「嫌な奴」にはなるな

その小隊は、連隊で唯一のTUAS(戦術無人航空機システム)を装備する小隊として、忙しい毎日を過ごしていました。私はドイツのヴィルゼック基地にある第2ストライカー騎兵連隊で、TUAS運用技術者として勤務していました。私たちは、連隊の兵士たちのために、24時間体制で監視を継続していました。そのことによって、前方運用基地やそこから離れて活動する兵士たちへの攻撃は大幅に減少していました。TUASは、偵察、監視および目標捕捉を行うだけでなく、敵に対する抑止力としても機能していました。全てが順調で、私たちの作戦は完璧だと思っていました。ところが、そうではなかったのです!
16時間の勤務を終えた私は、シャワーを浴びてベッドに入ったばかりでした。真夜中を少し過ぎたころ、私のコンテナハウスのドアをノックする音が聞こえました。ドアを開けると、小隊長(大尉)と小隊軍曹が険しい表情で立っていました。無人機が墜落したとは思いませんでしたが、彼らの顔つきを見て、何か重大なことが起こったのだと悟りました。二人とも、何か叱責されたような様子でした。私は疲れていましたが、今片付けなければ明日の仕事に響くことが分かっていたので、何が起きたのかと尋ねました。
昇任したての若い大尉が、状況を説明し始めました。ミッション・コマンダーの資格を得たばかりの特技兵が、30分ほど前にアメリカ空軍の注目を集めることになりました。それは連隊長や飛行隊長が喜ぶような種類の注目ではありません。HATR(航空交通安全阻害報告)の対象者となってしまったのです。しかも、単に報告されるだけではありませんでした。
2330頃、その特技兵はオペレーターたちに、次の任務のために無人機を事前配備するように指示しました。そのうえで、そのための空域を割り当てるように要請しました。配備許可が下り、任務遂行に十分な広さのキーパッド、つまり十分な空間が与えられました。オペレーターたちは、地上部隊指揮官たちにより良質な映像を提供するため、さらに低い高度の飛行を要求しました。しかし、それにはエンジン音により敵に無人機の位置を露呈する可能性があるという問題がありました。このため、ミッション・コマンダーは別の高度を要求し直しました。管制官はその要求を承認し、「エレベーター・イン・プレイス(その場での高度変更)」を指示しました。オペレーターたちはその指示の意味について議論しましたが、実際のところは理解できていませんでした。ミッション・コマンダーはオペレーターたちに対し、(すでにクリアランスを得ていた)キーパッドを横断するように飛行しながら、新たな低高度空域に降下するよう指示しました。
降下を開始してから3分も経たないうちに、ミッション・コマンダーの無線通信ディスプレイが大騒ぎになりました。無人機が空域を侵犯し、有人固定翼機と空中衝突を起こしかけたという管制官からのチャット・メッセージが表示されました。その有人機のパイロットは、「HATR(航空交通安全阻害報告)を行う」と書き込みました。これに対し、あろうことか、その若き特技兵は「wwwナニ言ってんの?www」と返信したのです。
教訓
管制官がTUASオペレーターに要求したのは、その場で旋回しながら降下することでした。もちろん、実際には全く違うことが行われました。これは良いことではありませんでしたが、幸いにも誰も怪我をせず、装備品にも損傷はありませんでした。その特技兵はミッション・コマンダーから外され、関係者全員が指導を受け、忘れられていた重要事項を再確認するため、飛行停止措置がとられました。私と私の部下たちは、その日いくつかの教訓を学びました。私は、それを航空コミュニティ全体で共有する必要があると考えます。
- チャット・ソフトウェアは公式の通信に用いるものです。指揮官は、部下に対してそのソフトウェアを使用する際の適切なメッセージング技術を訓練すべきです。今回の場合、その特技兵はパイロットたちは冗談で自分のことを「hater(嫌な奴)」と呼んでいると思っていたのです。特技兵たちは、「HATR(航空交通安全阻害報告)」の意味を分かっていませんでした。
- クルー・コーディネーションは年次訓練の課目となっており、私たちが任務を遂行するうえで非常に重要な事項です。陸軍規則AR 95-1(Flight Regulations)と95-23(Unmanned Aircraft System Flight Regulations、訳者注:現在はAR 95-1に統合されている)の双方で、飛行の全局面においてクルー・コーディネーションを確立することが定められています。クルー・コーディネーションに起因する事故は決して新しいものではありません。私たちは過去の事故から、その教訓を十分に学んできたはずです。有人機であれ無人機であれ、すでに得られている教訓を再び得ようとする必要はありません。用語が不確かな場合は、誰かに聞けば良いのです。全ての兵士や装備は、任務遂行に不可欠なものばかりです。それを失うのは、敵が幸運だったか、単に私たちより優れていた場合だけであるべきです。何かを聞くことを恥ずかしがったり、頑なに拒んだりすべきではありません。
- 空域を管理する管制官が無線で話しているか、コンピューターに入力しているかに関わらず、私たちには自機の真上、真下、横、後方、または前方に他の航空機がいるかどうかを知る権利があります。上空にいた有人機のパイロットが無人機を発見できたのは、降下中に監視を怠らなかったからです。航空管制官は、無人機のオペレーターたちにも有人機のパイロットにも、両者が同じ空域にいることを伝えていませんでした。これは人命が失われ、装備品が破壊される大事故につながりかねない状態でした。
残念ながら、軍隊には勇敢な男女の命を奪う事故が十分すぎるほど発生しています。UASを単なる遠隔操縦機だと考え、容易にその数を増やすべきではありません。私は全ての航空管制部隊とその指揮官たちに対し、無人機を有人機と区別して扱わないことを提案します。無人機と有人機の規則、規制および基準は同じです。空域への進入が許可される手順、不許可とする手順、そして管制指示が提供される手順も同じであるべきです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
原文では、どれが音声による管制で、どれがチャット(テキスト)による管制なのか判別が困難です。
有人機への管制は音声で、無人機への管制はチャットで行われていると解釈して翻訳しました。