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陸軍航空の情報センター

シングル・ローター・ヘリコプターにおけるテール・ローターの性能と限界

ケイシー・ニクソン
UH-72A ウォーファイター・スキル標準化パイロット
第1-223航空連隊(シェル陸軍ヘリポート, アラバマ州フォート・ノボセル)

訳者注:この文章は、「Flightfax」の特別版「Understanding the Performance and Limitations of the Tail Rotor in Single Main Rotor Helicopters」を要約したものです。詳細な内容については、原文を参照してください。

単一メイン・ローターを持つヘリコプターにおけるテール・ローターの性能と限界、特に「予期せぬヨー(unanticipated yaw)」の問題について述べる。2016年以降、米陸軍の訓練課程におけるこのトピックに関する教育が削減された結果、パイロットの理解が低下し、ヨーに起因する事故が増加する傾向にある。パイロットは、テール・ローターの基礎的な理解と基本的な操縦技術に立ち返らなければならない。

1. 予期せぬヨーに関する歴史と新しい見解

従来の定説(ベル社の理論)

従来、予期せぬヨーは、LTE(Loss of Tail Rotor Effectiveness, テール・ローター有効性の喪失)として説明されてきた。これは1984年にベル社が提唱したもので、特定の風向(左前方からの風、後方からの風など)によってテール・ローターが空力的に失速し、十分な推力を発生できなくなるという考え方である。この理論は長らく、FAA(Federal Aviation Administration, 連邦航空局)の教範などの基礎となってきた。

新しい見解(エアバス社の理論)

しかし、近年の研究、特にエアバス・ヘリコプターズ社による分析では、この現象は単なる「有効性の喪失」ではなく、パイロットが認識していない「ペダル・トリム位置の変化」に起因すると指摘されている。

ヘリコプターは、ホバリング中に機首の向きを一定に保つため、メイン・ローターの回転によって生じるトルクをテール・ローターの推力で相殺している。このバランスが取れている状態のペダル位置を「トリム位置」と呼ぶ。

このトリム位置は、風速、風向、機体重量、高度、コレクティブ・ピッチの操作などによって常に変化する。例えば、右からの横風を受けると、テール・ローターの効率が下がるため、より多くの左ペダル(アンチ・トルク・ペダル)を踏み込む必要がある。

エアバス社の『予期せぬヨー』に関する論文から引用したこの図は、風速の増加に伴ってペダル・トリム曲線の振幅がどのように変化するかを示している。40ノットでは、右からの風に対してヘリコプターの機首方位を維持するための十分なテール・ローターの権限はもはや存在しない。

パイロットがこのトリム位置の変化に気づかなかったり、対応が遅れたりすると、機体はパイロットが意図しないヨー(特に右ヨー)を開始する。これが「予期せぬヨー」の正体であるとエアバス社は主張している。重要なのは、テール・ローターは推力を失っているわけではなく、型式証明を受けたヘリコプターであれば、回復に必要なコントロール・オーソリティ(制御能力)を持っているということである。

2. テール・ローターの基本的な航空力学

3. 関連用語の定義

4. 予期せぬヨーが発生しやすい状況と対処法

典型的な危険なシナリオ

最も危険なシナリオの一つが「ダウン・ウィンドからファイナル・アプローチへの降下・減速中の右旋回」である。この一連の操作は、以下の6つの段階で進行する。

1-巡航飛行: 巡航速度では、テール・ローターは比較的安定した気流の中にあり、垂直尾翼の効果もあってペダルはほぼ中立状態にある。

2-旋回の開始: 降下・減速のために機首を上げコレクティブを下げると、トルクが減少するため、協調旋回を維持するために右ペダルを踏み込む。この段階ではまだ対気速度が高いため、垂直尾翼も有効であり、さらに右ペダルが必要となる。

3-旋回中(1): 機首上げ・低コレクティブの状態で右ペダルを大きく踏み込んでいると、機体は右からの風を受ける形になる。これによりテール・ローターの効率(迎え角)が低下し、旋回率が加速する。

4-旋回中(2): さらに、メイン・ローターの渦がテール・ローターに吹き付けられ、テール・ローターは乱気流の中で作動することになる。この状況は、右ペダル入力による低いテール・ローター・ピッチによってさらに悪化する。

5-最終進入への移行: ファイナルに向けて機体を正対させる際、対気速度は低く、機体はETLを失っている。沈下率を抑えるためにコレクティブを急激に引き上げると、トルクが急増し、大量の左ペダルが必要となる。パイロットがこの操作を予測できず、ペダル入力が遅れることが多い。

6-予期せぬヨーの発生: ステップ5での左ペダル入力が遅れたり、不十分だったりした場合(特にDCMが低い状況)、フルに左ペダルを踏んでも機体は右にヨーを始める。この場合、ヨーが完全に収まるまでフル・ペダルを保持し続けなければならない。高度に余裕があれば、前進サイクリックで対気速度を得ることも有効だが、高度の損失を伴う。

パイロットが取るべき対策

                               

出典:FLIGHTFAX SPECIAL EDITIONS, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 有田俊作 より:

    いつも有意義な記事の翻訳と掲載をありがとうございます.
    今回の記事で紹介されているエアバス社の論文は,2019年にERFで発表されたものだと思います.
    エアバス社はこの研究に基づきSafety Notice(3298&3299-S-00)を発簡している他,
    「Flight Physics interactive e-learning」 という自社のホームページ上のコンテンツで,わかりやすい説明(日本語版もある)をしています.

    重ねまして,いつも有意義な記事をありがとうございます.引き続きフォローさせていただきます.