ツー・チャレンジ・ルール――それは命綱だ

その昼間任務は、アフガニスタンでのいつもと変わらない日常的なものでした。CH-47チヌーク2機による、これまで何十回も着陸したことのある降着地域(Landing Zone, LZ)への要人空輸です。搭乗員の構成は、飛行時間約3,500時間のベテラン機長(Pilot in Command, PC)、飛行時間500時間の熟練した副操縦士(Pilot, PI)、そして飛行時間不明の非操縦搭乗員(nonrated crewmember)2名――機付長(Crew Chief, CE)と機上整備員(Flight Engineer, FE)――でした。搭乗員はともにフライトの直近実績があり、また当該LZへの着陸に関しても直近実績がありました。
LZへの習熟にもかかわらず、機体のローター・ダウンウォッシュが砂塵を巻き上げ、視程が急速に低下して悪視程環境(Degraded Visual Environment, DVE)での着陸を余儀なくされました。進入中に操縦装置を操作していたのは機長であり、対地高度(Above Ground Level, AGL)約10フィート(約3メートル)でホバリングを適切に安定させていました。10フィート(約3メートル)のホバリングから機体を接地へ誘導する非操縦搭乗員の口頭誘導に依存していた機長は、知らず知らずのうちに左ペダルを入力し、チヌークの機首を左にヨーイングさせてしまいました。
計器を監視していた副操縦士は誤った入力を即座に認識し、「ライト・ペダル」と複数回コールしました。しかし残念ながら機長は、副操縦士の修正コールを聞き取ることも応答することもありませんでした。これはおそらく、無線通話の雑音と非操縦搭乗員の誘導コールが重なる中での作業過負荷(タスク・サチュレーション)によるものと考えられます。機体は、意図せぬヨーイングによって当初の着陸方向から10度左に向いた、通常とは異なる着陸プロファイルで接地しました。右後輪が横方向の動きながら接地したため、リムが二つに割れました。最終的には安全に着陸し、搭乗員や乗客に負傷者は出なかったものの、機体の損傷により、任務を継続できない状態となりました。
いかなる事案であれ、事後になって結果論から批判することは容易です。以下に、この事案を引き起こした要因として考えられるものを挙げます。第一に、LZへの慣れが慢心を引き起こす主要因となった可能性があります。同じ地域への反復飛行は、その環境に対する自信と慣れを育みます。もしこれが初めて訪れるLZであったなら、機長はより一層警戒していたかもしれません。
第二に、聴覚的過負荷がこの事案に関与した可能性が高いと言えます。経験の多寡に関わらず、ストレスのかかる状況では聴覚能力が著しく低下します。慣れ親しんだLZへの進入中に状況が予期せず悪化する場面を想像してみてください。ヘルメット内で無線機が飛び交い、砂塵によってあらゆる視覚的補助目標が遮られ、搭乗員が誘導コールを行い続ける中、副操縦士が修正コールをかけている、という状況です。職責を明確に区分すること(例:「機長は操縦と後部からの誘導を聞くことのみに集中する」「副操縦士は外部無線の対応と計器の監視を完全に引き受ける」)は、作業過負荷やコールの聞き漏らしを防ぎ、各種状況において適切に対処する能力を高めることにつながります。
教訓
この事案からは、将来の事故を防ぐうえで参考となる教訓がいくつか得られます。
第一は、ツー・チャレンジ・ルール(Two-Challenge Rule)です。このルールは、すべての飛行前に搭乗員ブリーフィングで確認される事項です。その内容は、操縦装置を操作している操縦士が連続する2回のチャレンジ(是正要求)に応答しなかった場合、操縦装置を操作していない操縦士が操縦を引き継ぐことができるというものです。本事案では、操縦していない操縦士が「ライト・ペダル」と複数回コールしたにもかかわらず、修正が行われませんでした。操縦していない操縦士には、操縦を引き継ぎ、誤りを是正して安全に着陸させる義務がありました。
第二に、経験はリスクを排除しません。確かに、機長の飛行時間3,500時間はリスクを低減する要素ではありますが、それでもミスを犯す可能性はあります。もし操縦していない操縦士が操縦装置をシャドーイング(手を軽くそえる)していれば、即座に介入できる態勢にあり、事案を防げた可能性があります。一緒に飛ぶ操縦士の経験の多寡にかかわらず、常に行動できる態勢を整えておくことが重要です。
この事案は、航空安全とは技量だけの問題ではなく、コミュニケーション、謙虚さ、そして警戒心の問題でもあることを、改めて私たちに気づかせてくれます。機長の豊富な経験をもってしても、空間識失調(disorientation)や作業過負荷(task saturation)を防ぐことができず、操縦士の修正コールは雑音の中に埋もれてしまいました。その結果、模範的なクルー・コーディネーションを発揮する機会を逸失し、機体の損傷がもたらされました。すべての搭乗員は、飛行におけるセンサーであり、セーフガードであり、パートナーです。コミュニケーションが途絶えると、最も日常的な着陸でさえ高くつく結果になりかねません。これを教訓としましょう――より注意深く聞き、必要な時には大きな声でコールし、慣れによって感覚を鈍らせることのないように。ツー・チャレンジ・ルールは、単なる指針ではありません。それは命綱なのです。
出典:The Two-Challenge Rule: It's a Lifeline, Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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