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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-AH-64Eスプラグ・クラッチの不具合

当該機は、月齢ゼロの夜にホバリング中、ローター回転数が急激に低下し、トルクが上昇して、衝撃音が鳴り響いた。動力伝達系統に重大な損傷が発生し、メイン・ローターの回転が低下して、高度が下がり始めた。機体は、地面に激突し、大破した。

飛行の経過

事故機の搭乗員たちは、来たるべき戦技訓練センターでの訓練に備えるため、大隊の空中射撃訓練に参加中であった。空中射撃訓練場に到着した大隊は、その2日後から訓練を開始していた。大隊ブリーフィングが実施され、搭乗員が指定され、危険見積と飛行前ブリーフィングが行われた。事故機の搭乗員は、2機編隊で飛行し、第7習会、第8習会および第9習会の夜間空中射撃を行う予定であった。事故機の搭乗員は、1番機に指定された。

離陸前に軽微な整備を実施し、地上試運転および整備確認試験を行うことが必要となった。さらに、気象の影響により2時間の遅れが生じた後、2機の編隊は射撃訓練を開始した。時間上の制約から、第7習会の射撃のみを実施することになった。任務担当将校によるブリーフィングが再度実施され、気象情報が更新された。

射撃準備の整った事故機の搭乗員は、駐機スポット上で地上試運転を開始した。機体が地面を離れ、対地高度17フィートまで上昇し、後方にホバリングしながらタクシーアウトしたところ、メインローターの回転数が急激に低下し、トルクが急激に上昇した。機体は、テールローター効果を失いながら、メインローターがドループして降下した。続いて、後退しながら、左側面から地面に墜落して停止した。搭乗員に負傷はなかった。

搭乗員

機長の総飛行時間は1078時間、当該機種での飛行時間は436時間であった。副操縦士の総飛行時間は1793時間、当該機種での飛行時間は424時間であった。

考 察

当該機は、スプラグ・クラッチに機械的不具合が発生した。この不具合により、メインローター回転数が急激に低下し、ほぼ同時にトルクの急激な上昇が生じた。No.1とNo.2スプラグ・クラッチにほぼ同時に滑りが発生し、動力伝達系統への入力が一旦途絶した。クラッチが再度噛み合ったことで、動力伝達系統への大きなショックが発生し、エンジンにドループが発生するとともに、トランスミッションが損傷して、テールローター効果が失われた。事故機の搭乗員は、直ちに事故機を着陸させるように操作し、無事に機体から脱出できた。

本事故は、機体および搭乗員へのリスクに関し、知りうるすべての対策を部隊が講じたとしても、想定外の問題が発生する可能性があることを示すものである。航空科職種の隊員、特に搭乗員および支援要員は、航空運用が生来的に危険をはらんでいることを常に認識しなければならない。機械装置である以上、故障しないという保証はないのである。搭乗員は、シミュレーターを用いて、緊急操作手順を完全に訓練・理解することによって、任務遂行に必要な即応状態を維持しなければならない。同様に、支援要員も、その技量の向上をはかり、専門特技の習得に努めなければならない。貴官が持つ知識と経験を若い隊員に伝授してもらいたい。予期せぬ事態に対応するためには、過去の作戦環境において、どのような事態が生じていたのかを知っていることが重要である。準備に最善を尽くすことが、不測事態発生時においても、躊躇なく反応し、操縦することを可能にするのである。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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4件のコメント

  1. 匿名 より:

    スプラグクラッチのスプラグは接点に油膜が閉じ込めれて固化転移します固化した油膜は強力接着剤のように作用しトルク変動した時にスプラグのクサビ角度が個々にバラつきます、負荷が高いスプラグは座屈してロールオーバーしてクラッチは破壊しますこれは偶発的に条件が重なった時に起きるので再現性は難しいですが転がり接触下の閉じ込め油膜の固化転移は弾性流体潤滑油膜として多くの論文があります。自動車の自動変速機でスプラグクラッチが多く使われましたが20年前から事故が多く全廃に、なのでこのクラッチは理論的にも非常に危険です、日本では安全なローラーをテーパー面に斜めに食い込ませるクラッチが特許されていますので技術関係者には一刻も早くこの危険なクラッチに気付いて欲しいですね。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。
      「閉じ込め油膜の固化転移」という事象を始めて知りました。
      こんな簡単な機構にも、技術的問題が潜んでいるんですね。
      ありがとうございました。

      • 匿名 より:

        閉じ込め油膜はトライボロジの分野でネットでも多くの論文が見られますが、固化転移した油膜の接着作用は学術的に未踏ですが実態は事故として起きてますし、実験では油膜は3MPa以上で固化転移し、Spragu clutchでは5万気圧になります、固化油膜は弾性係数も確認されており、当然瞬間接着剤と同じ作用です、なのでSpragが軸と外輪に接着するとSpragの姿勢はバラバラになり一瞬で破壊します、ヘリでは定期交換で防ぐとか言ってますがこれは新品でも同じで起きます、自動車で散々再現性の試験を繰り返したが偶発的に起きるので防ぎようが無く廃止になりました。、