思い込みは禁物

それは、エジプトのカイロ北東のナイル・デルタに位置するアブ・ハマド空軍基地での、典型的な初夏の日のことでした。私は、AH-64Aのメンテナンス・テスト・パイロット(MTP)兼アパッチ技術支援フィールド・チームのアドバイザーとして派遣されていました。エジプト側のカウンターパートにとって英語は第二言語でしたが、現地のパイロットたちの表現方法をよく理解しているつもりでした。しかし、それは間違っていました。
整備中隊長との打ち合わせを終えたとき、エジプト人MTPの一人が質問があると近づいてきました。彼は数日間、フェーズ点検を終了した機体の試験飛行に取り組んでおり、ローター・システムのトラック・アンド・バランスの段階まで進んでいました。
「ローター・ブレードから『声』が聞こえるんです」と彼は言いました。「一緒に飛んでくれませんか?」
問題はローターの侵食防止テープに関するものだろうと考えた私は、飛ぶと答え、機体に向かいました。飛行前点検の後、そのエジプト人MTPは、航空機振動分析キットを操作するため、前席に座りました。後席に乗り込んだ私は、標準的な手順で地上試運転を進めました。すべて正常に作動しているように思えました。
地上およびホバリングでの振動測定を終えた後、離陸を許可されましたが、飛行範囲はトラフィック・パターン(場周経路)内にとどめることにしました。元々はソビエトの空軍基地だったその飛行場の滑走路は10,000フィート(約3,048メートル)の長さがあったので、それでも十分な広さがありました。最終測定のために140ノットまで加速しようとするまで、様々な対気速度で測定を行いましたが、その間は特に異常に気づきませんでした。100パーセント・トルクに近づいたとき、左エンジンから機関銃の射撃音のような音が聞こえ始めました。
騒音の中、前席の操縦士が「これが言っていた『声』です。これは何ですか」と言うのが聞こえました。
出力を下げ、トルクが約85パーセントまで低下すると、バン・バンというその音は止まりました。しわがれ声で「コンプレッサー・ストールだ」と言うと、ベース・レグ(最終進入前の経路)へとゆっくり旋回し、着陸態勢に入りました。まだ動揺が止まらなかった私は、大きな出力変更を避けるためロールオン・ランディングを行うことに決めました――10,000フィート(約3,048メートル)の滑走路では大して難しいことではありません。我々は無事に着陸し、それ以上の問題を発生させることなく整備格納庫に戻ることができました。
教訓
この出来事から学んだことは何でしょうか。それは、何事も思い込まずに質問することの重要性でした。
TC 1-238『攻撃ヘリコプターAH-64A用航空機乗員訓練マニュアル』の6-3b項『クルー・コーディネーションの基本資質』には、任務前計画およびリハーサルの実施について次のように記載されています。「任務前計画においては、任務の計画に関連するすべての準備作業を実施しなければならない。これらの作業には、VFR(有視界飛行方式)、IFR(計器飛行方式)、および地形追随飛行の計画が含まれる。また、搭乗員の責任分担の割り当てや、必要なすべてのブリーフィングおよびブリーフバックも実施しなければならない。任務前リハーサルでは、搭乗員が任務全体にわたる予期される事象および予期せぬ可能性のある事象を集合的に視覚化し、議論することが求められる。このプロセスを通じて、すべての搭乗員は、任務の困難な段階や不測の異常事態における行動を熟考し、それらに対処するための戦略を立案する」
もし私が、あのエジプト人MTPが聞いた「声」の性質や、彼が気づいたその他の兆候について具体的な質問をしていれば、機体に乗り込む前に問題を解明できていたでしょう。少なくとも、あの事象の発生に備えることができたはずなのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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