は、医療後送担当プロダクト・ディレクターおよび多用途ヘリコプタープロジェクト・オフィスを支援している上席プログラム分析官である。両者とも、アラバマ州レッドストーン工廠で勤務している。

訳者補足:
AEDから2017年11月に発簡されたAWRの内容は、https://skedco.com/wp-content/uploads/2018/01/AWR980R19-Expired-on-Nov-2019.pdfで確認することができます。認可されたオート・ロッキング・フックの製品名は、「Auto-Lok」、「D-Lok」及び「Mil-Lok」であると記載されています。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2018年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ダイナミック・ロールアウトについては、https://vimeo.com/203281111の動画を見て頂ければ、よく分かると思います。