航空機用自己防護装備の動向
2003年11月、陸軍省長官代行であったレス・ブラウンリーは、「航空機の防護は、緊急の課題である。」と発言し、速やかな対応を指示した。この時から、航空機用自己防護装備(ASE, Aircraft Survivability Equipment)装備化推進チームは、最新自己防護能力の短期間での取得に向けた取り組みを始めたのである。
2004年3月以降、イラク及びアフガニスタンでは、一部の航空機にAN/AAR-57共通ミサイル警報装置(CMWS, common missile warning system)(訳者注:陸海空軍共通の自己防護装備として開発されたミサイル警報装置)が搭載されている。また、CMWSが搭載されていない航空機には、AN/ALQ-156ミサイル警報装置(MWS, missile warning system) が搭載され、改良型のAN/ALQ-144C IRジャマー及びALE-47シーケンサー(sequencer)(訳者注:ALE-47チャフ/フレア発射機の構成品であり、発射信号を生成して、発射機を制御する)に接続されている。
一方、IR妨害装置(AIRCMM, Army infrared countermeasures munitions)と呼ばれる最新式のフレアは、熱感知式地対空ミサイル等の可搬式防空システム(MANPAD, man-portable IR defense system)の攻撃に効果を有している。このように、ASEは、陸軍機に搭乗している乗組員と兵士を敵の対空攻撃から守る重要な役割を担っているのである。
ASEに対する脅威
しかしながら、この種の事業は順調に進まないのが常であり、2, 3年前には、ASEシステムに関する全事業が中止またはその寸前の状態に追い込まれていた。ところが、テロリズムに対する世界規模の戦争(GWOT, Global War on Terrorism)が状況を再び変えた。複雑多岐な戦場において戦闘を遂行する陸軍の実情を踏まえ、自己防護装置整備を推進する必要性が改めて認識されたのである。我々は、尊い犠牲を払いながら、戦場に安全な空域などというものは存在せず、全ての航空機が常に防護装置を装備しなければならないことを改めて学んだのであった。
かくして、ASEの事業化が決定した。ASE装備化推進チームのメンバーは、次世代ASEとしてふさわしいシステムを一刻も早く装備化するため、寝る間も惜しんで働いている。
現時点においては、GWOTへの対応を重視しており、イラク及びアフガニスタンに派遣されている航空機への搭載を最優先課題として、これに取り組んでいる。これらの地域における主要な脅威は、MANPAD、ロケット推進式てき弾発射器及び小火器である。
現在の脅威に対する対抗手段
MANPADに対する防護装備としては、AN/ALQ-144C IRジャマー、もしくはAIRCMMフレアと組み合わされたAN/AAR-57CMWSまたはAN/ALQ-156 MWSが搭載される。
また、地上火力の効力を減ずるため、エア・ウォーリア(航空機搭乗者用装具)に含まれている身体用防弾ベストの防護力向上を図るとともに、航空機用防弾装甲の改良を検討中である。
戦場に派遣中の全米陸軍回転翼機及び固定翼機に対し、努めて速やかにCMWSを搭載することが指示されており、CMWSが戦場に補給されたならば直ちに搭載できるように、全航空機分の取り付けキットを準備中である。
全米陸軍保有機へのCMWS装着用キット取り付けが完了したならば、戦場に派遣されている全航空機への搭載と派遣前訓練に必要なCMWSが補給される予定である。CMWS搭載キットは、AキットとBキットに区分され、Aキットは米陸軍全保有機分を調達・取り付けし、Bキットは半数分を調達して直ちに取り付けできるように準備する。これらの搭載キットの調達は、製造及び搭載に要する期間を考慮しつつ、努めて速やかに実施される予定である。
レーダー及びレーザー警報装置
生存性向上のためのもうひとつの課題は、レーダー誘導ミサイルからの防護である。米陸軍は、レーダー・ジャミング装置の開発を継続する一方で、AN/APR-39レーダー警報装置(RWR, radar-warning receiver)の能力向上を図り、音声警報機能を改善するとともに、現行装置の問題点である誤認識の発生を減少させようとしている。この成果は、2-3年のうちに部隊装備品に反映されるであろう。AN/AVR-2B レーザー警戒装置は、敵のレーザー捕捉システム、測距装置またはレーザー誘導システムから発せられるレーザーを探知し、操縦士に警告を発する装置である。さらに、現在製造中の改良型AN/AVR-2Bレーザー警戒装置は、従来型よりも受信可能周波数帯域を拡大するとともに、方向探知精度を向上させている。これらの装置を搭載すれば、射撃を受ける前に敵のレーザーを探知し、対抗手段をとることが可能となる。
対抗手段の改善
ASE装備化推進チームは、次世代システムの開発にも取り組んでおり、改良型IR対抗手段(ATIRCM, Advanced Threat IR Countermeasure)システム及びIRジャマー等、レーザーを使用した対抗手段の開発実施を決定している。現在のAN/ALQ-144C IRジャマーの後継として、ATIRCMシステムが導入されれば、IR誘導ミサイルに対する対抗手段をフレアに依存している現状を改善できる。また、AN/ALQ-211統合レーダー妨害装置(SIRFC, Suite of integrated RF countermeasures)等の次世代RWR及びレーダー・ジャマーの開発についても、現在検討中である。これらのシステムが、近く搭載予定の共通グラス・コックピットと統合されれば、より広範囲にわたる脅威の発見が可能となり、パイロットおよび搭乗員の状況把握がさらに容易になる。
チーム一丸となった努力
これらの業績は、かけがえのない兵士の生命を守るため、航空機関連予算を担っている全関係機関及び関係者(陸軍航空・ミサイルコマンドおよび通信電子コマンド、航空、調査・電子線およびセンサー、弾薬の各プログラム担当事務所、試験および評価コマンド、航空技術試験センター、兵站支援担当者および関連企業)がひとつのチームを形成し、一丸となって取り組んできたからこそ達成されたものである。
このチームの献身的な努力により、極めて迅速に装備化が進められたASEシステムは、将来にわたって多くの人命を救ってくれるであろう。
このように、CMWSは装備化中止寸前の状況から完全に脱し、11ヶ月後には、まず3個大隊に装備化されることが予定されている。2005年には、20以上の大隊にCMWS搭載に必要なAキットが補給される予定である。また、現在装備されているAN/ALQ-144 IRジャマーについては、 2年以内にすべて(C)タイプに改修される予定である。
これからも、航空機用自己防護装置による脅威警告能力の向上を継続し、航空機および搭乗員を作戦任務から安全に帰還させて、兵士の生命を守り続けることが必要である。
Raymond Pietruszka は、アラスカ州レッドストーン造兵廠の情報・電子戦担当官であり、航空機用自己防護装備プログラムの副ディレクターである。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2005年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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