FLRAAプログラム・マネージャーからの最新情報:兵器システム開発契約のマイルストーンを達成
アメリカ陸軍は、将来の紛争に対応するため、能力の近代化を進めている。FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)は、次世代の兵士を支援するうえにおいて、重要な役割を果たそうとしている。
2022年12月5日、アメリカ陸軍は、ベル・テキストロン社との間で、FLRAA兵器システム開発(Weapon System Development, WSD) 契約を締結した。これは、1970年代以来、最も大規模かつ複雑な航空機調達契約である。それが陸軍全体に与える影響の重大性にかんがみ、極めて厳格な企業選定プロセスに従って締結された。
この契約締結というマイルストーン達成に貢献してくれた、全ての陸軍航空企業チームに謝意を表したい。これからもまだ長い道のりが残っており、多くの業務が待ち受けているが、陸軍は、このチームと共に、その過程で遭遇するあらゆる課題を克服できると確信している。
今回の契約によってもたらされるもの
この兵器システム開発契約によって提供されるのは、2つの「FLRAAポータブル・クルーステーション』(FLRAA Portable Crewstations , FPC)と『ビークル・ダイナミクス・モデル』(Vehicle Dynamics Model, VDM)などの仮想プロトタイプである。
そのうち、FLRAAポータブル・クルーステーションは、FLRAAの制御、飛行特性及び機能を模擬するための主要ハードウェア及びソフトウェアで構成された仮想プロトタイプである。それは、レッドストーンの戦闘航空旅団アーキテクチャ統合ラボ、フォートラッカーの空中機動戦闘ラボ、レッドストーンの航空飛行試験局内の飛行試験活動およびベル社とリンクしている。
この仮想プロトタイプを利用することにより、兵士からの意見聴取(Soldier touch points, STPs)を継続的に行い、開発テスト活動のリスクを軽減することが可能になる。そこから得られる定期的なフィードバックは、部隊および運用の双方に有益な情報をもたらし、FLRAA開発を加速し、新しい戦術、技術および手順(tactics, techniques and procedures, TTP)を確立するために必要な状況判断を迅速に行うことを役立てられるであろう。
FLRAAが成功した理由
ここまでFLRAA が成功してきた主な理由は、早期段階から企業および政府の利害関係者を参加させ、陸軍航空企業全体でのオープンなコラボレーションとコミュニケーションを維持してきたことにある。特に、CD&RR(Competitive Demonstration and Risk Reduction, 競争実証・リスク軽減)手法を何回も繰り返すことにより、FLRAAの要求性能の最適化に努めてきた。要求性能を決定する前に「要求性能のリンゴ」を何口も試食することができたのである。
陸軍と企業の間のコラボレーションにより、改革と競争が早期の段階から確立され、兵士からの意見聴取により最終製品の製造に資する情報が収集され、戦場における維持および運用への新たなアプローチを確立するための貴重なフィードバックが得られた。この重要なステップは、このプログラムのライフ・サイクル・コストの低減にも大いに役立てられることであろう。
アメリカ陸軍の指導者たちは、かねてから、このような新しい調達戦略を醸成し、FLRAAの成功につながる環境を整備してきた。最先端のデジタル設計ツールを活用して要求事項を決定することにより、FLRAAプログラムは、価格低減を実現するだけではなく、速度の優位性を犠牲にすることなくマルチドメイン作戦に適合し、兵士に変革をもたらす機会を提供できることに違いない。
今後の取り組み
今回の契約締結により、ベル社、レッドストーン工廠陸軍契約コマンド、FVL機能横断型チーム、および航空企業は、相互に緊密な連携を維持しつつ、このプログラムを成功に導いたオープン・コラボレーションを継続してゆくこととなる。
FLRAAプログラムは、引き続きCD&RRを活用した設計活動を行い、最終設計審査に向けてマイルストーンB(詳細設計の完成)を目指すことになる。その後は、試作機を製造し、試験を実施し、マイルストーンCを達成して、訓練および最初の部隊配備に必要なLRIP(Low Rate Initial Production, 低率初期生産)へと移行する予定である。
この間、引き続きハイブリッド調達戦略を継続し、議会が承認した調達改革施策を具現することにより、調達プロセスの合理化および効率化を図ってゆく。調達機関の中間層は、要求事項の成熟を加速させ、仮想プロトタイプの早期開発を図り、調達規律を維持しつつ調達速度を維持してゆく。
FLRAAは、マルチドメイン作戦および将来の紛争で勝利できる能力を保持するための重要な要素と見なされている。その価値は、低価格を維持しつつ、設計、製造および運用できるかどうかにかかっている。次世代の装備品に欠かせないライフ・サイクル・コストの低減を実現するため、FLRAAの要求性能と維持戦略に採り入れられたのがモジュラー・オープン・システム・アプローチ (Modular Open Systems Approach, MOSA)である。
それは、陸軍が新たに創造した、航空機電子機器用の共通規格およびインターフェイスである。これにより、迅速で費用対効果の高いアップグレードと、ミッション・システムの最適化が可能になり、長期的コストの削減がもたらされる。
また、仮想プロトタイプの迅速な構築を実現するための手法として、デジタル・モデリングおよびシミュレーションが採り入れられている。FVLのデジタル・バックボーンとしてデジタル・ツイン(現実の世界から収集したさまざまなデータを、まるで双子であるかのようにコンピュータ上で再現する技術)を活用することにより、高度なネットワーキング技術を活用した迅速な仮想プロトタイプの構築およびシミュレーションが可能になり、試験期間、調達リスク、および維持コストを削減しつつ、近代化の促進をより迅速に実現できる。デジタル・モデリングおよびシミュレーション技術は、新たな脅威に、より迅速に対応できる能力を陸軍にもたらし、戦場の兵士たちに、より多くの選択肢を提供することを可能にするのである。
加えて、FLRAA チームは、利害関係者とのコミュニケーション、契約における競争、最適なサポートを得るためのシステム設計プロセスを通じて、ライフ・サイクルの早い段階から知的財産に関連する障壁の除去に取り組んでいる。FLRAA チームは、CD&RRからの継続的なフィードバックを利用して、システム設計およびデータに関する企業側からの権利の主張が、FLRAA のライフ・サイクル・コスト、維持、改善等の目標を達成しようとする陸軍に及ぼす影響を適切に評価しようとしている。
結 論
この契約の締結は、数多くの専門家たちによる組織を横断した取り組みの集大成であった。その努力がなければ、FLRAAプログラムでの成功は成し遂げられなかったであろう。また、より革新的な調達戦略を可能にした議会の判断も、この成功に大きく貢献した。FLRAAチーム・オブ・チームズ(「複雑化する世界で戦うための新原則」に従って行動するチーム)は、プログラムのリスクを大幅に低減し、ライフ・サイクル・コストを削減し、FLRAAの性能を向上させるため、陸軍の調達プロセスの改革に引き続き取り組んでゆく。FLRAAによる近代化戦略の推進は、陸軍航空が航空ドメインの下位層域を引き続き支配し、地上部隊指揮官および兵士に最高の能力を提供し続けることを可能にするに違いない。
デビッド・C・フィリップス大佐は、アラバマ州レッドストーン工廠の航空プログラム・エクゼクティブ事務局に所属するFLRAA担当プロジェクト・マネージャーである。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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