適切な工具を使おう!
整備のプロであるにも関わらず、私たち整備員は結果を考えずにリスクを冒してしまいがちです。工具を適切に手入れし、使用することは、プロとして欠かせないことです。ところが、残念なことに工具を大切にせず、不適切に使用してしまう場合があまりにも多いのです。私の体験をお話しましょう。
若い兵士や整備員は、これから何をするのか、ましてやその結果がどうなるのかを考えたり計画したりすることがあまりありません。仕事を早く終わらせて、上司を喜ばせたいだけなのです。ツールボックスに工具を入れて航空機に向かってから、ドライバーを忘れたことに気付くことが何度あったでしょうか。心配ありません。ナイフを使えばいいのです。マルチツールを使えば、もっと便利です。ツールボックスなんて、いったい誰が必要とするのでしょうか? 以前は標準工具にナイフが含まれていたことを覚えている人もいるかもしれません。それにはロック機能のある刃が二枚付いていて、そのうちの一枚は先端が平らになっていました。私たちは、それが素晴らしいドライバーとして使えると思っていました。結果的に私は、適切な工具を使用することの重要性を学ぶことになりました。
韓国に駐在していた時、整備小隊の分隊長だった私は、CH-47Dの定期整備を準備するため、2台のエンジンを取り外す任務を与えられました。いつものように、私はこの機会を分隊の整備訓練に利用しました。私は、エンジンを持ち上げる前のエンジン後部マウント・リンクをマウント・ラグから外す作業において、そのリンクで下側のベアリングから、ハット・ブッシングを押し出すという、整備マニュアルのとおりの要領を展示しました。最初のエンジンを問題なく持ち上げた後、2台目のエンジンに移りました。そのエンジンの取り外し準備は、部下に行わせることにしました。
配管が切り離され、スリングが取り付けられましたが、残念ながら、その部下にとって、その要領でブッシングを動かすのは難しく、何か別のもので力を加える必要がありました。その部下は、例のナイフの平らな刃先を使って、ブッシュを押し出そうとしました。しかし、いらだちのあまり手が滑り、その刃で指を切ってしまいました。さらに悪いことに、その事故の際、大隊の上級曹長が私のすぐ隣に立っていたのです。上級曹長がそれを面白がらなかったのは言うまでもありません。私にとって、この出来事は学ぶべき教訓であったはずでした。
それから3年後、航空機の日々の整備を行う飛行搭乗員を支援する技術検査官となっていた私は、CH-47Dのトラック・アンド・バランスを準備していました。農場育ちの私は、いつもナイフを持ち歩いていました。10年以上にわたって3枚刃のナイフをポケットに入れて持ち歩き、何百回、もしかしたら何千回と、その先端でカムロック・ファスナーやズース・ファスナーを回してきましたが、一度も事故はありませんでした。しかし、この日、クラムシェル・ドアのカムロックを解除している時に、刃が急に折れ曲がって、親指にあたってしまったのです。苦痛の叫び声と共にいくつかの過激な言葉を発すると、機内にいたクルークルー・チーフが外に出てきました。驚いたことに、戦闘救命課程を最近卒業したばかりだった彼は、自分の救急バッグを機内に置いていました。彼は私の親指を包帯で巻いてくれましたが、私の恥ずかしさを治すことはできませんでした。
親指の傷はすでに治りましたが、私の心にはまだ記憶が残っています。兵士たちが航空機のパネルを開けるのにナイフを使っているのを見かけると、ちゅうちょせずに自分の経験を話すようにしています。日頃から工具の大切さを意識していない私たちは、作業のための計画を適切に立てることなく、誤った使い方をしてしまいがちです。ナイフはドライバーとして使うべきものではありません。幸運なことに、私のナイフは切れ味が悪かった(手入れ不足のせいですが)ので、怪我が軽くて済みました。私の失敗から学び、常に適切な工具を使用してください。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
カムロック・ファスナーやズース・ファスナーという呼び方は、初めて知りました。
「エンジンを持ち上げる前のエンジン後部マウント・リンクをマウント・ラグから外す作業において、そのリンクで下側のベアリングから、ハット・ブッシングを押し出す」という部分は、具体的にイメージできていません。
うまく説明できる方がいれば、教えて下さい。