FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)開発におけるモデルの活用
航空機の開発において、機体設計の安全性、効率性および有効性を確保するためには、モデルの存在が欠かせません。
モデルは、航空機開発の初期構想や設計から試験、検証、継続的な改善に至るまでのさまざまなプロセスにおいて重要な役割を果たしています。計算M&S(Computational models and simulations)は、各種設計構想や機体形態の検討に利用され、多種多様な設計を分析・比較した上での選択を可能にしています。数値流体力学モデル(Computational Fluid Dynamics models, CFD models)は、機体表面の空気流をシミュレーションすることによって、空気力学的に最適な機体形状を実現し、空気抵抗を低減して燃料効率を向上させています。有限要素解析モデル(Finite Element Analysis models, FEA models)は、機体構成品の構造強度を計算し、飛行中の応力や荷重に耐えられることを確認するために利用されます。アビオニクス、推進装置、降着装置などを統合したモデルでシミュレーションまたは試験を行うことにより、各系統の連携に問題がないかも確認できます。機体の物理的モデル(Physical models)は、風洞実験装置で試験を行い、数値流体力学モデルで計算した空力特性を検証・修正する際に用いられています。故障解析および信頼性モデル(Fault tree and reliability models)は、航空機の系統および構成品の安全および信頼性を確認・改善し、速度、航続距離、燃料効率、搭載重量などの性能を向上するために用いられています。3D M&S(3D models and simulations)は、バーチャル・プロトタイピング(仮想試作)に使用され、開発プロセスの早期から設計上の問題を特定・修正することで時間や資金を節用しています。
FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)の各系列機の開発には、多種多様なモデルが広範囲にわたって利用され、設計および試験プロセスを加速させ、コストを削減し、安全性を向上させてきました。モデルがあれば、開発のあらゆる段階において、さまざまな事例や条件をシミュレーションし、十分な情報を得たうえで決定を下すことができます。技術の進歩によるモデルの精度および機能の向上は、航空業界に革新をもたらしたのです。
ただし、モデルの開発および使用にあたっては、その対象物を正確に再現するため、VV&A(verification, validation and accreditation, 検証、妥当性確認および認可)のプロセスを実行し、モデルの信頼性、正確性、および目的への適合性を確実にすることが必要です。
検証(Verification)は、あるモデルが正しく組み立てられ、意図された数学または計算論理を忠実に再現しているかどうかを確認するプロセスです。モデルのコードや方程式がソフトウェア・プログラムやハードウェア・システムを正しく変換しており、コーディング・エラーやバグなどがないことを確認します。
妥当性確認(Validation)は、モデルがシミュレーションまたは再現しようとした現実世界のシステムを正確に再現しているかどうかを確認するプロセスです。このプロセスにおいては、モデルの予測および結果が現実世界の事象やデータと一致するかどうかが評価されます。それにより、モデルの動作が現実と一致し、意図したとおりに適用されていることを確認することができます。モデルの妥当性を確認するための鍵となるのは、モデルの出力を実験データまたは観測データと比較し、矛盾を特定し、モデルに必要な調整を加え、入力パラメーターの変化に対するモデルの応答感度を分析することです。
認可(Accreditation)は、特定の目的または適用に対するモデルの信頼性を証明する正式なプロセスです。特に航空宇宙などの安全性、確実性およびコンプライアンスが重視される分野においては、規制当局により厳格な手続きが要求されます。当該当局からの正式な承認または認証を取得するための鍵となるのは、文書化された検証(verification)および妥当性確認(validation)プロセスによりモデルの信頼性を実証し、基準や標準に準拠した評価を行うことにあります。
VV&Aプロセスは必ずしも連続して行われるとは限りません。検証および妥当性確認の結果に基づき、モデルの調整や改善が反復して行われる場合もあります。また、これらのプロセスを精査するレベルは、モデルの不正確さによりもたらされる影響に応じて変化します。VV&Aプロセスは、モデルの信頼性および正確性を判定し、適切な洞察や予測を可能にするものであり、特にモデルの出力に応じて方針、安全性または投資が決定される場合には極めて重要なものとなります。
デイブ・クリップス氏は、アラバマ州レッドストーン工廠のDEVCOM航空・ミサイル センターのシステム・レディネス部局の耐空性担当主任技術者です。
参考:M & S ガ イ ド ラ イ ン(防衛装備庁平成27年10月)
【モデル】使用法を含めた評価の対象とする装備品等の機能、性能や特性、また現象、概念、プロセス等を、数学的、物理的、ハードウェア的、論理的またはこれらを組み合わせた方法等で表現したもの。
【モデリング及びシミュレーション(M&S)】実世界における評価の対象とする装備品等のシステム、現象、概念、プロセス等をモデル化し、仮想世界上でシミュレーションする事によって、実世界で再現することが困難な現象の解明や、経済的または安全な方法で評価等を実施する方法のこと。
【VV&A(verification,validation, and accreditation)】モデルまたはシミュレーションの結果に対して verification(検証:開発したモデルまたはシミュレーションが、設計者の設計通りに動作することを確認すること)、validation(妥当性確認:開発したモデルあるいはシミュレーションが、ユーザの使用目的の観点から想定する実世界を表現していることを確認すること)及び accreditation(認可:verification 及び validation 結果を公式に認可すること)を行うこと。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2023年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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