認定飛行性能モデル
以前の記事「サム・クルーズ博士の遺産(第3部)-より安全な飛行を実現する」では、トム・トンプソン博士が、飛行性能モデル(Flight Performance Models)がどのような歴史をたどって発展してきたか、そして元航空力学部(Aeromechanics Division)長のサム・クルーズ博士がその開発や現場への導入においてどのような役割を果たしたかについて、詳しく紹介されました。
飛行性能モデル(Flight Performance Models)は、航空機の安全性(airworthiness)を保証するというシステム即応局(Systems Readiness Directorate)航空力学部の中心的な任務において、日常的に使用されています。それは、飛行性能に関わる AWR(Airworthiness Release, 安全性改善通報)の発行、機体改修が及ぼす影響の分析、技術マニュアルの図表チェック、実戦配備された任務計画モデル(飛行任務を計画する際に使用されるシミュレーション・ソフトウェアや計算ツール)の承認、そして機体仕様の適合評価を行う際に、絶対に正しい参照元、いわゆる「真実の源(source of truth)」となるように開発されています。また、飛行の安全に関わる安全性(airworthiness)の判断に使われるため、航空力学部では、AR(Army Regulation, 陸軍規則)5-11「陸軍におけるモデリングおよびシミュレーションの管理(Management of Army Modeling and Simulation)」の定めに従い、その任務に適合した独自の「検証・妥当性確認・認定(Verification, Validation, and Accreditation, VV&A)プロセス」を確立しています。
認定飛行性能モデルは、図1に示すような厳しい VV&A プロセスをクリアしています。そのプログラムコードは、誰が見ても理解しやすく、維持管理や修正がしやすいように、機能ごとの部品を組み合わせるモジュール方式で作られています。そのモデルの中で使われるデータや計算式は、実際の飛行試験(flight test)のデータを根拠としており、機体が実際に発揮できる性能を正確に表しています。

「計画(Planning)」段階では、様々な分野のメンバーからなる開発チーム、ソフトウェアや飛行性能のエンジニア、そして認定当局(Accreditation Authority)の間で、「認定計画(Accreditation Plan)」を通じて大枠の合意形成を行います。ここでは、作業の範囲、各メンバーの役割、活動計画、使えるリソース、予定スケジュール、そして考えられるリスクなどが確認されます。ユーザー・グループが作成する CDD(Capabilities Description Document, 能力開発文書)と妥当性確認計画(Validation Plan)によって、どのような機能が必要か、そしてモデルが正しいことをどうやってテストするかが決められます。また、ソフトウェア開発計画(Software Development Plan)とソフトウェア試験計画(Software Test Plan)によって、モデルをどのように作り、どのように検証するかという方法が定義されます。
「要求(Requirements)」段階では、高レベル要求(High-Level Requirements)を作成し、CDD に書かれた文章での説明を、モデルの具体的な機能に割り当てていきます。次に、SRS(Software Requirements Specification, ソフトウェア要求仕様書)によって、高レベル要求をさらに細かい一つひとつの要求事項へと分解します。この要求事項は、飛行性能の専門家(SME)が意図した機能が、ソフトウェア開発チームに誤解なく、明確に伝わるようにするため、非常に詳細に記述されます。また、要求事項に漏れがなく、全員がしっかり理解できるまで、何度もレビューされます。
「設計/コード(Design/Code)」段階では、SRS の内容に沿いながら、実際のソフトウェア・コードが記述されます。テストを行う前にミスを発見し、修正するため、コード・レビューが何度も実施されます。要求事項が的確に記述されていれば、この段階は比較的スムーズに進みます。
「検証(Verification)」段階では、書かれたコードが SRS の要求どおりに動くかどうかをテストします。要求事項を効率的かつ網羅的に確認するため、ここではシステム全体を一度にテストするのではなく、コードの論理的なまとまりごとにテストが行われます。多くの場合、テスト担当者は、テスト対象のコードが出すべき正しい結果を知るために、要求事項を単純化した計算プログラムを独自に作成します。テスト・レビューは、十分な範囲のコードがテストされ、品質が保証されたと判断されるまで繰り返されます。その結果は、ソフトウェア検証報告書(Software Verification Report)に明確に記録されます。
「妥当性確認(Validation)」段階では、完成した飛行性能モデルのソフトウェアが飛行性能の専門家(SME)であるユーザー・グループに渡され、CDD の要求を満たしているかどうかの確認テストが行われます。このテストには、技術マニュアル(technical manual)や飛行試験レポートのグラフとモデルの出力結果を重ね合わせて比較したり、利用可能であれば既に承認されている他のモデルと数値を比べたりする作業が含まれるのが一般的です。分析の詳細や、評価を行った専門家(SME)による承認は、妥当性確認報告書(Validation Report)にまとめられます。
最後に「認定(Accreditation)」段階では、開発チームは承認を得るために、認定当局へ認定覚書(Accreditation Memorandum)を提出します。それには、技術情報のすべて、設定の管理状況(configuration controls)、制限事項や既知の問題点、そして想定される使用方法などが文書化されています。認定当局による承認が得られると、その「認定飛行性能モデル」は、現場の兵士を支えるための航空力学部の重要な資産(asset)として認められ、「より安全な飛行を実現する(Make ‘Em Safer to Fly)」というサム・クルーズ博士の遺志を引き継ぐことになります。
ジョン・R・シムズは、アラバマ州レッドストーン工廠(Redstone Arsenal)にある、米陸軍戦闘能力開発コマンド(Combat Capabilities Development Command)・航空及びミサイル・センター(Aviation & Missile Center)、システム即応局航空力学部の航空宇宙エンジニアです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2025年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:56