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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧ーUH-60Lのフラットライト(低コントラスト)による悪視程環境下での事故

山岳地帯の氷河において、CIVSAR(civilian search and rescue, 民間人の捜索救難)活動を実施中、転移揚力が十分に得られない状態で、機体が降下した。機体は、氷河に衝突し、約210度右に横転し、横倒しの状態で停止した。機体には、重大な損傷が生じた。搭乗員にけがはなかった。

飛行の経過

事故機の機長は、VIP任務を終了した直後に、地域の救難調整センターから、氷河上に墜落した小型機の乗員を救出するCIVSAR支援の要請を受けた。その任務は、中リスクの任務として承認され、2機の航空機をもって実施されることになった。事故機の搭乗員は、ウェザー・ブリーフィングを受け、気象条件が許容できる範囲内であると判断した。2機の機体は、所属する駐屯地から離陸した。移動間、VFR(visual flight rules、有視界飛行方式)の限界に近い気象状況となった。搭乗員は、任務を継続し、燃料補給点までVFRで飛行した。さらに、燃料補給点から離陸し、墜落した航空機の乗員の位置まで飛行を継続した。

その地域からの情報によれば、天候が悪化しているということであった。2番機の搭乗員が事故機の乗員との無線連絡を試みている間、事故機(1番機)の搭乗員は、事故が発生した空域の共通管制周波数で通話を行っていた。1番機は、墜落現場への進入を継続していた。2番機は、約3マイル離れたところで周回飛行を行い、作戦の実行状況をモニターしていた。1番機が到着した時点で、現地においては、地表面の氷雪が原因のフラットライト(低コントラスト)状態によるDVE(degraded visual environment, 悪視程環境)が生じていた。降着地域を探すため、墜落現場上空で左に旋回しながら低空偵察を行っている間に、機体が降下し、氷河の表面に接触した。機体は、天井を下にして約210度右に横転し、逆さまの状態で停止した。搭乗員に負傷はなかった。

搭乗員

機長の総飛行時間は2850時間であり、当該機種での飛行時間は2182時間であった。副操縦士の総飛行時間は3259時間であり、当該機種での飛行時間は74時間であった。

考 察

当該機の機長は、事故発生時に遭遇したようなフラットライト状態での飛行を過去に経験していた。墜落現場付近に着陸しようとして、降着地域の状態と位置を把握するための偵察飛行を実施していた機長は、フラットライト状態によるDVEのため、機体の方向を維持できなくなった。当該機は、意図せずにELT(effective translational lift, 有効転移揚力)が得られない速度まで減速し、降下し始めた。機長の方向感覚の喪失および状況把握の不適切に加えて、他の搭乗員も、操縦している機長が高度と速度を維持し、地面への接触を避けるために必要な適切な助言を怠った。

これらの搭乗員たちが遭遇した状況は、同じような環境下で実施される任務において、いつでも生じうるものである。搭乗員は、任務と環境を管理する能力について自信過剰となり、恐怖感を失ってしまう傾向がある。この事故においても、搭乗員たちは、自信過剰の餌食となり、基本的なクルー・コーディネーションを怠ってしまった。このCIVSARが行われた場所の明るさと氷雪によるフラットライト状態が、パイロットに錯覚を引き起こし、遠近感とコントラストを失わせるDVEを生じさせていた。搭乗員は、常に警戒を怠らず、機体情報および飛行諸元の読み上げを行い、操縦中のパイロットを援助しなければならない。副操縦士が速度および高度を読み上げ、DVE条件を確認し、危険な状態を発唱するという、搭乗員訓練教範や訓練参考資料に記述されていることを単純に実行することが、任務完遂と事故の差を生み出すのである。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    「フラットライト(低コントラスト)」という用語は、一般的ではないようですが、他に良いものが見つからず、訳語として用いています。何か、他に良い表現があれば教えてください。

    ちなみに、Wikipediaでは「ホワイトアウト」の一つに分類されているようです。

    Wikipedia 「ホワイトアウト」