AO(Area of Operations, 作戦地域)を熟知せよ

それは、私がHH-60Mの機長になったばかりの秋のことだった。私は当時、駐屯地のMEDEVAC(Medical Evacuation, 医療後送)任務に就いていたが、その日は通常の訓練飛行の準備をしていた。第10CAB(Combat Aviation Brigade, 戦闘航空旅団)の大部分がヨーロッパに展開中だったため、制限訓練空域は空いていることが多く、毎日のように我々が使える状況にあった。しかしその週は、空軍の固定翼機が射場(レンジ44)で射撃訓練を実施していた。その射場は我々の演習場の最東端に位置し、管理用飛行経路(admin route)の上空にかかっていた。その射場が使用中(active)の場合は、航空機間のセパレーション(間隔)を保つために特定の手順に従うように定められていた。我々は、この空域を飛行する全員がその手順を理解していると思い込んでいた。しかし、残念なことに、常にそうとは限らなかったのである。
私は、この地域への慣熟訓練期間中であった後輩パイロットに対し、今回の訓練飛行を利用して、この射場に適用される第10CABのSOP(Standard Operating Procedures, 作戦規定)に習熟させようとしていた。まずは、そのパイロット自身にその内容を説明させ、レンジ44が使用中の場合に我々が従うべき特定の手順を把握し、理解していることを確認した。その後は、レンジ44に到達する前に1,000フィートMSL(Mean Sea Level, 平均海面)より低い高度まで降下しながら、管理用飛行経路を周回する予定であった。我々は離陸前に搭乗員ブリーフィングを行い、飛行開始後に所要の高度まで降下する際にも飛行中ブリーフィングを行った。
1,000フィートMSL(Mean Sea Level, 平均海面高度)よりも十分に低い約100フィートAGL(Above Ground Level, 対地高度)を飛行していた時、右側の機付長がこちらに向かってくる固定翼機に気づいた。この空域に固定翼機がいるはずはなく、しかも極端な低高度で飛行していた。衝突を回避するために予定の飛行経路から離脱したが、相手機のパイロットは空対空周波数に応答せず、速度を増しながらこちらに向かってきた。私は操縦交代を宣言した。
樹木の上約25フィートまで降下して、その固定翼機との衝突を回避した。おそらく50フィート(約15メートル)頭上を通過したのは、空軍のA-10であった。当然のことながら、我々は激しい怒りと苛立ちを覚えた。射場管制官に対し、この空軍機が適切な手順に従っていないことを通報した。大惨事の発生を回避することができたのは、射場が使用中であることを事前にブリーフィングし理解していたことと、適切なクルー・コーディネーションを維持していたおかげであった。
話をその翌年の夏まで早送りする。今度は私が外来部隊としてケンタッキー州フォート・キャンベルにいた。当該駐屯地のSOPは、そこへ出発する数週間前に受け取っていたが、自分たちの空域で飛行する日々の中でそれを読むのは骨の折れる仕事だった。現地に到着した我々は、制限空域周辺で昼間および夜間の慣熟飛行訓練を実施した。ジェットコースターに乗っているような気分になりながら、混同しやすい名前が付けられた地点を通過しながらそれを識別し続けた。
その駐屯地の射場は自分たちの駐屯地のものよりはるかに大きく、数多くの周波数を使い分け、何度も高度を変更しなければならなかった。それについていこうとする私のニーボードは、メモで一杯になっていた。経路を2周した後、その地域への慣熟度をさらに高めようとした我々は、射場周辺での追加の飛行訓練を行うことが許可された。私はその機会が得られたことに感謝した。外来部隊が常にそのような訓練をさせてもらえるわけではないからだ。
その翌日、我々はこの見知らぬ新しい場所でのMEDEVAC訓練に全力で取り組むことになった。その空域には多数の航空機が飛行していた。進入予定空域において射撃が行われていない(clear)ことを確認するため、自隊の指揮所に無線を入れた。指揮所は、その時点で使用中(active)の運用制限空域はないとして、我々に進入許可を与えたが、状況を完全に把握できていないようだった。そこで、すべての射場と連絡を取り合っているはずの射場管制官に無線を入れたところ、その空域は使用中であると告げられた。追加の飛行訓練で掌握していた低高度訓練空域に向かって旋回すると、遠くで砲が発射されたのが見えた。もし射場管制官に再確認していなければ、そのすぐそばを飛行するところだったのである。私は、1年前に自分たちの駐屯地で飛行していた、あのA-10パイロットのことを思い出した。彼もおそらく、自分が正しい空域にいると信じていたのだろう。今度は、私が彼と同じことをしてしまったのである。
教訓事項
陸軍パイロットである我々は、詳細な制限や指針のある不慣れな地域での飛行を要求されることがある。その際に必要なことは、スロー・ダウンすることである。「急いては事を仕損じる」のだ。我々が実施した追加の慣熟訓練飛行は、非常に役立ったと考えられる。他のパイロットたちの中には、その機会を与えられていない者もいた。
不慣れな地域で不安なく任務を遂行するためには、十分な時間を確保した訓練が計画されるべきなのである。応急的なブリーフィングや2回の短時間飛行だけでは、必ずしも十分ではない。これらの異常接近事案から明らかなとおり、地域への慣熟を怠ると、他の航空機への衝突や使用中の射場の横断など、致命的な事故につながる可能性がある。自分自身や搭乗員を回復不能な状況に陥らせる前に、焦らず時間をかけ、自分の置かれた状況を把握したうえで、作戦地域を熟知しておかなければならない。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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