ルーチンワークに潜むリスク
海外派遣中の飛行隊パイロットであっても、日々の業務がルーチンワークになってしまう場合があります。任務を遂行するにあたって、最終目標の達成に必要な手順を完全には説明できないことも少なくないのです。一例として、歯磨きを考えてみましょう。朝に歯を磨いたことは覚えているでしょうが、洗面所まで何歩だったとか、歯磨き粉のチューブにキャップをしたかどうかまで思い出せる人がいるでしょうか?
海外派遣中に私が搭乗していた機体で、着陸後にエンジン・ナセルが開放し損傷しているのが発見されるという事案が発生しました。最初に思ったのは、「いったいどうして、飛行中にラッチが壊れたのだろう?」ということでした。離陸前の最終点検では、いつもラッチを点検しているからです。私は、「今回も確認したよな?」と自らに問いかけました。
この飛行任務の開始にあたっては、エンジン始動に先立ち、飛行前点検と最終点検を完了しました。もちろんナセルのラッチも確認しました。ただし、それから任務開始までに待ち時間があったのです。数時間が経過した後、飛行任務を開始する直前になって機体に戻った私と他の搭乗員たちは、機体の最終点検をもう一度行ってから離陸したのでした。その後、着陸すると、ナセルが損傷していたのです。
これは、何を意味するのでしょうか? われわれは、このような確認行為を毎日繰り返しています。事故調査のため医務室で採血を受けている間、一連の状況を思い出そうとしました。しかし、2回目の最終点検の時に、本当にナセルを確認したかどうかを完全には思い出せませんでした。それは、あまりにも多く繰り返される作業だったので、それを行ったという確実な記憶が、その日の1回目のことや、その前日のことや、あるいは週の初めのことかもしれないというように、あやふやになってしまっていたのです。
この事故から得られた教訓は、「決して慌ててはならない」ということです。すべての確認は、作業のひとつひとつの手順をしっかりと説明できるようにして、抜けのないように行わなければなりません。それからは、搭乗員ブリーフィングにおいて、2名のパイロットに対し、コックピットに座る前にエンジン・ナセルを確認するように指示することにしました。また、機付長も搭乗員ブリーフィングに必ず参加させ、APU(auxiliary power unit, 補助動力装置)始動前にエンジン・ナセルの確認を行わせるようにしました。離陸してしまってから、「あれ? 点検したっけな?」と思うようなことがあってはならないのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
ラッチの掛け忘れを防止するため、「(自ら)しっかりと確認するようにする」のではなく、「(他の人に)確認させるようにする」というのが、大事なことなのだと思いました。