航空事故回願:MD530Fの進入時の操縦不能による墜落
昼間において、VMC(有視界気象状態)での不整地上空への進入を行っていたMD530Fが、AGL(対地高度)15フィートで意図しない右旋回に陥った。機体は、操縦士の操舵に反応しないまま、高度を低下させ、地面に激突した。機体は大破したが、搭乗員に負傷者はなかった。
飛行の経過
当該機は、低空飛行およびVMCでの進入および離陸などの基本操縦訓練の実施を予定していた。1230(現地時間)にAAF(Army Air Force, 陸軍航空隊)飛行訓練所で被練成者を掌握したIP(操縦教官)は、事前教育、飛行計画の作成および飛行前ブリーフィングを実施した。予定していた訓練は、特に危険を伴うものではなかった。1300(現地時間)、機体の位置に集合した当該機の搭乗員たちは、搭乗員ブリーフィングおよび飛行前点検を実施し、異常がないことを確認した。事故発生当時の気象は、風向90度、風速15~20ノット、視程制限なし、気温摂氏23度、密度高度8893フィートであった。
1345(現地時間)、当該機は、3機編隊の内の1機として飛行場を離陸し、訓練地域へと向かった。1335、訓練予定地域に到着した当該機は、編隊を離脱し、航空偵察を開始した。偵察適地を見つけたIPは、対地高度200フィート、速度60ノットで、VMCにおける進入からホバリングまでの展示を開始した。対地高度15フィートまで降下した時、機体に意図しない右方向へのヨーイングが発生した。ヨーイングは、IPが方向を修正しようとすると、さらに大きくなった。機体は、IPの方向操縦に反応しないまま、地面に激突した。機体は大破したが、搭乗員に負傷者はなかった。
搭乗員の練度
左席に搭乗していたIPの総飛行時間は3,200時間であり、そのうち158時間がMD530、2,500時間が実戦戦闘飛行、880時間がIPとしての飛行時間であった。右席で操縦していたPI(copilot,副操縦士)の総飛行時間は200時間であり、そのうち53時間がMD530での飛行時間であった。
考 察
調査の結果、事故機は、偵察点に進入し、ホバリングに移行しようとした際に、当時の密度高度が高く、重量が重かったため、必要なテール・ローター効果を得られなくなったものと推定される。MD500Fの取扱書には、重荷重状態での5,000フィート以上の密度高度においては、10%以下の操縦効果しか得られないことが、1枚のチャートに示されているものの、警告や飛行制限として明確に示されてはいなかった。また、IPの機種転換訓練において、当該機種の重荷重および高密度高度における性能制限に関する教育が実施されていなかったことが明らかになった。
訳者補足:TC 3-04.4 Fundamentals of Flightの記述から
取扱書に記載されている性能値は、一般的に、海面上での標準大気状態(15℃、気圧高度29.92in.)に基づいている。このため、環境の変化が生じた時には、問題が生じる可能性がある。特に、高温、高標高においては、この問題の影響が顕著である。山岳地域は、高度が海面高度より高く、気温が標準温度よりも高い状態になりやすい。このような環境下における運用においては、空気密度の減少が、航空機の性能を顕著に低下させる。密度高度とは、空気密度を表す数値である。気圧高度、真高度、絶対高度などと混同しないようにしなければならない。それは、高度を示すものではなく、航空機の性能における判定基準に用いられるものである。空気密度が減少すると、密度高度は増加する。これには、高温や高湿度も影響を及ぼし、高密度高度環境をさらに増大させる方向に働く。高密度高度は、航空機の性能緒元の低下をもたらす。パイロットにとっては、通常、馬力出力が低下し、プロペラ効果が低下し、その運用性能を維持するためには、より高い真対気速度が必要となることを意味する。また、離着陸に必要な滑走路の長さが増加し、上昇率も低下することとなる。例えば、海面高度、標準大気状態において、1,000フィートの離陸滑走距離が必要な標準的な小型固定翼機の場合、5,000フィートの運用高度で離陸するためには、2,000フィートの離陸滑走が必要となる。(こちらもご覧ください。)
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2015年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
陸上自衛隊においても、同型機のOH-6Dがもうしばらく運用されます。信頼性の高い航空機ですが、飛行環境の影響を受けやすい航空機であるとも思います。