2019年度陸軍航空の目標:地上移動中の事故の根絶
陸軍航空が過去3年間に記録した事故発生率は、歴史的に低いものとなった。ただし、ここ2ヵ年度間においては、地上移動中の事故の増加が顕著であった。幸いなことに、これらの事故により死亡者は発生していないが、機体および航空支援施設に重大な損害を生じさせてきた。2018年度においても、貴重な航空機を着陸後に地上の障害物に衝突させるという、憂慮すべき事故の発生を止めることができなかった。年度の終わりまでに、4件のクラスAの地上移動中の事故を発生させ、5機の航空機とその他の支援施設を損壊または破壊し、5000万ドル以上の損害を生じさせるとともに、即応体制に影響を与えてしまったのである。特に、これらの航空機のうち3機(2機のCH-47および1機のAH-64)は、戦闘地域において重大な損害を被り、そこでの戦闘能力の発揮に直接的な影響を及ぼした。
ある航空管制が行われていない地方の空港において、夜間、UH-60が20エーカーの駐機場の片隅にあるコントロール・タワーに衝突した。他の事例としては、同じく航空管制が行われていない地方の空港において、昼間の回収任務を行っていたところ、障害物とのクリアランスの減少についてクルー・チーフが警告を発したにも関わらず、タクシー・ウェイの黄線表示を逸脱して、ハンガーに衝突した事例もあった。さらにもう一件の事例では、夜間、あるCH-47が、FARPでの運用を行っている最中に前方に駐機していた別のCH-47に衝突し、戦場における戦闘即応体制に大きな影響を及ぼした。これらの事故の大部分は、計画または危険見積の不備、指揮・統制の不適切、そして残念なことに任務遂行中の指揮の不適切に起因するものであった。いずれの場合においても、搭乗員には、過度の帰巣本能が働いていたり、任務を継続または完了するため地上移動を速やかに終わらせようとしていたりした。さらに、いずれの事故においても、搭乗員は完全に安心しきっており、飛行および着陸を完了した時点で、あたかもコレクティブ・レバーの固定が終わったかのような錯覚に陥っていたのである。
これらの地上移動中の事故の調査結果によれば、事故の主因が人的ミスであることは言うまでもないことだが、同じような直接的および間接的副因が存在したことが指摘されている。以下、それら共通の要因を列挙する。
任務遂行前の指揮の不適切
・命令下達の不適切
・飛行場での受け入れまたはFARPでの運用に関する予行の不十分
・計画段階における危険見積の結果の反映の不十分
任務遂行中の指揮の不適切
・任務実施間のリスクの低減または既知の危険を回避するための措置の不適切
・障害物を回避するための地上誘導、その他の外的援助を活用する着意の欠如
クルー・コーディネーションの不十分
・機長のコックピットまたはキャビン内における無規律状態の誘起または放置による障害物からのクリアランスに関する意思疎通の欠如
・実施事項の優先順位にかんする機長の判断不適切による機体のクリアランス確保の優先的実施の不履行
クルー・コーディネーションの不適切(クリアランスの確保および障害回避における反応の不適切または不十分)
・機体移動を継続する際のクリアランス確認の不適切
・機体周辺の安全を確認・発唱してから移動を行う着意の欠如
・他の搭乗員への正確かつ確実な情報伝達に必要な障害物の詳細およびその距離に関する情報提供の不適切
・機体移動を継続する前に一旦停止し、最良の行動方針を決定する着意の欠如
・無関係の搭乗員の任務に関係しない言動による他の搭乗員間の機体のクリアランスに関する連携の阻害
クルー・コーディネーションの不十分
・若年パイロットまたはクルー・チーフによる上級搭乗員に対する過剰な礼節または服従、および上級搭乗員の経験・判断に対する過度の信頼
・過剰な自己主張
個人の対応不適切(判断の不適切および機体の安全確保に必要な搭乗員としての役割の遂行不適切)
任務遂行中の指揮の不適切については、特に着目する必要がある。航空機、任務およびリスクを担っている尉官クラスの指揮官が、当該事故を防止するために積極的に危険を回避しようとしていなかった事例が複数あった。 これらの指揮官は、事故が目と鼻の先で起きようとしているにも関わらず、飛行任務に気を取られていたり、対応しなければならないという意識が理解しがたいほどに乏しかったりして、ただ座っているだけだったのである。ある事例においては、RL(Readiness Level, 即応レベル)2の小隊長が障害物の側である右席に搭乗していたにも関わらず、衝突事故が発生した際に機内通話装置に向かって全く声を発していなかった。その事故においては、中隊長も、着陸からエンジン停止までの間、エプロンで事故が起きるのを見ているだけで、状況に変化を与えるための行動は一切取っていなかった。どちらの指揮官も、運用を中止して、危険を緩和するための方策を講じたり、行動方針を変更したりする機会が何度もあったのである。任務承認手続き、リスク評価ワークシート、任務担当将校など、リスク・マネジメントを支援する手法はいくつもあるが、いずれも指揮官に取って代わるものではない。
また、着陸後の気に緩みにも注意しなければならない。機長は、コックピットおよびキャビンの環境を整え、意思の疎通を図り、着陸後の行動の優先順位を適切に判断しなければならない。同様に、各搭乗員も、地上移動間の航空機のクリアランスを適切に維持することの重要性をよく認識し、その責務の遂行を怠ってはならない。飛行中と同じように、地上移動間においても、安全運航の鍵を握っているのは、クルー・コーディネーションの確立なのである。
第10山岳師団長であるウォルター・パイアット少将は、数年前、陸軍機のAPUを始動したり、スターター・ボタンを押したりすることは、実弾射撃と同じである、と述べている。全てのクラスA事故を減少させることが必要であり、そのほとんどが避けられるものであるが、地上の障害物に航空機を衝突させることは、ことのほか避けられるものである。このため、2019年度の目標として、地上移動中の事故の根絶を掲げたい。これは、完全に妥当かつ達成可能であり、戦闘即応体制の確立にも貢献できる目標なのである。
Readiness through Safety!(即応の基本は、安全の確保!)
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故の区分は、概ね次のとおりです(AR 385-10、2013年11月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2千ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 2千ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2018年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
自分の場合、「衝突事故が発生した際に機内通話装置に向かって全く声を発していなかった」というようなことが、過去に全くなかったと言えばうそになるような気がします。実際の場面では、なかなか難しいことだと思います。