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陸軍航空の情報センター

キャノピー・ドアの不時開放

上級准尉2 エドワード・スミス
第1戦闘航空旅団第6騎兵連隊(重騎兵)第3飛行隊C部隊
テキサス州フォート・ブリス

陸軍航空—それは、チェックリスト、専門用語、クルーコーディネーション、そして再びチェックリストの世界です。エンジンを始動するだけでも、こと細かく手順を書いた文書がいくつも存在します。また、従わなければならない規則も存在します。パイロットたちは、示されたチェックリストに従って操作を行うように習慣づけられており、それに従って操作が行われ、双方のパイロットが確認したにも関わらず、その上さらにダブルチェックあるいはトリプルチェックを行うことも珍しくありません。ただし、そのチェックリストが、すべての手順を網羅しているとは限りません。我々の常識に頼らざるを得ない手順も存在するのです。残念ながら、その手順の抜けがクラスA、B、またはC事故の原因となる場合もあります。私が数年前に「ダブルチェックを行ってさえいれば」と思うような経験をしたのも、そんな手順のひとつでした。

それは、2機編隊で縦深攻撃訓練を実施していた時のことでした。韓国のハンフリーズ基地から離陸した我々は、まず、キャンプ・キャロルの北側の地域で訓練を実施しました。射手のヘルメット・アビオニクス・ハーネスに接触不良があった以外に問題はなく、ほぼ計画どおりに訓練を終了して、燃料補給のためキャンプ・ウォーカーへと向かいました。

キャンプ・ウォーカーへの到着は、予定より約20分遅れてしまいました。着陸後、運用将校から、離陸を急ぐように連絡がありました。他のAH-64D4機の編隊が給油に向かっており、駐機場を明け渡す必要があったのです。キャンプ・ウォーカーでは、コールド・リフュエル(エンジンを停止して給油を行うこと)しか認められていないため、離陸する前にエンジンの再始動および機体システムの再起動を行う必要がありました。

これで、事案発生の舞台が整いました。急いで離陸準備をしていると、射手のヘルメットがボアサイトできず、シンボロジーが点滅した状態になってしまいました。幸いなことに、運航指揮所には、隣の中隊の4名の機付長と1名の武装整備員が待機していました。彼らは、すぐに来て、故障探求を始めてくれました。わずか10分で故障個所が判明し、エンジン始動の準備が整いました。

それまでの間に、副操縦士と私は、安全管理SOPに示された基準に従いつつ、チェックリストに記載された手順を順次にこなしていました。エンジン始動の準備が整ったことを確認した機付長は、キャノピー・ドアを閉じる、と私に言いました。エンジン始動と離陸を急いでいた私は、チェックリストの読み上げに集中している最中でした。機付長が、キャノピー・ドアを閉じて、ハンドルを回すのが見えました。ハンドルに手を伸ばして触れると、しっかりと閉じられているように感じました。そのことで、チェックリストのキャノピー・ドアの確認項目を終了してしまいました。エンジン始動および飛行準備を5分ほどで完了し、僚機に対し離陸を連絡しました。

キャンプ・ウォーカーを離陸するとすぐに、前方から4機のAH-64が接近しているという連絡が僚機からありました。私は、その編隊に対し、こちらが対地高度2,000フィート(規定の離陸高度より1,000フィート上)まで上昇するので、そちらはそのままトラフィック・パターンに入るように連絡しました。安全にすれ違うことができたのを確認すると、有視界飛行高度まで降下する旨を航空管制官に通報しました。

降下を開始してから10秒も経たないうちに、私の視野の片隅で、キャノピー・ドアが外側へと開き始めました。何が起ころうとしているのか分った時には、もう手遅れでした。キャノピー・ドアは、全開位置まで猛烈な勢いで開放してしまいました。一見貧弱に見えるショック・アブソーバーがキャノピー・ドアをかろうじて保持してくれたおかげで、ローターにドアが巻き込まれずにすみました。私は、射手に対し、操縦を交代して直ちに速度を下げろ、と叫びました。キャノピー・ドアが開放してから閉じるまでにかかった時間は、1分に満たないくらいでした。

着陸してエンジンを停止してからドアのヒンジを点検すると、キャンプ・ハンフリーズまで帰投できると判断しました。帰路の間、起きたことが信じられず、いったい何が起こったのかをずっと考え続けていました。チェックリストのすべての手順を実施したにも関わらず、キャノピー・ドアの閉鎖が確認できていないなどということがあり得るでしょうか? キャノピー・ドアが不時開放した時の飛行速度は120ノット(真対気速度)、降下率は毎分600〜700フィートでした。言うまでもないことですが、それからは、離陸前にキャノピー・ドア・ハンドルのトリプルチェックを欠かしたことがありません。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ホット・リフュエルの反対語は、コールド・リフュエルです。当たり前のようではありますが、ホット・リフュエルが当たり前の米軍ならではの表現ですね。