AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

いつもどおりからの脱却

上級准尉2 ブランドン・L・クニースト
第224軍事情報大隊(空中)A中隊
ジョージア州フォート・スチュワート、ハンター陸軍飛行場

中央アメリカへの2回目の派遣中だった私は、もう一人の機長とともに情報・監視・偵察(intelligence, surveillance and reconnaissance, ISR)任務を兼ねた地域慣熟訓練(local area orientation, LAO)を行っていました。私たちが操縦していたのは、複座コックピットを備えたMC-12S改良型中高度偵察監視システム(Enhanced Medium Altitude Reconnaissance Surveillance System, EMARSS)固定翼航空機でした。後席には、2名の航空センサー・オペレーター(aerial sensor operators, ASO)が搭乗し、地域慣熟飛行および情報・監視・偵察任務の双方を支援してくれていました。我々が所属する中央アメリカ派遣隊は、ちょうど派遣要員の引き継ぎを始めたところでした。その週の始めに現地に到着した私は、それまで数か月間勤務してきた機長と2日目の地域慣熟飛行を行っていました。

過去にもそこに派遣されたことがあった私は、前日に行われた最初の地域慣熟飛行を特に問題なく終了していました。飛行時間のほとんどは、新任の航空センサー・オペレーターへの引き継ぎのために費やされました。私達は、機体システムについて、お互いに問題を出し合ったりもしました。私は、英語とスペイン語が入り混じった航空管制に再び順応できていました。その日は地域慣熟飛行の最終日であり、前日と同じような飛行になると予想していました。

飛行前の任務ブリーフィングは、いつもどおりに終了しました。その後、情報・監視・偵察任務を受領し、任務情報をどのように入力するかについて話し合いました。航空センサー・オペレーターたちからは、使用可能なセンサーおよび目標の特性についてブリーフィングを受けました。すべてが完了した後、私たちは「ダッシュ・ワン」と呼ばれる 175-1 気象ブリーフィングを受けました。

前回の派遣は、冬の季節だったので、素晴らしい天候に恵まれていました。火山灰や低シーリングが生じることも時折ありましたが、ほとんどの日は晴れ渡った青空が広がっていました。今回の派遣は、季節が夏だったため、熱帯気候特有の対流活動が活発でした。その日は、北部で雷雨がありました。それ自体は大きな問題ではなかったのですが、予定着陸時刻の直後に飛行場付近で対流活動の発生が予想されていました。私たちは気象予報士に連絡し、得られた最新情報に基づいて懸念を伝えましたが、飛行予定時間中の経路上に危険は予想されないとの回答がありました。

初めのうちは、前日と同じように飛行が進みました。しかし、任務の途中で、監視地域に雲が発生し始めました。私たちは、フライト・レベル230(23,000フィート)で目標上空を半径5マイルの周回経路で飛行していました。私たちは、機内の気象レーダーを監視し、戦術作戦センター(tactical operations center, TOC)から最新の気象情報を入手しました。その雲は降水を伴わない高層雲であり、心配する必要はないようでした。

私は無線をもうひとりのパイロットに引き継ぐと、後席でパイロット・リリーフ・バッグ(ポータブル尿バッグ)を使って用を足してから、自分の席に戻りました。任務を継続していると、周回経路の東側半分に雲が形成され、情報収集に影響を及ぼし始めました。私は、飛行空域を西に5マイル移動することを要求し、許可されました。それ以外に情報収集任務に影響を及ぼす事象は発生しませんでした。

飛行場に戻る途中、対流活動が予報よりも早く発生していることが分かりました。気象レーダーは、悪影響を及ぼす可能性のあるいくつかの反射を捉えていました。搭乗員のあいだでこの問題を話し合いましたが、危険な状態になる前に地上に降りる予定だったので、特に心配はしませんでした。

空港に戻る途中、ILS(instrument landing system, 計器着陸装置)進入を要求し、管制官によりレーダー誘導の割当を受けました。空港は、悪天候が影響を及ぼす前に戻ろうとする定期航空路線の民間機、その他の民間機、ヘリコプター、軍用機などのさまざまな航空機で混雑していました。私たちは通常よりも長い時間レーダー誘導を受けることになりましたが、忍耐強く待ちました。フライト・レベル190(高度190,000フィート)まで降下し、雲中を完全な計器飛行で飛行しました。もうひとりのパイロットはかなり経験豊富な計器飛行操縦士だったので、心配がありませんでした。しかし、レーダーは眉をひそめるような反射を捉えていました。

ようやく着陸の許可が下り、降下を続けましたが、気象レーダーには初期進入地点の真上にそれまでなかった小さな赤い雲の塊が存在することを示していました。私は多機能ディスプレイの画面を指さしながら、これまでこの地域で飛行してきたもうひとりのパイロットに心配がないかと尋ねました。彼は答えました。「ああ、それ? そいつは心配しなくていいよ。極めて狭い地域で大雨が降っているだけさ。入ってもすぐに抜け出せるよ」私にとって、それは合理的な回答でした。このような天候は、所属する駐屯地でも、他の派遣先でも、すでに経験済みでした。気象レーダーが雨を感知すると、画面上に赤い点が表示されることがありますが、必ずしも雷雨を意味するわけではありません。

初期進入地点に到着すると、もうひとりのパイロットが予測したとおりでした。大雨の中を通過しましたが、特に問題はありませんでした。ところが、最低高度を設定し、進入チェックリストに基づく点検を完了すると、機体全体が激しく揺れて急降下し、すぐに上昇しました。まるで空の中の穴を通過したかのような感じでした。センター・ペデスタルと床に置かれていた、クリップボードや水のボトルが跳ね上がりました。航空センサー・オペレーターのひとりは、シートベルトを締めていなかったため、座席から浮き上がり、キャビンの天井に頭をぶつけました。60ポンドのサバイバル・キットが機体の反対側まで移動しました。さらに悪いことに、飛行前に固定されていなかった電子ログブックのケースが、先ほど私が使用したパイロット・リリーフ・バッグの上に落下し、その内容物がキャビン後方全体に飛び散りました。それは、あっという間のできごとでした。30秒後には雲を抜け出して雨が止み、目視で進入を続けることができました。着陸後、被害状況を調査しました。最悪の状態になった機内の清掃が必要だったことと、航空センサー・オペレーターのひとりが動揺していたことを除けば、何も問題はありませんでした。

教訓事項

この事案は、私たちにいくつかの教訓を与えてくれました。固定翼機の場合、任務に慣れが生じやすい傾向にあります。任務が変更されることは少なく、同じことを何度も繰り返すことになる場合が多いからです。この事案の場合も、同じ任務が何回も続いていましたが、天候は季節の変わり目にあたっていたのです。コックピット内に表示される事象は、見た目は同じでも、季節によって意味が大きく異なります。季節や地域に応じた天候の特性を把握することが重要です。部隊が新しい地域に移動するたびに、空軍から提供される地域および季節の天気予報を確実に把握しなければなりません。過去に飛行経験のある地域であっても、気象現象は季節によって異なる場合があるのです。

また、今回の事案は、たとえ些細なことであっても、2次的あるいは3次的な影響を及ぼす可能性のあるすべてのことに注意しなければならないということを思い出させてくれました。機長は、固定されているべきものがすべて固定されていることを確認しなければなりません。それを怠ることは、自分だけではなく、他の搭乗員にも被害をもたらすかもしれないのです。そして、飛行前にシートベルトの着用を必ず確認しなければなりません。この事案があってから、特に新任の搭乗員と一緒に飛行するときには、この事案を話して聞かせ、すべての搭載品を固定し、シートベルトをしっかりと装着することの重要性を認識させるようにしています。いずれも小さなことではありますが、状況がもっと深刻であれば、はるかに大きな被害をもたらしたかもしれないのです。忘れないでください。些細なことにも十分に気を配るべきなのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ポータブル尿バッグにつけられた「パイロット・リリーフ・バッグ」というネーミングが絶妙だと思いました。
    ちなみに、油圧系統内の油圧などが既定値を超えた場合に圧力を逃がすバルブのことを「リリーフ・バルブ」と言います。
    https://armynavyoutdoors.com/pilot-relief-bag-pack-of-20-nsn-4510-01-480-1323/
    長時間飛行には、必需品かも知れません。