航空事故回顧-AH-64Dの照明弾射撃中の地面への接触
対地高度60フィートのホバリング状態で2.75インチロケット照明弾を射撃中、テール・ホイールが地面に接触し、機体が右にヨーイングおよびローリングして、胴体が地面に接触した。地面との接触により、テール・ホイール、テール・ブーム、右ウイングおよび30㎜ガン・ターレットに損傷が生じた。搭乗員にけがはなかった。
飛行の経過
事故機は、歩兵旅団戦闘チームの野戦砲兵大隊と共に火力支援調整レーン訓練を実施していた。その訓練の目的は、前進観測員から航空機へのロケットおよび30㎜ガンの目標情報の提供に関する調整要領を演練することであった。
事故発生当日、当該レーン訓練に参加していたのは、AH-64Dアパッチ2機で構成される攻撃ヘリチームであった。搭乗するパイロットたちは、ブリーフィングを受けた後に危険見積を実施し、パイロット・ブリーフィングを実施して、昼間のうちに離陸した。その後、NOE(nap of the earth, ほふく飛行)やホバリング攻撃を実施しながら、レーン訓練を3回反復した。夜間の訓練においては、ロケット榴弾の発射に先立って、1発のロケット照明弾を発射することになっていた。照明弾を発射中に、機体が後方に下がりながら降下してしまい、テール・ホイールが地面に接触して、機体が右に旋転し、地面に墜落した。
搭乗員
訓練担当操縦士兼機長の総飛行時間は1,620時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は1,536時間であった。副操縦士の総飛行時間は509時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は426時間であった。
考 察
機長と副操縦士は、照明弾射撃中に、状況の継続的な把握を怠ってしまった。その原因のひとつは、照明弾射撃に関する無線通信に気を取られてしまったためであった。また、前日までの支援において、既に同じような飛行を行っていたため、自信過剰に陥ってしまっていたことも事故の発生に影響を与えた。
何回も同じような飛行任務を繰り返したパイロットは、自信過剰に陥りやすい。特に注意が必要なのは、同じ場所で、わずかに異なる内容の任務を行う場合である。反復訓練を行うレーン訓練は、自信過剰に陥って状況把握を怠りがちな訓練の代表例のひとつである。多くの事故において共通して見られる問題のひとつに、低空における緊要な場面において、全神経を集中すべきであるにも関わらず、攻撃目標に関する通信(状況の更新、目標情報の伝達、戦闘の引継ぎなど)を行わなければならないことがある。このような状況においては、機内通話を常時ONの状態にして、機体の操縦に集中し、操縦と無線連絡の間の注意配分を適切にすることが重要である。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
「Lane Training Exercise」という用語の意味が分かりませんでした。用語の解説は、こちらにあるのですが、どうしても和訳が思い浮かばず、「レーン訓練」とごまかしています。適切な訳語をご存じの方がいれば、教えてください。
同じく、「to flip the intercommunication pins down」という表現も意味が不明なのですが、おそらく「ホット・マイク」のことを言っているのではないかと考え、「機内通話を常時ONの状態にする」と訳してみました。AH-64Dには、何か特別な機能があるのかも知れません。ご存じの方がいれば、教えてください。