効果的な意思疎通ができているか?
ブラックホークで発生した4件の事故に見られる共通点
H-60ブラックホークに最近発生した4件の事故(カリフォルニア州サンクレメンテ島、サウジアラビアのティアン島(多国籍軍監視団)、ニューヨーク州メンドン、アイダホ州ダンスキン山脈)には、いくつかの共通点が見られる。第1に、4件の事故すべてにおいて、複数の死者が生じている。第2に、4件の事故すべてにおいて、機体が完全に喪失している。第3に、4件の事故すべてが、戦闘ではなく、訓練または評価を実施中に発生している。さらに、4件の事故すべてにおいて、少なくとも1人の教官操縦士(instructor pilot, IP)が操縦装置を操作できる状態で搭乗していた(そのうち2件の事故では、後席にも訓練担当操縦士(standardization pilot, SP)が搭乗し、評価を行っていた)。これら4件の事故の原因は、いずれも器材の不具合ではなく、人為的ミスであったと結論付けられている。具体的には、規制または指導事項からの逸脱、手順の不適切、もしくは制限または基準の超過によるものであった。そして最後に、4件の事故すべてが、回避することのできた事故であった。クルー・コーディネーションを適切に行い、搭乗員の誰かが意見を具申して、注意を喚起できていれば、発生させずに済んだ事故だったのである。
すべての搭乗員訓練マニュアル(aircrew training manual, ATM)には、クルー・コーディネーションに関する章(第8章)が設けられている。クルー・コーディネーションとは、大まかに定義するならば、飛行任務を安全、効率的かつ効果的に実行するために必要な搭乗員間の相互連携である。これら4件の事故におけるクルー・コーディネーションの内容、方法および対象はさまざまであったが、いずれにしても、搭乗員間の相互連携がどこかで途絶してしまったのである。その途絶は、積極的な意思疎通の不足により他の搭乗員の行動を容認してしまったり、状況判断の不適切または搭乗員相互間の情報共有の不十分をもたらしたりしたが、いずれにしても、これらの事故は、発生を回避できたし、複数の死者を出さずに済んだという事実に変わりはない。これらの事故のいずれにおいても、そのような結果を回避し、または変化させるような意見具申などが行われた形跡が認められなかった。
意思疎通や操縦操作を適切に行うことは、搭乗員に課せられた非常に困難な課題である。もちろん、それが必要なのは、航空機だけに限らない。しかしながら、航空機においては、通常、それが不適切だった場合にもたらされる結果が極めて重大なのである。任務が適切に計画され(訓練も任務である)、ブリーフィングされ、承認され、そして状況判断が継続され、不測事態への対処が十分に準備されたならば、その任務は成功に向かっているといって良いであろう。しかし、この成功への道のりを進み続けるためには、任務、基準、制限、および手順の重要性を、すべての搭乗員が認識できていなければならないのである。意思疎通の途絶は、常に事故発生の原因となりうる。任務が適切に計画できていないことや、(評価上の都合などのため)情報を意図的に伝達していないことも、事故発生の原因となりうる。同様に、規制または指導事項に従わないことや、是正措置を意見具申しないことも、事故発生の原因となりうるのである。
過去の航空事故調査結果報告書によれば、事故発生までの過程において、少なくとも1つ以上の欠落または不備によるクルー・コーディネーションの途絶があったものが大部分を占めている。もし、「何でもパイロットのせいにするな」と思う者がいるならば、その者は、過去にクルー・コーディネーションに失敗した経験があるに違いない。さらに言えば、クルー・コーディネーションの内容、方法および対象のうちのいずれかに関して失敗した経験は、誰にでもあるはずなのである。にもかかわらず、なぜ、われわれは死なずに済んでいるのだろうか? それは、神のご加護があったから、または、状況や環境が良かったから事故に至らなかっただけかもしれない。もしくは、推定するに、全くの推定であるが、他の搭乗員による何らかの意見具申などが結果を変えてくれたのかもしれない。
理由はさまざまであるが、搭乗員訓練マニュアルにも記載されているとおり、クルー・コーディネーションには失敗がつきものなのである。ただし、たった1つの失敗が、常に事故を引き起こすわけではない。これらの4つのH-60事故が発生したのは、事故に至る前に、それに対する是正措置が適切に行われなかったからなのである。たとえば、あるCH-47の機長が、実際にどれだけの速度が出せるのかを試すため、超過禁止速度をはるかに超えるまで増速しようと言ったとしよう。もし、他の搭乗員(副操縦士、機付長、または機上整備員)が何も言わなければ、この制限違反を容認したことになる。搭乗員が機長の制限超過を容認するような状態は、クルー・コーディネーションが途絶していることを意味する。他の搭乗員は、機長の行為または行動を抑制するために、断固とした対応または意見具申などを行うべきなのである。機長が事故を起こさないという保障は、まったくない。最近の4件の事故のすべてにおいて、操縦していたのは機長であったことが、これを証明している。
最大の疑問は、クルー・コーディネーションが途絶して事故が発生する前に、なぜ、他の搭乗員が介入できなかったのかということである。これは、重大な疑問でもある。変更や是正を意見具申する自信がなかったのであろうか? 資格を有する搭乗員であるにも関わらず、なぜ、規制または指導事項から逸脱し、もしくは制限または基準を超過することを容認してしまったのであろうか? 4件の事故すべてには、操縦教官が関与していた。この役職は、副操縦士による意見具申や異議申立をできなくしてしまうのだろうか? また、2件の事故においては、技量評価が行われていた。副操縦士は、デブリーフィングや評価において、そのような言動について指摘を受けることを恐れたのであろうか?
その理由は、搭乗員たちに行われてきた訓練にあるのかもしれない。もし、「聞かれたことだけに答えろ」というような指導が訓練中に行われていたとしたら、大変な問題である。搭乗員であれば、誰でも、いかなる飛行においても、安全かつ効率的な任務の遂行に関して意見を述べることができるのである。さらに、搭乗員には、状況のいかんに関わらず、自らの役割を果たすために必要な能力が備わっており、それを発揮することが期待されているのである。たとえ通常と異なる上下関係が存在する場合であっても、安全上の問題が生じた際の意見具申が妨げられるようなことは、あってはならない。
確かに、搭乗員としての役割をいかに果たすかは、永遠の課題である。時と場合によっては、上官に敬意を払うことが求められることもあるが、誤りに対する意見具申をためらってはならない。理由が何であれ、基準に合致しない飛行であると認識しているにも関わらず、当該飛行や操縦操作の停止について誰も注意喚起や意見具申を行わなければ、クルー・コーディネーションに途絶が生じるのが当たり前である。こういったクルー・コーディネーションの途絶こそが、複数の死者を伴う4件の事故を引き起こした原因なのである。
もう一度述べる。これらの事故が発生したのは、「訓練中」である。訓練中に「幸運」を期待してはならない。搭乗員の一員となったならば、相互の連携および意思の疎通を図るとともに、飛行安全を確保するために必要な意見具申を行うことが義務であり、そうすることが期待されているのである。自分自身や仲間の生命のために必要な意見具申ができないのであれば、別の職業を探したほうが良いかもしれない。その命は、将来において、別な命を救うかもしれないことを忘れてはならない。
プロの搭乗員であれば誰でも、物事の善悪を判断し、ブリーフィングで承認されたリスクとそれ以外のリスクを区別し、意見具申を行ったり意思疎通を図ったりする能力と機会を有することを改めて自覚すべきである。搭乗する機種に応じた手順、基準および運用制限を逸脱した操作を行ってはならない。他の搭乗員が、その階級や搭乗区分に関わらず、プロ意識を維持し、効果的な意思の疎通を図るよう、自ら模範を示さなければならない。幸運に頼ったり、安全をおろそかにしたりしてはならないのである。
効果的な意思疎通を追求せよ!
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
4件の事故について、発生までの経過などの情報があればと思いましたが、残念ながら公表されていないようです。