AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

チェック欄を埋めるだけの点検

上級曹長 マーク・スティール
サウスカロライナ州陸軍州兵第59航空部隊コマンド(59th Aviation Troop Command)
サウスカロライナ州 マッキンタイア統合州兵基地

暑くて埃っぽい砂漠での、ある朝のことでした。私が所属していた任務部隊は、受入国からの要請により大規模な周辺地域の示威飛行(show-of-force)を行うため、飛行可能なブラック・ホークとアパッチをかき集めて離陸させました。帰投までは数時間ほどありましたので、私たちは水筒とキャメルバック(背負い式給水システム)に水を補給する短い休憩を取った後、作業に戻りました。エプロンに駐機していた部分的任務可能状態(partially mission capable)のアパッチ1機に数名の班でキャプティブ・ボアサイト・ハーモナイゼーション・キット(captive boresight harmonization kit)を装着し、調整作業を行っている最中に、突然、腹に響くほどの大きな衝撃音が機体の後方から聞こえ、感じられました。

何事かと思いながら、副操縦士/射手(co-pilot/gunner, CPG)席から身を乗り出して外を見た瞬間、血の気が引きました。1機のアパッチが予定より早く帰投し、トランスミッション・ベイから白い煙をもうもうと噴き出しながら、私たちのすぐ後方に緊急着陸を余儀なくされていたのです。私は急いでコックピットから飛び降り、いちばん近くにあった150ポンド(約68キログラム)のハロン消火器を引きながら、被害を受けた機体に向かいました。現場で合流した小隊陸曹が、その消火器のホースを繰り出しながら、煙を上げる機体に近づいてゆきました。

消火剤を放出するため、作動レバーのロックを解除しようとした私は、安全ピンを勢いよく引きました。しかし、そのピンはびくともしませんでした。引っ張ったり、揺さぶったりしながら、あらゆる方向に動かそうとしました。しかし、どうしても外れませんでした。半ばパニックに陥りながら、小隊陸曹をちらりと見上げました。騒音と混乱のなか、小隊陸曹は私をじっとにらみながら、「お前は・何を・やって・るんだ!」と一喝しました。その一言で、私は我に返りました。私はガーバー社のマルチツールを素早く取り出して、そのリングをプライヤーでつかむと、消火器のフレームを両足で押さえながら、渾身の力で引きました。突然、「ピン」という鋭い音とともにピンが外れ、私は後ろへ転がりました。

事態発生からすでに数分が経過しており、エプロン各所から隊員が現場に集まって、煙を封じ込めながら乗員を救出しようとしていました。私はすぐに体勢を立て直し、作動ハンドルを握って一気に開きました。すると、私にとっては恐ろしいことでしたが、周囲の者にとっては大いに愉快なことに、消火剤が轟音とともに真上に向かって30フィート(約9メートル)も噴き上がりました。消火剤は現場のすべての人や物の上に降り注ぎ、ともすれば惨事になりかねなかった現場に、笑いを巻き起こすことになりました。

結果として操縦士2名はいずれも無事であり、煙の原因も配線の不具合にすぎなかったことが分かりました。私は、消火器を持って真っ先に現場に駆けつけたにもかかわらず、その結果に何ひとつ寄与できなかったのです。苦い教訓でしたが、その意味するところは明白でした。エプロンの消火器の月次点検を担当していた隊員は、点検表のチェック欄をすべて埋めていましたが、それだけでは不十分だったということです。本来あるべき点検とは、ホースが劣化していないか、安全ピンが固着していないか(この事例ではまさに固着していました)を確認するといった、一歩踏み込んだ手順を実施することを意味します。使えるように見える装備と、実際に使える装備は別物であり、緊急時にはその差が結果を分けるのです。

訳者コメント:本稿は米陸軍戦闘即応センター(USACRC)発行のRisk Management Magazine掲載記事の翻訳です。派遣先の砂漠で緊急着陸したAH-64に、著者が150ポンドのハロン消火器を持って駆けつけたところ、安全ピンが固着して抜けず、マルチツールでこじ開けるまでに数分を要した事例です。月次点検の担当隊員は点検表のチェック欄をすべて埋めていましたが、安全ピンの固着を確認できていませんでした。整備員がマルチツールを携行することについては、賛否両論あると思いますが、私は携行していました。常に持ち歩いていると、1年に1回くらいは役に立ちました。
                               

出典:Checking the Box, Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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