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陸軍航空の情報センター

ワール・モード・フラッター

Dr. トーマス・L・トンプソン著

ブラニフ・エアウェイズ542便、ロッキードL-188エレクトラ(図1、ターボプロップ機)は、1959年9月29日の夕刻、ヒューストンからダラスに向けて出発しました。わずかな雲が点在し、軽い乱気流がありましたが、雷は発生していませんでした。同機が目的地に近づいた際、ダラスの南約100マイルに位置するテキサス州バッファロー近郊の住民から、空に火の玉が見え、雷のような音を聞いたという通報がありました。町の南側に散乱していたL-188の残骸は、同機が空中分解したことを示していました。

それから6ヶ月も経たない1960年3月17日、別のL-188であるノースウエスト航空710便が、イリノイ州シカゴからフロリダ州マイアミに向けて出発しました。飛行開始から約2時間後、同機はインディアナ州カネルトンの近郊に墜落しました。残骸を調査したところ、飛行中に外側のエンジンが左右の翼の一部と共に機体から分離していたことが判明しました。

事故調査の結果、墜落した2機は、いずれもエンジン・マウントに亀裂が発生し、その亀裂がマウントの剛性を低下させ、ワール・モード・フラッター(whirl mode flutter、プロペラの空力モーメントとエンジン・マウントやウイング・ストラクチャの剛性不足との相互作用によって引き起こされる振動現象)が発生しやすい状態になっていたと結論付けられました。その結果、外側エンジンに破壊的な振動が生じ、翼に壊滅的な損傷をもたらしたのです。

ロッキード社は、この問題を解決するため、L-188全機についてエンジン・マウントとウイング・ストラクチャの強化を実施しました。L-188エレクトラの事故調査結果報告書では、航空機の設計者および規制当局に対し、ターボ・プロップ機および回転翼航空機がワール・モード・フラッターを発生させないことを保証するための要件や設計、解析および試験方法を開発・確立することが勧告されました。

ワール・モード・フラッターが発生しないことは、開発の初期段階から対策を講じ、飛行試験で実証されなければならない耐空性要求事項となったのです。

1970年代半ば、YAH-64(アパッチ・ヘリコプター試作機)の開発中に、ヒューズ・ヘリコプターズ社の若きダイナミクス・エンジニアであったルー・シルバーソーン氏は、有限要素法構造動解析ソフトウェアを使うことでアパッチにワール・モード・フラッターの問題が存在することを把握し、設計者たちに警告しました。シルバーソーン氏の解析によれば、その問題は、ローター・マスト支持構造の強度不足と、メイン・ローターのサイクリック・ピッチの変化とハブのローリングおよびピッチング運動との相互作用に起因していました。地上試験機(Ground Test Vehicle, GTV)の結果、ローター速度108% rpmでワール・モード・フラッターの発生が確認されました。これは航空機が120% rpm未満でワール・モード・フラッターが発生ないことを求めるシステム仕様を満たしていませんでした。設計者たちは、ワール・モード・フラッターを改善するため、2つの変更を行いました。1つ目の変更は、ローター支持構造の剛性を高めることでした。2つ目の変更は、ブレードの外側20インチに20度の後退角を追加することでした。このことにより、高速飛行中のブレード荷重が低減され、ワール・モード・フラッターが生じる境界をより高いローター速度に移行させることができました。その後も引き続き地上試験および飛行試験を行ってから生産された機体は、アパッチ・システム仕様(120% rpmおよび3.5Gの通常荷重倍数)で要求されるエンベロープ内で、ワール・モード・フラッターが生じないことが実証されました。

また、1956年のベルXV-3ティルト・ローター航空機の試験中には、固定翼機モードにおいてローターと翼の相互作用によるワール・モード・フラッターの発生が確認されました。ベル社とNASAは共同研究を行い、その問題への理解を深め、解析要領を開発し、風洞試験および飛行試験を繰り返しました。この研究は、ジンバル式ローター・ハブのフラップ自由度が大きいティルト・ローター機はワール・モード・フラッターの発生メカニズムがプロペラ機よりも複雑であることを明らかにし、ベル・NASA XV-15およびベル・ボーイングV-22の設計基盤を形成しました。これらの航空機は、300ノットを超える対気速度でもワール・モード・フラッターが生じない剛性を確保するため、低アスペクト比の厚い翼断面を採用することになりました。現在は、飛行性能を向上させるため、細くて薄い翼のティルト・ローター機でも、ワール・モード・フラッターが生じないローター設計の確立を目指しています。

軍および民間の耐空性当局は、承認された飛行エンベロープを15%超える対気速度でもフラッターが生じないことを実証するように要求しています。具体的には、それを裏付ける解析および飛行データを提供することが求められています。

Dr. トーマス・L・トンプソンは、アラバマ州レッドストーン工廠の米国陸軍戦闘能力開発コマンド・航空ミサイル・センター、システム・レディネス局のエアロメカニクス担当チーフ・エンジニアです。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2025年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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