2026年度上半期航空事故レビュー
このレビューは、2025年10月から2026年3月まで(2026会計年度上半期)に発生した全ての航空事故を網羅的に振り返るものです。陸軍全体で陸軍安全管理情報システム(Army Safety Management Information System, ASMIS)に記録されたクラスA~Eの事故は、合計155件でした。これらのうちの大半は、クラスC事故(30%)とクラスE事故(45%)であり、機体の中程度の損傷または人員の負傷を伴うものでした。しかし、最も深刻なクラスA事故も3件(2%)、クラスB事故も5件(3%)発生しています。事故件数がどの区分・種類に集中しているかを示すため、図1にクラス・種類別の件数を示します。

ASMISにおける事故区分は、AR 385-10により「飛行事故(Flight)」「飛行関連事故(Flight-related)」「地上事故(Aircraft Ground)」の3種類と定義されています。今会計年度上半期においては、地上事故が76件(49%)、飛行事故が72件(46%)と大半を占め、ASMISに記録された飛行関連事故は7件(5%)でした。
事故の原因
155件の事故を見ると、人的ミスが原因であるものが最も多く、対象期間中の全事故の70%を占めました。これに続くのが器材の不具合(21%)、環境要因(9%)でした。分析の結果、人的ミスにおける主な要因は、手順の不遵守、不十分な危険見積、および過信であり、特に訓練任務中に多く見られました。器材の不具合として多かったのは、エンジン系統の故障(オーバーテンプ、異物破片(Foreign Object Debris, FOD)、油圧低下など)と、トランスミッションまたはローター構成部品の故障でした。図2に、原因・種類別の件数を示します。注:ASMISにおいて「Unknown(不明)」が選択されている事故についても、分析ツールを用いれば、その背景を明らかにすることができます。

機体の状態
対象期間中に事故に関与した機体の大半は修復可能でしたが、あるAH-64Eは、搭乗員が飛行中に緊急事態に遭遇し、樹木が密生した地形へオートローテーション着陸を行った結果、機体を喪失しました。搭乗員は軽傷を負いました。「損傷なし」として記録された事案は、機体の損傷ではなく、報告基準を満たす負傷が生じたために記録されたことを示しています(図3を参照)。
図3.航空機損傷区分
| 損傷区分 | 件数 | 負傷者数 |
|---|---|---|
| 修復可能 | 125 | 4 |
| 修復不能/全損 | 1 | 2 |
| 損傷なし | 29 | 25 |
事故機の機種(MDS)
機種(Mission Design Series, MDS)別に事故を分析すると、機種、事故件数、機体の状態の間に表1に示す相関が見られます。
表1.事故件数と負傷者数・機体状態の相関
| 機種 | 事故件数 | 負傷者数 | 全損 | 修復可能 | 損傷なし |
|---|---|---|---|---|---|
| MH-6M | 9 | 0 | 0 | 9 | 0 |
| AH-64E | 19 | 6 | 1 | 16 | 2 |
| CH-47F | 22 | 3 | 0 | 17 | 5 |
| UH-60M | 37 | 8 | 0 | 30 | 7 |
| MH-60M | 5 | 0 | 0 | 4 | 1 |
| HH-60M | 11 | 3 | 0 | 9 | 2 |
| UH-60V | 5 | 1 | 0 | 4 | 1 |
| AH-64D | 4 | 2 | 0 | 2 | 2 |
| C-12V | 2 | 0 | 0 | 2 | 0 |
| UC-35A | 3 | 0 | 0 | 3 | 0 |
| UH-72B | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| UH-72A | 2 | 0 | 0 | 1 | 1 |
| UH-60L | 23 | 5 | 0 | 18 | 5 |
| MH-47G | 4 | 0 | 0 | 4 | 0 |
| CH-47D | 3 | 3 | 0 | 0 | 3 |
| UH-60V X2 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| C-12U | 3 | 0 | 0 | 3 | 0 |
| C-12R | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
表1の機種列のデータは、機種系列別の事故件数を比較できるよう、図4(下記)にさらに細かく示されています。

人員
今回の対象期間中、陸軍において死者は発生しませんでしたが、表2に示すとおり複数の負傷者が発生しました。表2は、陸軍安全衛生プログラム(AR 385-10、第3-9項)の規定に基づき、報告対象となる負傷の種類ごとの件数を示したものです。表2には、負傷者数、休務日数、制限勤務日数、営内待機日数、入院日数の各項目について、日数ベースの合計件数を示しています。
表2.負傷詳細
| 陸軍死者数 | 陸軍負傷者数 | 休務日数 | 制限勤務日数 | 営内待機日数 | 入院日数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 30 | 3 | 48 | 308 | 47 |
飛行時間
2026年度上半期は、陸軍全体の飛行に異例の中断が生じて大半の航空部隊が影響を受け、飛行時間の減少につながりました。飛行時間の減少は、回転翼機・固定翼機のいずれにおいても10月と11月に最も顕著でした。以下に、陸軍全体の飛行時間の合計と、3月までに報告された飛行時間の機種別内訳を示します。
表3.機種別飛行時間
| 機種 | 飛行時間 |
|---|---|
| 陸軍全体 | 294,492 |
| H-64 | 42,971 |
| H-47 | 29,885 |
| H-60 | 118,271 |
| H-72 | 66,142 |
| その他回転翼機(Other RWA) | 6,105 |
| 固定翼機/その他固定翼機(FW/Other FWA) | 31,108 |
以下の2つの表は、陸軍全体の回転翼機部隊および固定翼機部隊が飛行した月別飛行時間の合計をまとめたものです。前年度の同じ月との比較が可能であり、前年度からの変化率(%)と変化時間も示しています。飛行時間の減少は、回転翼機・固定翼機のいずれにおいても10月と11月に最も顕著でした。
表4.回転翼機の前年同期比較
| 月 | FY25 | FY26 | 前年度比変化率(%) | 前年度比変化時間 |
|---|---|---|---|---|
| 10月 | 58,866.7 | 42,858.0 | -27.19 | -16,008.7 |
| 11月 | 61,532.5 | 38,612.2 | -37.25 | -22,920.3 |
| 12月 | 46,287.9 | 42,999.9 | -7.10 | -3,288.0 |
| 1月 | 30,907.1 | 36,085.8 | 16.76 | 5,178.7 |
| 2月 | 50,717.9 | 50,598.2 | -0.24 | -119.7 |
| 3月 | 54,253.1 | 50,236.2 | -7.40 | -4,016.9 |
表5.固定翼機の前年同期比較
| 月 | FY25 | FY26 | 前年度比変化率(%) | 前年度比変化時間 |
|---|---|---|---|---|
| 10月 | 8,295.6 | 4,902.2 | -40.91 | -3,393.4 |
| 11月 | 8,621.9 | 3,409.7 | -60.45 | -5,212.2 |
| 12月 | 7,405.6 | 5,549.0 | -25.07 | -1,856.6 |
| 1月 | 5,940.1 | 4,919.6 | -17.18 | -1,020.5 |
| 2月 | 7,665.1 | 6,191.8 | -19.22 | -1,473.3 |
| 3月 | 7,176.7 | 6,135.2 | -14.51 | -1,041.5 |
事故事象(一次事象・二次事象)
以下の事故事象は、「一次事象(Primary)」および「二次事象(Secondary)」別の発生件数をASMISから抽出し、一覧にまとめたものです。155件の事故事象のうち発生件数が最も多かったのは、機体の地上移動および整備を対象とする地上搬送・整備作業、オーバーテンプ、オーバートルク、オーバースピードなど全てのエンジン故障を対象とする動力装置の故障・不具合、そして機体の主要系統の故障を対象とするシステム故障でした。

ASMISには、一次事象の下位区分として155件の二次事象が記録されています。発生件数が最も多かった(明確に区分された)事象は、負傷(応急処置を超える報告対象の負傷を対象)、機体損傷(報告対象となる機体損傷が生じた事象を対象)、およびエンジン故障(一次事象を補足するオーバーテンプ、オーバートルク、オーバースピードなどのエンジン不具合)でした。「Other(その他)」が用いられている事象についても、分析ツールを用いれば、その背景を明らかにすることができます。

この分析結果を踏まえ、今後の事故の発生頻度と重大性を低減するための重点分野を以下のとおり提言します。
運用訓練と手順による人的ミスの低減
- 手順の徹底:特に緊急操作および整備作業において、チェックリストや整備実施規定の厳格な遵守を徹底する。
- 危険管理:より実効性のあるリアルタイムの危険見積訓練を導入する。地上牽引、ブレード・ウォーキング、整備作業中の事故の多くは、身近に潜む危険を認識・軽減できなかったことに起因していた。
- 搭乗員間の連携:コミュニケーションおよびクルー・リソース・マネジメント(Crew Resource Management, CRM)の改善を重視する。明確な復唱の欠如や視覚走査(ビジュアル・スキャン)の乱れに起因する事案は、チームとしての連携強化が必要であることを示している。
予防整備による器材の不具合の減少
- エンジンの健全性:エンジン関連の事案(異物破片、オーバーテンプ)が多いことを踏まえ、飛行前・飛行後のエンジン点検を徹底する。列線におけるFOD拾集をより高頻度で実施する。
- トランスミッションおよび動力伝達系統:あるクラスA事故において、トランスミッションの重大な故障が確認された。AH-64のテール・ローター用ベベル・アイドラー・ギアセットの取扱手順に関する飛行安全(Safety of Flight, SOF)通報に従うこと。
- 工具・器材管理:器材管理プログラムを強化し、異物破片を防止する。
綿密な気象計画による環境上の危険への対処
- 気象上の危険:強風による機体損傷は、地上・飛行中を問わず生じていることを踏まえ、気象予報を十分に確認するよう徹底する。悪天候が予想される場合は、機体の固縛を適切に実施する。
- 野生動物対策:複数のバード・ストライクによりエンジン損傷が生じていることを踏まえ、特に低空飛行および暗視眼鏡(Night Vision Goggle, NVG)を使用した飛行においては、搭乗員に運用地域における鳥類の活動状況について情報を提供する。
会計年度上半期の状況を分析することで、発生した事故および事象を評価し、下半期における事故防止の取り組みをどこに重点配分すべきかを判断することができます。追加の防止対策を講じない場合には、下半期も上半期と同様の傾向をたどると想定するのが妥当です。地上搬送・整備作業および飛行中の事故のいずれにおいても人的ミスが最大の原因であることから、この分野に集中して取り組むことが、人員に対するリスクの低減に最も効果を発揮します。
事故の低減は、航空事故の一次事象・二次事象を検証し、重点を絞った訓練、整備、および危険管理計画を全ての運用に組み込むことによって実現できます。
米陸軍戦闘即応センターのポスター・ライブラリでは、航空関連ポスターを全てダウンロードいただけます。以下のURLからご覧ください:https://safety.army.mil/ON-DUTY/Aviation/Posters
出典:FY 2026 Aviation Mishap Mid-Year Review, FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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