AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

コヨーテによる訓練中の負傷

最上級曹長  ロジャー・グッドウィン
ハワイ州陸軍州兵ウィーラー陸軍飛行場部隊コマンド
ワヒアワ、ハワイ州

我々は、ルイジアナ州フォート・ジョンソンにおける第29歩兵旅団戦闘チームのJRTC(Joint Readiness Training Center, 統合即応訓練センター)演習で、安全管理班として勤務した。この種の大規模な演習における不安全の防止が容易ではないことは、十分に承知していた。我々の任務は、9個大隊で発生する事故の監視、対応および報告であった。JRTC運用班および駐屯地安全チームと緊密に連携し、熱中症、鉄道による長距離輸送、実弾射撃、空中離脱、悪天候、車両縦隊の移動、昼間・夜間・ブラウンアウト、軍用車両の横転、コンテナ・ヤードの運用など、過去の演習における不安全や事故の発生状況を踏まえた任務の遂行に努めていた。しかし、ある想定外の危険要因に驚かされることなる。

ルイジアナ州中西部のうっそうとした森林地帯には多くの動物が生息している。我々は、よく見られるヘビやクモなどの「クリッター(小動物)」について訓練用安全ガイドブックに記載し、それらへの注意を促していた。しかし、まさかコヨーテが現れるとは想定していなかった。北米が原産のコヨーテは、米国のいたるところに生息する動物ではあるが、訓練中に被害が発生したことはなかった。このため、それに対する防御法をブリーフィングすることは全く考えていなかった。この演習が、演習場での動物による被害の発生で歴史に名を刻むことになるとは、夢にも思っていなかった。

最初の被害は早朝に発生した。睡眠中の兵士の左腕にコヨーテが噛みついたのである。兵士はコヨーテを突き飛ばしたが、他の兵士たちがそれを追い払う前にもう一度噛まれてしまった。地元の野生生物監視員は、その兵士が所属する小隊のレイヴンTUAS(Tactical Unmanned Aircraft System, 戦術無人航空機システム)の支援を受け、そのコヨーテを発見して捕獲した。直ちに狂犬病の検査が行われたが、陰性と判明したのは7日後のことであった。その間、噛まれた兵士は狂犬病のワクチン接種を受けなければならなかった。

最初の被害の翌日、0100時から0600時の間に、さらに12名の兵士が複数のコヨーテに噛まれた。被害を受けた兵士たちは、睡眠であったり、戦闘陣地で歩哨任務であったり、あるいはコヨーテを捜索中であったりした。最初の被害者と同様に、それらの兵士たちも治療や狂犬病ワクチン接種のため、ベイン・ジョーンズ陸軍地域病院へ搬送されなければならなかった。

被害を受けた13名の兵士全員に聞き取り調査が行われた。その結果、特に被害が深刻であり、発生状況が特異だったのは、次の3つのケースであった。1つ目のケースでは、兵士はナイト・ビジョン・ゴーグルを装着し、ほふく姿勢で警戒任務にあたっていた。その時、コヨーテに背後から奇襲され、耳と頭部を噛まれたのである。2つ目のケースでは、塹壕内で待機していた兵士の前に、突然、コヨーテが現れた。兵士は、防御本能が働いたコヨーテに腹部を噛まれてしまった。3つ目のケースでは、顔面への攻撃という最も深刻な被害が生じた。戦闘陣地で睡眠中だった兵士は、鼻の近くに冷たく湿った感覚があって目を覚ました。それは兵士を身体検査しようとしたコヨーテの仕業だった。兵士は口を噛まれてしまった。

コヨーテがなぜ兵士たちを攻撃したのか、その正確な原因は分かっていない。MRE (Meal, Ready-to-Eat, 戦闘糧食)のゴミに引き寄せられたのかもしれないし、空腹に駆られたのかもしれない。あるいは縄張りや巣穴を守ろうとした可能性も考えられる。ただし、いずれの被害も早朝の時間帯に、コヨーテの子供がいる巣穴の近くで発生しており、近くには開封された食べ残しの糧食があった。JRTCの野生生物に関するブリーフィングでは、ゴミや開封された糧食の処理を徹底することが指示されていた。被害の発生を受け、駐在する野生生物監視員の増員、捕食動物に関するより詳細な地域調査の実施、発生場所付近での部隊行動の禁止などの対策がとられることになった。

我々は、それらの対策に必要な調整と訓練を完了し、9個大隊すべての兵士の即応性と総合戦闘力を確実なものにすることができた。しかし、残念なことに、被害を受けた13名の兵士にもたらされたものは、貴重な教訓や一生の思い出だけではなかった。何も罪がないのにもかかわらず、想定外の敵から一生消えないほどの深い傷を負ったのである。彼らの不運を無駄にしないためには、「ザ・ボックス(訓練場)」で遭遇しうる外的危険要因の想定範囲を見直す必要がある。

参考

ルイジアナ州野生生物・漁業局によると、コヨーテが人を攻撃することは稀である。しかし、つがいのコヨーテは縄張り意識が強くなり、妊娠したメスが選んだ巣穴を守ろうとして攻撃的になることがある。コヨーテの子供が生まれるのは3月下旬から5月の間であり、子育てをする夏の間は特に活発な行動が見られる。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    現役の頃、北海道で演習中にヒグマがでたことがあったのを思い出しました。