T55エンジン用空気ろ過システム
軍用機のエンジンは、清浄な空気を大量に必要とする。アメリカ陸軍の航空機は、ローター・システムが砂塵や異物を巻き上げる未舗装の着陸点において日常的に運用されており、特に、砂漠・乾燥地域においては、砂や埃の粒子の吸い込みを避けることができない。
これらの異物の吸い込みは、エンジンの整備性に重大な影響を及ぼす。吸い込まれた砂は、コンプレッサーおよびタービン・ブレードを摩耗させるだけではなく、コンプレッサーおよびタービン・ライナーを劣化させる。タービン・ブレードの冷却通路に入り込んだ細かい砂埃は、高温で溶解してガラスを形成し、冷却空気の流れを阻害してタービンを急速に劣化させる。それはエンジン出力の低下をもたらし、エンジン交換により整備工数を増加させ、即応性を低下させるとともに、高額なエンジン修理費を必要とさせる。
この問題を解決するため、アメリカ陸軍が開発したのが、CH-47用EAPS(Engine Air Particle Separator, エンジン空気・砂塵分離機)システムというエンジン用空気ろ過システムであった。このシステムは、何百というボルテックス・チューブを用いて吸入空気を渦状に旋回させ、遠心力によって汚染物質を空気流から分離するものである。清浄な空気の中心部分だけがエンジン・インレット・プレナムに導かれ、重い汚染粒子はチューブの外にはじき出され、スカベンジ・ファンによって機外に排出される。このシステムを装備することにより、エンジンの摩耗を大幅に減少させることができた。
しかしながら、現状では、MH-47には、このエンジン用空気ろ過システムが装備されていない。エンジンのインレットには、エンジンに物理的な損傷を与える大きな異物片を除去するため、AWS(All-Weather Screen, オールウェザー・スクリーン)と呼ばれる円錐状のスクリーンが装着されているものの、このスクリーンは、FOD(foreign object damage, 異物による損傷)防止の効果はあるが、砂の吸入防止にはほとんど効果が期待できない。このため、アメリカ陸軍は、最新技術を活用し、重量および性能への影響を避けつつ、清浄な空気をエンジンに供給できる方策を模索してきた。それがEBF(Engine Barrier Filter, エンジン・バリア・フィルター)である。このシステムは、ACダスト・コース(粗)およびACダスト・ファイン(細)に規格付けられる砂(アメリカSAE規格J726Cによる)の吸入を減少させ、MH-47ヘリコプターに搭載されているT55-GA-714Aエンジンの損傷を大幅に減少させる、高効率な空気ろ過システムであり、将来、所望の主要性能パラメータを満たすことが確実視されている。
一方、フィルターなどによって空気流を阻害することは、コストの増加につながる。EBFのエンジン性能、特に利用可能トルクへの影響は、インレットにおける全圧の回復度により判定される。全圧の回復度は、エンジン・インレットにおける全圧をPT1、自由空気流の全圧をPT0とした場合に、PT1/PT0と定義される。圧力回復度は、実際には、次の2つの物理現象の組み合わせにより生じる。(1)インレットで発生するラム圧、および(2)インレットで消失する全圧である。インレットにおける圧力損失は、スクリーンおよびフィルターのような多孔質媒体を通過することによる全圧の低下など、空気の回転と摩擦により生じるものである。「理想的」なインレットの圧力の回復度は、1.0である。飛行速度の増大に伴い、通常、圧力の回復度は低下する。加えて、圧力損失は、インレットを通過する空気流量が増加するに従って増加する傾向にある。清浄なEBFにおけるPT1/PT0による利用可能トルクへの影響は、ほとんどすべての運用領域および出力領域において、2パーセント以下である。図1にMPR(Maximum Rated Power, 最大定格出力)での海面高度/標準日および4,000フィート/華氏95度におけるAWSおよびEBFの圧力損失を示す。
バリア・フィルター・システムは、フィルターに砂塵が集積するに従って、圧力回復が低下するため、整備上の処置が必要となる。「汚れた」状態での試験の結果によれば、海面高度/標準日、140ノットにおけるトルクへの影響は、最大6%に達した。しかしながら、任務計画段階で2パーセント以下の精度で影響を見積もることができるパワー・マネジメント手法が開発されている。
MH-47用EBFシステムの安全性の確認に関する手続きは概ね完了しており、KPP(Key Performance Parameter, 主要要求水準)を満たしているかまたはそれ以上であることが試験により確認されている。EBFは、極めて効率的に砂塵を分離し、MH-47エンジンに清浄な空気を大量に供給できる可能性を持っているのである。
トニー・ヘシントンは、アラバマ州レッドストーン工廠にある特殊作戦航空機部アメリカ陸軍戦闘能力開発コマンド航空およびミサイルセンター航空設計部局の航空宇宙工学者である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:5,346
コメント投稿フォーム
1件のコメント
記事では明言されていませんが、EAPSは「重量および性能への影響」があるため、EBFが検討されているということではないかと思われます。