動的環境におけるパワー・マネジメント

従来のヘリコプター訓練(民間であれ軍事であれ)は、多くの場合、理想的な条件(少ない重量、低い高度、十分な利用可能出力)で行われます。このため、パイロットは利用可能出力に過剰に依存しがちであり、悪い習慣を生み出している場合があります。このような訓練では、派遣時に実際に必要となるコントロール・タッチや状況認識を習得できません。派遣先においては、高重量、困難な環境、そして限られたエラー・マージンでの飛行が常態だからです。このことは、特に派遣初期の段階において事故を発生させる原因となり得ます。2002年初頭にアフガニスタンに派遣された我々の部隊も、まさにその状態にありました。
パワー・マネジメントにおいては、出力が機動、環境要因、航空機の能力、およびパイロットのパフォーマンスの関係を理解し評価するための基準として使われます。2005年3月、USAAVNC(U.S. Army Aviation Center, 米国陸軍航空センター)は、「機動飛行とパワー・マネジメントのための陸軍飛行士ハンドブック」を発表しました。この文書には、戦闘機動飛行を成功させるための基本が説明され、「最良上昇率/最良滞空速度(best rate of climb/best endurance airspeed)」、「バケット・スピード(bucket speed)」、「トランジェント・トルク(transient torque)」、「マッシング(mushing)」などが論じられています。9.11以前の基準で訓練していた我々の部隊は、作戦地域に到着するとすぐに、静的なものだった自分たちの戦術をより動的なものへと変化させなければ、そこでの環境(高高度・高温・高重量)に適応できないことに気づきました。
その説明や議論の中心となるのは、計画担当者と搭乗員の連携に加えて、飛行中における問題発生時の対応を訓練することで、飛行のあらゆる側面において、よりきめ細やかな操縦を行えるようにすることです。その訓練では、出力を主要な尺度として使用しながら、より高いレベルの機動を行うことになります。高高度・高温・高重量の環境で飛行するには、環境条件や全備重量による性能低下などの影響を理解し、考慮しなければなりません。我々の部隊が、任務前の計画、リハーサル、およびバック・ブリーフが作戦成功の鍵であることを理解するのに時間はかかりませんでした。
利用可能な出力の値を知っているだけでは不十分であり、予定している機動を行うのにどれだけの出力が必要か、そしてそれがいつ必要になるかを理解することが必要です。そのためにはPPC(performance planning card, パフォーマンス・プランニング・カード)を準備するだけでは不十分であり、飛行中においても評価を継続しなければなりません。出力が制限された環境での飛行では、ピッチを引く前に自分自身の限界と予想される出力マージンを把握し、航空機よりもはるか先を行く必要があるのです。また、高高度・高温・高重量での運用においては、次のことを常に考慮しなければなりません。
- 可能な限り、常に風上に向かって着陸または離陸すること
- 可能な限り、地面効果内に入るまでETL(effective translational lift, 有効な転移揚力)を維持すること
- OGE(out-of-ground-effect, 地面効果外)出力が最大利用可能出力に近い場合には、ホバリング中またはETLを大幅に下回る速度において降下を止める能力が限られていること
- OGEホバーに進入する場合には、降下を止められる限界を超えた降下率にならないようにすること

大規模戦闘作戦環境に適応するためには、実際の派遣時に予想される要求が反映されたスキル・セットを訓練に使用し、適切な習慣を形成して事故の発生を抑制しなければなりません。
パワー・マネジメントに関する他の資料は、コロラド州兵のウェブサイトのHAATS(高高度陸軍州兵航空訓練サイト)から入手できます。コロラド州兵は、パイロットのパワー・マネジメントへの習熟度の向上に努めています。
詳細については、次のリンクをご覧ください。
高高度ヘリコプター訓練に関する動画「翼の裏側」: https://www.youtube.com/watch?v=7j4nHVpKQ64
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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