AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

UH-60の思い出

Aviation Assets管理人

写真:陸上自衛隊HP

はじめに

UH-60ブラックホークは、1974年に初飛行し、1979年にUH-1の後継機としてアメリカ陸軍に採用された多用途ヘリコプターです。日本においては、航空自衛隊が1988年から、海上自衛隊が1989年から、陸上自衛隊が1995年から調達を開始しました。自衛隊の航空機の中で唯一、3つの自衛隊で共通して使われている機体です。

とにかくカッコいい!

私が初めてUH-60と出会ったのは、約35年前、北海道の千歳駐屯地で行われていた日米共同訓練でのことでした。パンダのように白と黒で塗装されたVIP空輸用のUH-60Aが、演習場に着陸するところを見ることができたのです。低くて幅広の胴体、太いタイヤ、低い位置に取り付けられたメインローター、斜めに取り付けられたテールローターなど、その頃に流行っていた「シャコタン」のようなスタイルは、強烈なインパクトを与えてくれました。
ちなみに、UH-60のシルエットが全体的に低くなっているのは、敵から発見されにくくするためです。また、テールローターが斜めに取り付けられているのは、上向きの揚力を発生して機体のバランスをとるためです。けっして、カッコをつけているわけではありません。

最大の特長は航続距離

陸上自衛隊のUH-60JAは、増槽タンクを満タンにすれば、130ノット(時速約240キロメートル)の速度で5時間くらい飛行できます。ただし、ヘリコプターの性能は、積載重量や気温などの条件によって大きく異なりますので、あくまで目安です。
飛行時間が長くなると問題になるのが、トイレです。UH-60JAの操縦席には、簡易な携帯トイレが備え付けれられていますが、飛行中に機内でそれを使う事態は、何としても避けたいものです。九州から沖縄まで整備員として搭乗した際、沖縄本島の上空まで来て「ホッ」としたら「もよおし」てしまい、那覇空港に着陸するまで大変な思いをしたことがあります。沖縄本島の大きさを、身をもって実感できた経験でした。UH-60JAのパイロットたちの誰もが、このトイレ問題には苦労しているようです。

巨大な機外増槽タンク

UH-60JAの長時間飛行を可能にしているのは、スーパー・カーのドアのようなガルウィング(カモメの翼)形のサポートに取り付けられた機外増槽タンクです。このタンク、見た目にはそれほど大きく見えないのですが、1本あたり約950リットルもの燃料が入ります。ある時、周辺住民の方に機体の説明を行っていたところ、「俺は、石油会社の社長だ。燃料のことは誰よりも良く知っている。この中にドラム缶5本近い燃料が入るわけがないだろう」と怒られたことがあります。
このタンクは、高い位置に保持されているため、飛行中の視界やドアガンの射界にあまり影響を与えません。その代わり、地上で航空機に乗り降りする際には、頭をぶつけないように気を付ける必要があります。ある日、ある方(階級は陸将補)が搭乗する時に、これに思いっきりぶつかって、もんどりうってしまったことがありました。その姿もさることながら、案内していたパイロットの真っ青な顔が忘れられません。

デジタル化を推進

UH-60JAの場合、速度計、高度計、昇降計などには、従来のアナログ式計器が用いられていますが、姿勢指示器や水平位置指示器には、飛行情報表示装置という小型のデジタル・ディスプレイが使われています。また、多機能表示装置という大型のディスプレイも装備されており、こちらには、GPSマップ、気象レーダー、近距離暗視装置などの画像を表示できます。完全にグラスコックピット化されている最新機種に比べると中途半端な感じもしますが、アナログ式にはデジタル式にはない良さもあります。
計器、航法および自動操縦系統の信号源としては、GPSやドップラー速度センサーが組み込まれた慣性航法装置も搭載されています。こういった最新のデジタル機器の機器のおかげで、UH-60JAは、夜間や視程が不良の時でも、また、長時間の洋上飛行においても、安全かつ快適に任務を遂行できる機体となっています。

戦場を生き残る

空中機動を主な任務とするUH-60JAには、たとえ撃墜されても乗員の命を守る、高い生存性が求められました。UH-60の降着装置には、2段構造のショック・ストラットが装備されています。特に大きな衝撃が加わる前脚のショック・ストラットは、機体の上部まで突き抜けるほど長いものになっています。
操縦士の座席には衝撃を吸収するダンパーが装備され、座席の下には、このダンパーが作動した際に座席が沈み込むことのできる空間が確保されています。また、キャビン内の兵員座席にもダンパーが装備され、天井からぶら下げるようにして、しっかりと固定されています。操縦士用座席には5点式、兵員座席には4点式のシートベルトが装備されています。このシートベルトを装着すると、戦闘を想定した特別な機体に乗っているのだという意識が否が応でも高まります。

エアコンはやめられません

UH-60JAにエアコンが装備されていると最初に聞いた時は、正直を言うと、「そんなもん、いらんだろ~」と思いました。ヘリコプターの場合、自動車と違って、夏でも上空に上がってしまえば涼しいからです。しかし、それまで堪えるしかないと思っていた夏の地上運転や低空飛行のつらさから解放されると、エアコンがついていない機体には、もう乗りたくなくなってしまいました。
米軍のUH-60はエアコンを装備していないため、イラクでは操縦席のドアを取り外し、キャビンドアを開放して飛行していました。このため、機内に大量の砂じんが侵入し、不具合の原因になることも多かったようです。エアコンを装備しているUH-60JAであれば、そのような問題が生じにくいというメリットがあるかもしれません。

不整地での着陸もへっちゃら

UH-1の降着装置はスキッド式ですが、UH-60は車輪式です。一見すると、スキッド式の方が不整地での着陸に適しているように見えますが、実は、地面に凸凹があると機体が不安定になりがちなのです。これに対し、車輪式は3つの点で地面に接するため、多少の凸凹があっても安定して接地できます。
軟弱な地面では車輪が地面に沈み込むのではないかと心配になりますが、車両に比べて重量の軽いヘリコプターの場合には問題になることがほとんどありません。ただし、2014年に発生した御岳山の噴火においては、ぬかるんだ火山灰の上に着陸するために雪ソリを装着しました。

銃口は下向きに

UH-1の場合は床下に燃料タンクや操縦系統がありますが、UH-60の場合は燃料タンクはキャビン後部に、操縦系統は機体上部に配置されており、床下には何もありません。このような設計が行われたのは、敵に地上から射撃を受けた際に重要な系統が被害を受けにくくするためです。
米軍と空中機動の共同訓練を行ったことがありますが、米陸軍の兵士たちは機内に搭乗している間、小銃の銃口を下に向けて保持していました。兵士たちは、このことを「マズル・ダウン(銃口・下)」と呼んでおり、飛行中に誤って銃が暴発した場合でもローター系統や操縦系統を損傷させないため、そのようにしているとのことでした。
 

オートローテーション訓練は不要

ヘリコプターはエンジンが停止してもオートローテーションで着陸できるということが、良く知られています。UH-1のような単発機では、実際にオートローテーションで着陸する訓練を行っています。
米陸軍のUH-60整備課程に入校していた時、ある兵士が「UH-60もUH-1のようにオートロ―テーションで着陸できるのですか?」という質問をすると、下士官の教官が「UH-60がオートローテーションを行うと、こうなる」と言いながら、持っていた黒板消しを机の上に落として見せたのを良く覚えています。もちろん、この表現は極端すぎますが、UH-1Jに比べて機体重量が重いUH-60JAの場合、オートローテーションで安全に着陸することが比較的難しいのは確かです。ただし、UH-60JAのような双発機は、両方のエンジンが同時に停止する確率は天文学的に低いので、オートローテーションで着陸する訓練を実機で行うことはありません。
 

おわりに

UH-60JAが陸上自衛隊に装備され始めてから約30年が過ぎましたが、今でも古さを感じさせない機体です。その理由には、アメリカで開発された時の設計思想が優れていたこともありますが、陸上自衛隊が導入する際に最新のデジタル機器をアメリカ陸軍に先駆けて採用したことも大きいと思います。これからも、まだまだ活躍し続けてくれることでしょう。

           

出典:Aviaton Assets 2024年05月

アクセス回数:554

コメント投稿フォーム

  入力したコメントの修正・削除が必要な場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

6件のコメント

  1. 774 より:

    ブラックホークの背の低いフォルムはC-130に搭載するためと聞きましたが。
    実際の運用ではかなりムリがあるみたいですけど。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。

      「実際の運用ではかなりムリがある」←そのとおりだと思います。
      アメリカ陸軍もUH-60導入当初は教範にC-130への搭載要領を掲載していましたが、その後削除したと記憶しています。

      「ブラックホークの背の低いフォルムはC-130に搭載するため」←加えて、前部胴体の長さも短く変更されたと何かで読んだ記憶があります。
      そうすると重心が後方に移動するため、テールローターを上向きに傾けたというものです。

      いずれも根拠となる資料は見つけられませんでしたので、私の認識が間違っているかもしれません。

  2. 自由人@aero より:

    ちょっと記述に疑問なのですが、海自のUHはオートローテーション訓練を行います。実際自分は参加しました。ただ海上の場合当然着水はしないので予定の低高度で上昇に移りますが、おそらく着陸までの訓練はと言うことで、オートローテーション操作の訓練はするのではないでしょうか?一般の方が思うより高度が必要なので、実用かどうかはありますが。それと防衛省的にはエアコン搭載は機材保護のためと言うことになっています。これ以降コックピットの電子化が進むので機材冷却の流れと言われました。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございました。

      「着陸までの訓練はと言うことで、オートローテーション操作の訓練はするのではないでしょうか?」←そのとおりです。
      「防衛省的にはエアコン搭載は機材保護のため」←こちらもそのとおりです。

      今後とも、よろしくお願いいたします。

  3. ニコ より:

     陸上自衛隊では、仙台田んぼのOH-6、和歌山沖のOH-1、立川のUH-1の経験から、双発機はオートロ訓練を止めたとの噂がありますが、フルタッチダウンだけを止めたのか?、オートロ開始操作も止めたのか?気になります。
    ツインパックのUH-2ではどう訓練をするのでしょうか?
     読売新聞のCVRすっぱ抜きで「高度を保て」は失敗で、「NRを保て」が正解であったかと素人ながら思います。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。
      「仙台田んぼのOH-6、和歌山沖のOH-1、立川のUH-1の経験から、双発機はオートロ訓練を止めたとの噂」も、「読売新聞のCVRすっぱ抜き」も知りません。