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陸軍航空の情報センター

UH-72Aでのセットリング・ウィズ・パワーおよびバーディゴ

匿名希望

事案の概要

当該UH-72Aの任務は、メキシコとの国境沿いを監視し、アメリカ陸軍と税関・国境警備局との共同作戦を支援することであった。当該機の搭乗員は、現地時間2200に集合し、運用作戦計画の作成および搭乗員ブリーフィングを完了した。当該機は、0000頃に離陸し、NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を使用しながら、作戦地域上空3,500フィートの周回飛行を開始した。

任務開始から約1時間後、OGE(out of ground effect, 地面効果外)ホバリングを実施中に、クルー・コーディネーションの不適切が原因でセットリング・ウィズ・パワーに陥った。さらに、副操縦士に操縦させていた機長は、操縦を交代して、その状態から回復させようとしたが、バーディゴ(空間識失調)に入ってしまった。当該機は、その後、緊急事態からの回復に成功し、任務に復帰した。任務を終了し、無事に着陸した後、搭乗員によるAAR(after action review, 検討会)が実施された。本不安全による負傷者の発生はなかった。

搭乗員

機長の総飛行時間は545時間、NVG飛行時間は163時間であった。副操縦士の総飛行時間は224時間、NVG飛行時間は50時間であった。機付長の総飛行時間は411時間、NVG飛行時間は125時間であった。なお、機長は、コロラド州ジプサムにある陸軍州兵高標高航空訓練所(High-Altitude Army National Guard Aviation Training Site, HAATS)での訓練を終えたばかりであり、パワー・マネジメントの訓練プロセスにも精通していた。

考 察

周回飛行を行っている間、機付長は、搭載されていたMX-15i赤外線カメラを用いて、監視目標の捜索を行っていた。目標を発見すると、その場所に留まるため、OGEホバリングに移行することになった。パフォーマンス・プラニング・カード(performance planning card, PPC)をチェックし、全備重量および風向・風速を確認した機長は、OGEホバリングを行うのに必要な余剰馬力があると判断した。機長は、操縦を行っている副操縦士に対し、ヘディングを約120度に向けて風に正対し、減速してOGEホバリングに移行するように指示した。

クルーコーディネーションに生じた最初のほころびは、機長が「クロスモニター・パフォーマンス(飛行諸元の相互監視)」を継続しなかったことであった。副操縦士にOGEホバリングを開始するように指示した機長は、NVGを跳ね上げ、燃料量のチェックを行うため「ライトフロント・インサイド(機内に眼を移している)」をコールした。機長が燃料チェックに集中している間に、副操縦士は、対気速度が0ノットに達した際に生じるイニシャル・デセント(最初の降下)を止めるのに必要なパワーの増加を怠った。機外に集中していた副操縦士は、機体が降下しはじめたことに気づかなかった。また、機付長は、カメラの操作と地上の調査員との連絡に集中していた。

機体の降下に気づいた機長は、直ちにゴーグルを下げ、機外に視線を戻すとともに、副操縦士に対しパワーを増加して降下を止めるように指示した。副操縦士は、最大連続出力までコレクティブを引き上げたが、ペダルを踏み込まなかったため、ヘディングが風向から外れ、降下を止めるためにより多くのパワーが必要な状態になった。最大連続出力状態でのセットリングに陥った機体は、毎分1,000フィート以上の速度で降下していた。

機長は、セットリング・ウィズ・パワーに入ったことを宣言し、副操縦士に増速し、風に向かって逃げ込むように指示した。副操縦士は、恐らくそんな余裕がなく、返事ができなかった。このため、機長は、操縦かんを握り、機体を10度の機首下げ、20度の左バンク姿勢に入れて、セットリングから回復させようとした。ところが、NVGを装着せずに頭を下げていた時間が長かったため、機外に視線を移した際に補助目標を捕捉できず、バーディゴ(空間識失調)状態に陥ってしまった。幸いなことに、対気速度が増加するにつれて、機体が上昇を開始した。その後は、任務を再開することができた。

一連の事象が発生している間に、機体の高度は、1,500フィート以上低下していた。さらに低い高度で運用していたならば、致命的な事故に至った可能性がある。AARにおいて、搭乗員たちは、次の事項を確認した。搭乗員ブリーフィングの際に搭乗員訓練マニュアルのタスク1038「ホバリングの実施」に記載されているNVGおよぼOGEに関する事項を確認したにも関わらず、セットリング・ウィズ・パワーやバーディゴの発生を予測できていなかった。また、「クロスモニター・パフォーマンス(飛行諸元の相互監視)」および「ダイレクト・アシスタンス(直接的援助)」を怠ったことが、各搭乗員のタスクの飽和をもたらした。加えて、副操縦士は、重荷重でパワー・マージンが小さい場合のOGEホバリングについての経験が不足していた。

この不安全は、搭乗員がより十分な練度を有しており(機長と副操縦士の合わせた飛行時間は、1,000時間にも満たなかった)、かつ、任務の特性に応じた搭乗員ブリーフィングをより入念に実施し、クルーコーディネーションをより適切に維持できていれば、避けられたはずであった。燃料の確認も重要ではあるが、重要度の低い飛行モードのうちに完了し、クルーコーディネーションに欠かせない「クロスモニター・パフォーマンス」に影響を及ぼさないように考慮すべきであった。

航空安全担当将校および教官操縦士は、朝礼などの平常の機会を通じて、任務の特性に応じた危険見積および効果的なクルーコーディネーションについての機会教育の実施に努めなければならない。その際、飛行計画作成時の搭乗員の練度把握、その練度を考慮した操作指示、および、操作の優先順位および実施順序の的確な判断に着意しなければならない。

Readiness Through Safety!(安全性の確保こそが、即応性の向上をもたらす)

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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