AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ガス欠寸前での飛行

上級准尉4 キース・ドリバー
第116軍事情報旅団
ジョージア州フォート・スチュワート ハンター陸軍飛行場

誰でも、「なんとかなるだろう」と思って失敗した経験があるはずです。もし幸運にもそれを経験せずに済んでいたとしても、誰かからそんな経験を聞いたことがあるでしょう-おそらく苦笑を浮かべながら...それは初めての、そして願わくは最後の経験であって欲しいものですが、貴重な経験であることも確かです。私自身の経験をお話ししましょう。

それは、ある作戦地域に派遣されてから1週間ほど経った日のことでした。毎日同じルートを何度も繰り返して飛行していたので、現地の地形には習熟していました。私たちの任務は、人道支援でした。飛行場を離陸し、中継基地まで約40分かけて飛行し、そこで患者を搭載して、数マイル沖合に停泊する海軍の病院船まで空輸するのです。飛行場から遠隔した場所での任務であり、現地での燃料補給が困難であったことから、私たちのUH-60Lには、2つのCEFS(crashworthy external fuel system, 耐クラッシュ・外部燃料システム)タンクが装備されていました。CEFSの教育を終えた者であれば誰でも知っているとおり、満タン状態であれば、巡航速度で約4.5時間の飛行が行えます。その任務のミッション・プロファイルには、患者の搭載・卸下のための地上待機時間が多く含まれており、中継基地から病院船までの飛行時間は7~10分間に過ぎませんでした。このため、4.5時間よりも長い時間にわたって任務を行うことができました。

その日までの1週間は、毎日、5時間ごとに燃料補給と搭乗員の交代を行っていました。通常、着陸時点(5時間経過時点)でも、まだ1時間分以上の燃料が残っており、問題になったことはありませんでした。しかし、この日の飛行は違っていました。時間ではなく燃料が先に限界に達してしまったのです。離陸までの業務にいつもと変わったことはありませんでした。燃料チェックには、いつも以上に注意を払っていました。現地に到着し、ミッション・プロファイルに入る時にも、燃料チェックを行いました。任務中も、継続的に燃料を監視していました。

5時間の任務を終了しようとした時、燃料計は、約1時間20分の飛行が可能な燃料が残っていることを示していました。その時、「もう1回できるんじゃないか?」という考えが浮かびました。1時間20分あれば、もう1回患者を病院船まで空輸してから、給油のために飛行場に戻れるからです。燃料チェックを行ってみると、患者を卸下した後でも、まだ約1時間分の燃料が残る計算になりました。私たちは、自信たっぷりで、実施を決心しました。

最後の患者を卸下した後、飛行場への帰投を開始しました。改めてもう一度燃料チェックを開始し、15分後に完了しました。今度は、それまでよりも燃料消費率が少し多いことに気づきました。でも、大したことではないと思っていました。しっかりと燃料量を監視していれば大丈夫なはずです。10分後、その予想よりもさらに多くの燃料を消費しており、さらに予備が少なくなっていることに気づきました。着陸10分前の時点では、残燃料が400ポンド(約230リットル)まで減っていました。CEFS形態で飛行したことのある人なら分かると思いますが、これはかなり切迫した状況です。

私たちは、丘陵地帯を抜け、市街地の境界に到達しました。着陸5分前の時点では、残燃料は300ポンド(約170リットル)未満まで減っていましたが、そこからさらに、市街地の上空をその反対側にある飛行場まで飛行しなければなりませんでした。不時着適地を探し、最適なルートを検討した私たちは、市街地上空の飛行を回避し、海岸沿いに飛行することにしました。もし、ブラックホークを着陸させなければならない状況になったならば、そこに着陸するつもりでした。

残燃料150〜200ポンド(約87リットル~約116リットル)で両方の残燃料注意灯が点滅する中、着陸許可が得られました。滑走路に向かってストレートイン・アプローチを行い、駐機場へと向かいました。燃料計は、90~120ポンド(約52~70リットル)を示していました。着陸すると、苦笑を浮かべたり、卑屈な笑い声を立てたりする者もいましたが...とにかく無事でした。

エンジンを停止してからAARを行い、何が問題だったのかを話し合いました。最後の任務を開始した時点では、予備を含めた十分な燃料が残っていました。任務開始から継続的に燃料チェックを行っており、燃料消費率は把握できていたはずでした。では、なぜ最後の任務で状況が大きく異なってしまったのでしょうか?

私たちが燃料チェックを行っていたのは、中継基地と病院船の間の短い距離を飛行している時や、病院船の甲板が開放されるまでゆっくりと周回飛行を行っている時でした。任務開始前に中継基地まで向かう長距離飛行での燃料燃焼率は把握しておらず、それを帰投時に必要な燃料の計算に用いることができませんでした。

CEFS形態での燃料消費率に関する一般的な知識についてはどうだったでしょうか? CEFS形態の機体で何百時間も飛行していた私たちは、それを把握していたはずでした。その日、病院船まで往復している間に燃料をチェックした時には、すべてが正常に思えたのです。にもかかわらず、最後の任務での燃料消費率がこれほど大きく変化したのはなぜでしょうか?

答えは簡単なことでした。当初の段階で燃料チェックを行った時には、飛行速度が遅かったため、燃料の消費量が少なかったのです。最後の飛行区間では、より速い速度で飛行していました。海上飛行時の安全対策として、機体の両側のカーゴ・ドアは開放され、コックピットのドアは取り外されていました。このため、高速飛行時に大きな抗力が発生し、燃料消費量が急激に増加したのです。このことを考慮できていなかった私たちは、危うく大惨事を招くところでした。私たちが助かったのは、規定に従って行動するとともに、作戦地域から帰投する際に、最低限必要な予備燃料をかろうじて確保できていたからです。

さて、皆さんは、どうでしょうか? 予備燃料を計算するとき、帰投時のフライト・プロファイルがミッション・プロファイルと異なる可能性があることを考慮しているでしょうか? 燃料がなくなることはありますが、重力がなくなることはないのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 毎週の記事を楽しみにしています より:

    今週も興味深く拝見しました。
    気になったので調べましたが、この記事はかつて「使い果たした燃料」というタイトルで配信されていませんか。

    • 管理人 より:

      えっ!? おおー。そのとおりでした。
      10年前にKnowledge誌(現在は発行されていない)に掲載された記事がRisk Management誌に再掲載されていたのですね。原文は比較していませんが、おそらく全く同一の内容だと思います。翻訳した本人がすっかり忘れていました...翻訳ツールにOmegaTではなくWordfastを使っていた頃の翻訳なので翻訳メモリにも残っておらず、気づかないまま翻訳してしまったようです。
      訳文を比べてみると、燃料消費量が増加した原因の解釈に差がありますね。10年前は最後のコックピット・ドアの取り外しなどが原因だと解釈していますが、今回はその状態で高速飛行した場合の抗力の急激な増加が原因だと解釈しています。任務の途中でも燃料チェックを行っていたようなので、多分、今回の翻訳の方が正しいと思います。10年間で、少しは翻訳能力が向上したのかも知れません。
      ご指摘ありがとうございました。これにこりずに、今後もよろしくお願いいたします。