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陸軍航空の情報センター

航空事故発生状況:UH-60試験飛行中の事故

事故の概要事故の概要

当該UH-60は、整備確認試験飛行を実施していた。飛行中、安全回り止めの処置が行われていないメイン・ローター・ピッチ・チェンジ・ロッドのリテンション・ボルトが振動を始めた。ピッチ・チェンジ・ロッドの上部が外れ、メイン・ローター・システム(訳者注:TM1-1500-204-23-05 PROPELLER, ROTOR, AND POWERTRAINの3-6ページを参照)全体の制御を失った当該機は、開かつ地に墜落した。

飛行の経緯

当該UH-60は、TSARCOM(Troop Support & Aviation Materiel Readiness Command, 部隊支援及び航空補給コマンド)から発出されたMIM(maintenance information message, 技術改善通報)に基づく整備を実施しようとしていた。そのMIMは、上部ピッチ・チェンジ・リンク・ロッド・エンド・ベアリングを覆っているラバー・ブーツを取り外し、ロッド・エンド・ベアリングとダンパー・ベアリングの両方に保護用のフェノール製ワッシャを取り付けることを要求していた。そのMIMを実施するためには、ロッド・エンド・ベアリングを機体から取り外す必要があり、それは、航空機整備記録に非可動状態であることの記入が要求されるものであった。

当該機の機付長は、航空整備担当将校から、ラバー・ブーツを取り外すように指示された。ラバー・ブーツが取り外された後、整備担当将校がロッド・エンド・ベアリングおよびダンパーの使用可否を判定するための計測を実施した。計測の結果、黄メイン・ローター・ブレードのピッチ・チェンジ・リンク・ロッド・エンド・ベアリングと3つのダンパー・ベアリングの測定値が許容外であった。整備担当将校は、機付長に対し、ワッシャーの取り付けのみを実施し、使用不能部品の交換が完了するまで、すべての部品を手締めしただけの仮付け状態にしておくように指示した。整備記録には、1つのピッチ・チェンジ・リンクと3つのダンパーが使用不能であることを含め、上記の作業が正確に記録された。

10日後、整備担当将校は、当該機の整備確認飛行を当初計画されていた翌週ではなく翌日に実施することに変更した。この変更に不安を感じた機付長は、小隊陸曹に試験飛行を延期し、必要な整備を完了するために十分な時間を確保するように依頼した。小隊陸曹は、試験飛行の延期は行わず、機付長への増援を行うことにした。増援にあたった整備員たちには、10日前に実施された改修のことについて、何も知らされていなかった。

当該機の整備作業が実施された。小隊陸曹ともうひとりの整備員が使用不能のピッチ・チェンジ・リンクと3つのダンパーの交換を開始した。小隊陸曹は、古いピッチ・チェンジ・リンクを取り外し、新しいリンクの長さを調整した。そして、整備員にそれを取り付け、トルクを掛け、コッターピンを取り付けるように指示した。また、他の機体から3つの使用可能なダンパーを取り外し、その整備員が取り付けられるように準備した。その整備員は、作業を完了した。その間、当該機の機付長は、機体へのスタビライザーの取り付けを完了し、整備記録への記入を行った。機付長は、整備員に対し、ローター・ヘッドの作業をすべて完了したかどうかを確認した。整備記録を見ていないその整備員は、完了したと答えた。これを聞いた機付長は、MIMおよびピッチ・チェンジ・リンクおよびダンパーの交換を完了したことを整備記録に記入した。

整備記録の記入を終えた機付長は、技術検査員を呼んだ。機付長と検査員は、一緒に整備記録を確認し、機付長が完了した作業を説明しながら機体の検査を行った。ローター・ヘッドの整備に関しては、援助した整備員が実施した作業を検査員に説明した。検査員は、その整備員が示した作業を検査し、適切に実施されていることを確認した。検査員は、整備記録を自分の事務室に持ち帰って必要な記入を行い、使用不能部品の交換と完全な検査を実施していないMIMの適用の双方について、非可動を解除した。当該機は、試験飛行が許される状態となってしまった。

整備担当将校と一緒に飛行するように割り当てられた副操縦士は、早朝に行われる試験飛行に備えて飛行前点検の実施を指示された。副操縦士は、機付長が格納庫から搬出する前に当該機の清掃等の準備を行っている間に、飛行前点検を簡単に済ませた。ローター・ヘッドの点検は、実施されなかった。まだ品質管理室に置かれたままだった整備記録は、確認しなかった。整備担当将校が別の機体の試験飛行で発生した問題に対応していたため、当該UH-60の飛行は、昼食後に持ち越された。

午後から休務を与えられた当該機の機付長に代わって、別な機付長が飛行に割り当てられた。軍属の整備支援員が自主的に試験飛行の準備を手伝ってくれた。午後の後段になって、整備担当将校が到着した。整備担当将校は、スタビレーターを点検し、整備記録を確認し、整備支援員にローター・ヘッドはOKかと尋ねた。整備支援員は、OKだと答えた。

当該機は、エンジンを始動し、その後、3本のピッチ・チェンジ・リンクの調整を行った。最後の調整を終了した後、整備担当将校は、ピッチ・チェンジ・リンクの上部および下部ジャム・ナットにトルクをかけるが、安全線はかけないように指示した。当該機は、駐機位置に戻り、機付長は機体から降りた。整備担当将校、副操縦士および整備支援員が搭乗し、試験飛行が開始された。

離陸14分後、パイロットは、ヘリポートへの着陸許可を得るためにタワーに連絡した。1、2分後、当該UH-60は飛行中に空中分解し、墜落した。3名の搭乗者全員が死亡した。

搭乗員の練度

26歳の整備担当将校の回転翼機総飛行時間は650時間以上、UH-60の飛行時間は450時間以上であった。27歳の副操縦士の回転翼機総飛行時間は750時間以上、UH-60の飛行時間は500時間程度であった。

考 察

整備に関連する誤りと見落としに加えて、機体の飛行前点検が適切に実施されなかったため、3つの上部ピッチ・チェンジ・リンク・ロッド・エンド・ベアリング・リテーニング・ボルトに適切なトルクがかけられず、安全回り止めの処置が行われないまま、試験飛行が行われてしまった。このため、最終的には、青ブレードのピッチ・チェンジ・リンク・ロッド・エンド・ベアリング・リテーニング・ナットが振動でボルトから外れ、ボルトがマウントから脱落し、ロッド・エンド・ベアリングがピッチ・ホーンから分離した。これにより、メイン・ローター・ブレードが制御不能となり、強い振動が発生して、構造が破壊された。

当該機の機付長は、TM38-750(訳者注:本マニュアルは、すでに廃版になっています。)を遵守せず、まだ終わっていない作業を完了したものとして非可動を解除してしまった。試験飛行の準備を援助した整備員たちは、前回の整備作業時にピッチ・チェンジ・リンク・リテーニング・ボルトおよびナットが緩められたままで、安全回り止めの処置も行われていないことを把握していなかった。このため、機付長がローター・ヘッドの作業が終わったかと聞いた時に、完了したと答えてしまった。この時点で、機付長は、使用不能部品の交換だけではなく、MIMで要求されたピッチ・チェンジ・ロッド・エンド・ベアリングへのフェノール製ワッシャの挿入作業も終了したものと認識してしまった。

検査員は、フェノール製ワッシャの取り付けについては検査を行っていなかったにも関わらず、それを完了したものとして非可動を解除してしまった。検査員がローター・ヘッドを検査する時、使用不能なピッチ・チェンジ・リンクおよびダンパーを交換した整備員が、交換を行った部品を示した。自分の事務室に戻った検査員は、その整備員が行った作業についてしか検査を行っておらず、ピッチ・チェンジ・ロッド・エンド・ベアリング・リテーニング・ボルトとナットが緩んだままで、安全回り止めの処置も行われていないにもかかわらず、MIMの適用についても整備記録に記載されていた他の不具合と一緒に非可動を解除してしまった。機体は、試験飛行の実施が許された状態になってしまった。

機長及び副操縦士は、飛行前点検を適切に実施しなかった。副操縦士は、ローター・システムの点検を行わなかったし、整備記録の確認も行わなかった。その後の予定が詰まっていたため飛行の実施を急いでいた機長は、当該整備確認試験飛行の目的であったローター・システムの整備作業について点検を行わなかった。このため、当該機は、ナットが緩んで、安全回り止めの処置も行われていない状態のまま飛行してしまった。

整備担当将校は、当該機に必要な整備作業量を十分に考慮することなく、試験飛行の実施時期の前倒しを指示してしまった。このことは、他の整備員が機付長を援助することが必要となり、当該機がまだ飛行可能状態でないにもかかわらず試験飛行を許されてしまうという事態を引き起こす要因となった。

ナットが緩められたままで安全回り止めの処置も行われていない状態で飛行させてしまった原因は、整備手順の誤りであるが、リテーニング・ボルトの設計自体も、ピッチ・ホーン・アセンブリからナットが外れる構造になっていた。TM 55-1520-237-23Pには、当該ボルトはセルフリテーニング・ボルトであると記載されているが、正確には、インピーダンスタイプのセルフリテーニング・ボルト(訳者注:TM1-1500-204-23-06 HARDWARE AND CONSUMABLE MATERIALSの2-18ページを参照 )であった。このため、スワッシュプレートより上部のローター・システムに存在する振動荷重によりナットが脱落すると、ボルトが自由に動ける状態となって脱落した。このため、青ブレードの制御が失われた。

出典:FLIGHTFAX, No.48 Sep 1984, U.S. Army Combat Readiness Center

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。この記事は、1984年9月号の記事が2019年6月号に再掲載されたものです。

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