航空事故回顧-MC-12Sシングルエンジン訓練
当該機(MC-12S)は、エンジン故障の状況を付与され、シングル・エンジンでの着陸を実施中、滑走路の進入端を過小な対気速度で通過し、滑走路から逸脱した。教官操縦士(IP)が着陸復行を試みたが、機体の制御を回復できなかった。当該機は、滑走路左側の地面に落着し、大破した。搭乗員にケガはなかった。
飛行の経緯
当該機の任務は、任務装備の確認および訓練飛行であった。事故機は、複数回にわたる任務装備の更新に伴い、システムの確認を必要としていた。確認が完了すると、緊急操作訓練が開始された。滑走路まで約4マイルのところで、最終進入経路に入ると、教官操縦士は、副操縦士にNo.1エンジン故障の状況を付与した。副操縦士は、正しい手順を行いながら、滑走路への接近を続けた。滑走路の進入端を横切ると、機体がドリフトし始め、中心線から左にヨーイングし、対気速度が急激に低下した。教官操縦士は、操縦を交代し、ゴーアラウンドを行なおうとした。当該機は、降着装置とフラップを出した状態で、ほぼ水平な姿勢を保ったまま地面に落着した。機体の損壊の程度は、大破と判定された。
搭乗員の練度
教官操縦士の合計飛行時間は5,700時間以上であり、民間固定翼機でも約5,000時間の操縦教官としての経験を有していた。副操縦士の合計飛行時間は531時間であり、MC-12での飛行は380時間であった。
考 察
事故の要因は、人的ミスであった。シングルエンジンでの着陸を行う際には、対気速度、接近速度、降下率および滑走路上の航空機の位置を適切に維持できるように操作することが重要である。過早に進入速度を低下させてしまうと、適切な諸元が維持できず、機体を制御できる最低速度を下回り、揚力を失って失速する可能性がある。
教官操縦士による修正操作の遅れは、副操縦士の修正能力に対する教官操縦士の過信、または自分自身の修正操作に対する教官操縦士の過信によって生じる。この遅れが生じると、機体の制御を回復しようとしても、すでに性能曲線を外れているかも知れないのである。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
「impacted the ground」の訳に「落着(crash landing)」という用語をあてています。事故調査係で勤務していたころ、他職種の上司から「『落着』って何だ?辞書には『一件落着』しか載っていないぞ」と言われ、困ったことがあります。確かに、墜落、落着、緊急着陸、不時着、予防着陸などの用語には、明確な定義がありません。先日、Wikipediaにこれらの用語の一部についてその定義を記載した「緊急着陸」という記事を投稿しました。参考にして下さい。