航空事故回顧-UH-60MのNVGを用いた潜入任務中の事故
NVG(night vision goggle, 夜間暗視ゴーグル)を用いて潜入任務を編隊で遂行していたUH-60Mにおいて、メイン・ローターの回転速度が低下した。当該機の高度が降下し、メイン・ローターが障害物に接触して墜落し、1名が死亡、9名が負傷した。
飛行の経過
当該機の搭乗員は、0900に出頭し、24時間の待機任務に上番した。TAC(tactical command post, 戦闘指揮所)でO&I(operations and intelligence, 作戦・情報)ブリーフイングを受けたのち、飛行前点検を行い、エンジン始動およびHIT(Health Indicator Test, エンジン性能確認)チェックを終了して、待機態勢に入った。任務に関する危険見積およびブリーフィングは、前日に完了していた。当該任務は、敵の脅威があり、月照度が低く、ブラウンアウトが発生し、搭乗員の経験度が十分でなかったことから、中程度のリスクを伴うものであると見積もられていた。その危険見積は、戦闘航空旅団長および最終リスク承認権者である師団長により確認・署名された。天候は良好で、視程は7マイルであった。風向は310度、風速は3ノットであった。気温は摂氏26度、日没は現地時間1945であった。月は水平線よりも下にあり、その照度は0%であった。事故現場の標高は、平均海面高度約5,500フィートであった。
現地時間2215、搭乗員たちは、飛行前ブリーフィングのために集合させられた。その任務は、即応待機部隊2機によるNVGを用いた潜入を行ってLZ(landing zone, 降着地域)を確保し、別な部隊が実施するMEDEVAC(medical evacuation, 患者後送)任務を支援するものであった。即応待機部隊以外の参加部隊には、空中攻撃チーム(AH-64×2機)および2機の患者後送用UH-60があった。飛行前ブリーフィングは、現地時間2235に終了した。現地時間2305に攻撃チームが離陸したのち、即応待機部隊が2210、患者後送機が2215に離陸した。2230、即応対処部隊の2機編隊の長機であった事故機がLZ付近に到着した。
事故機は、指定されたLZに進入して、その約300メートル北側の地点で高いホバリング(100フィート)に移行しようとしていた。ところが、舞い上がった砂塵により、所望の着陸地点が視認できなかったため、搭乗員はゴー・アラウンドを決心し、LZが確認できるようになってから、再進入しようとした。ゴー・アラウンドするために上昇したところ、メイン・ローターの回転速度が低下した。当該機は、砂塵の雲の中を前下方に降下し、前方にあった携帯電話のアンテナに接触した。アンテナへの接触とその後の地上への墜落により、機体は致命的な損傷を受け、1名が死亡し、9名が重傷を負った。
搭乗員の練度
左席に搭乗していた機長の総飛行時間は840時間であり、そのうち750時間がUH-60、41時間が機長、135時間がNVG、36時間が戦闘状況下での飛行であった。副操縦士の総飛行時間は700時間であり、そのうち575時間がUH-60、115時間がNVG、37時間が戦闘状況下での飛行であった。左後部座席に位置していた機付長の総飛行時間は220時間であり、そのうち55時間がNVG、20時間が戦闘状況下での飛行であった。また、右後部座席に位置していた機付長の総飛行時間は290時間、そのうち85時間がNVG、30時間が戦闘状況下での飛行であった。
考 察
事故調査の結果、当該機の搭乗員は、DVE(Degraded Visual Environment, 悪視程環境)の中、OGE(out of ground effect, 地面効果外)ホバリングからNVG離陸を行おうとした際に、ローター回転速度を維持できず、それに適切に対応できなかったことが判明した。また、パワー・マージン(余裕出力)が少なく、月照度もない中、砂塵の発生する着陸地点における緊急任務を実施するにも関わらず、当該機の搭乗員の練度は、その場合に必要な要求事項を満たしていなかった。
さらに、搭乗員相互の連携が不十分であり、操縦操作の確認・支援、ワークロードの分担などが適切に行われていなかった。
加えて、同乗していた空中対応チームは、AR 95-1 運航管理規則に違反して、着陸前にシートベルトを外していた。このため、墜落時に一部のチーム員が機体から投げ出され、そのうちの1名が死亡した。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2014年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
「着陸前にシートベルトを外す」降着後の行動を迅速にしようとすると、やってしまいがちですよね。
シートベルト、座席に関する認識は日米で大きく異なっていると思いますが、このような教訓を踏まえると納得できます。
大変参考になる記事です。
コメントありがとうございます。「日米で大きく異なっている」確かにそうですね。
もう30年近く前のことですが、UH-1で空中機動の共同訓練を行った際、陸自は「床に直に座って(シートベルトなし)、ドアを閉鎖」、米陸軍は「座席に座って(シートベルトあり)、ドアを開放」だった記憶があります。
個人的には、米陸軍の方が理にかなっていると思ったのですが、今は、どうなっているのでしょうか...