航空事故回顧-AH-64Dのダイナミック・ロールオーバー
当該AH-64Dは、飛行場内でホバリング中、ダイナミック・ロールオーバーが発生して90度右側に横転し、機体、メイン・ローターおよびテール・ローターに重大な損傷が発生した。搭乗員のうち1名は救急車で病院に搬送され、もう1名は予防措置として救急処置室に搬送された。
飛行の経過
事故機は、攻撃訓練および低空飛行訓練で使用する地域ならびにAH-64Dの飛行能力に慣熟するため、昼間に近郊の演習場において単機訓練飛行を行っていた。当該訓練飛行の目的は、州兵と予備役の統合訓練を実施して、大規模戦闘作戦環境における陸軍航空およびAH-64の役割について理解を深化させることにあった。
事故発生前の状況
最終任務承認権者(final mission approval authority, FMAA)に対するブリーフィングが行われ、本訓練飛行の実施が承認された。任務担当士官は、状況の特質を踏まえた危険見積を行ない、AH-64Dの有資格パイロットではない副操縦士の訓練飛行であることから、リスク・レベルを中程度と判断した。最終任務承認権者は、当該リスク・レベルを把握したうえで訓練の実施を承認した。機長は、航空任務計画システム(Aviation Mission Planning System)を使用して訓練計画を立案し、機体の飛行前点検、訓練飛行フリーフィングおよび搭乗員ブリーフィングを完了した。機長および副操縦士(AH-64Dの有資格パイロットではない)は当該航空機に向かい、教官パイロットである機長は後座に、副操縦士は後席に搭乗した。副操縦士は、AH-64Dを含むいずれの回転翼機についても操縦資格を有していなかった。
事故発生の状況
当該機は離陸し、近郊の演習場で訓練飛行を実施した。約1時間半後、飛行場に帰投すると、グラス・エリア(芝地)でホバリング訓練を開始した。機長から操縦を交代した副操縦士は、低速度での旋回操作を行った後、過度にコレクティブを下げ、エンジン・トルクを減少させてしまった。事故機は毎分1,500フィート以上の降下率で落着した。落着時、機体が右横方向にドリフトしていたため、未舗装の軟弱な地面に沈み込んだ右側の降着装置を軸点として機体が横転し始め、ダイナミック・ロールオーバーが発生した。機体は右側を下にした状態で停止した。
事故発生後の経過
機長は、落着後、機体を緊急シャットダウンし、後席から自力で脱出した。その後、副操縦士の脱出を援助し、コックピット外の安全な場所に移動させた。場内航空救難が発令され、搭乗員は救急車で近傍の医療センターに搬送された。
搭乗員の練度
機長の総飛行時間は1,062時間であり、その内訳は機長としての飛行時間が344時間、副操縦士としての飛行時間が594時間、操縦教官としての飛行時間が124時間、AH64Dでの飛行時間が916時間、NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)の飛行時間が192時間、NS(night vision system, 夜間暗視システム)の飛行時間が259時間であった。
副操縦士の総飛行時間は3,132時間(すべて固定翼機)であった。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
「落着」ではなく「ダイナミック・ロールオーバー」を事故の主因として捉えている点が、興味深いと思いました。