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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-AH-64Eのブレーク・ターン

昼間の戦闘機動飛行 (combat maneuvering flight, CMF) において、ガナー席で操縦していた機長がダイブからのリカバリーを実施中、十分な利用馬力を確保できていない状態でブレーク・ターンを行った。

飛行の経過

当該機の任務は、部隊教官資格を有する機長により、新人のレディネス・レベル1の操縦士に対する各個訓練を実施することであった。この訓練飛行は、戦闘機動飛行 (combat maneuvering flight, CMF)、悪視程環境 (degraded visual environment, DVE)、および計器飛行の3つの段階に区分されていた。事故機の任務は、低リスクと評価され、中隊の任務担当将校(mission briefing officer, MBO) によるブリーフィングが実施された。当該機の所属中隊長は、事故の前日に飛行計画を承認した。

当日の気象は、南南東の風、風速11ノット、視程10法定マイル、晴天、気温3°Cと予報されていた。

事故機の搭乗員は、所属駐屯地飛行場でクローズド・トラフィック・パターンからの着陸を実施した後、演習場に向けて出発し、戦闘機動飛行からその日の訓練を開始した。搭乗員は、機長がデモンストレーションを実施したのち副操縦士が操縦を行うことを、反復して複数回実施した。その後、操縦していた機長は、オフ・アクシス・サイクリック・クライムのデモンストレーションを行って、ブレーク・マヌーバへと移行した。目標に対する攻撃を想定した操作を終了し、右方向への62度のバンク・ブレークを実施したところ、メイン・ローターの回転数が77%までドループした。機体は、右側のロケット・ポッドの外側部分から落着し、続いてスタビレーターを地面に接触させた。地面から跳ね返った機体は、空中を約50フィート移動した。機体は、同じく右側のロケット・ポッドの外側部分およびスタビレーターから再び落着し、左にロールして、主脚のタイヤを接地させた。再び空中に跳ね返り、コントロールを取り戻したパイロットが着陸させることができた。搭乗員は、エンジンを緊急停止し、損傷状態を確認するため機外に出た。

搭乗員の練度

ガナー席の部隊教官操縦士兼機長の総飛行時間は2,153 時間、そのうちAH-64Eの飛行時間は572時間であった。部隊教官操縦士としての飛行時間は46時間、夜間暗視システムでの飛行時間は240時間であった。パイロット席の副操縦士の総飛行時間は260 時間、そのうちAH-64D/Eの飛行時間は177 時間、夜間暗視システムでの飛行時間は72時間であった。

考 察

アグレッシブなマニューバを実施する際には、環境および機体コンディションに応じたヘリコプターの飛行性能を把握し、マニューバから回復するために必要な空間を十分に確保できる高度を確保しなければならない。

現代の陸軍航空機のパイロットは、コックピット内でダイナミック・パフォーマンスを計算できる贅沢な環境にある。事故機が運用されていた高度および温度における最大利用可能トルクは、93%であった。この値を超えるような操作を行うと、ローター回転数が低下する。事故機の機長は、マニューバにおいて、ダイブからのリカバリー開始前に機首を水平まで引き上げる操作を怠った。このため、降下率の減少や低ローター回転数の補正を行うことができなかった。揚力を失った機体は、地面に落着した。最適なパワー・マージンを得るためには、翼を水平に保ち、対気速度を最大上昇率または最大持続対気速度付近に維持する必要がある。機首下げ姿勢、バンク角、高対気速度、および不適切なパワーの使用は、降下率の増大をもたらす。

最後に、飛行前ブリーフィングにおいては、任務担当将校が航空機の性能について説明し、航空機が訓練飛行中に何らかの性能上の制限または制約を受ける可能性の有無を確認すべきである。また、それを回避する手段についても説明し、適切なリスク・レベルおよび承認権者を指定しなければならない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ロケット・ポッドのおかげで命拾いをしたケースは、こちらにもあります。
    https://aviation-assets.info/risk-management/be-ready-for-anything/