航空事故回顧-B350における不適切な緊急操作
飛行任務を実施中、コックピットに煙が急速に充満し始めた。煙で視界が遮られるまでの間に、一方のエンジンのインターステージ・タービン温度が高く、油圧が0psiであることに気付いたパイロットは、No.2エンジンをシャットダウンした。その後、No.1エンジンが故障していることが判明した。パイロットは、No.1エンジンをアイドル状態にした後、脚を上げたまま、草原に不時着した。機体は大破したが、負傷者はなかった。
飛行の経過
当該機は、イラクのある場所から離陸し、指定された高度である平均海水面高度21,000フィートまで上昇して任務を開始した。
飛行開始から数時間後、パイロットは、濃い煙がコックピット内に発生し、飛行計器や機外が見えなくなったことを報告した。主警報灯が点灯し、一方のエンジンのインターステージ・タービン温度(ITT)が高くおよび油圧が0psiとなった。パイロットの判断により、No.2エンジンがシャットダウンされた。その直後、No.1エンジンの排気管から炎が噴き出し、大きな音が発生した。注意灯パネルのNo.1エンジンのチップ・コーション・ライトが点灯した。パイロットは、No.1エンジンをシャットダウンするための操作を開始した。その後、離陸した空港に向けて滑空し、街の郊外にあるその空港の外側にある広い草原に脚を上げたまま接地した。
搭乗員の練度
機長の総飛行時間は1,726時間であり、そのうち連続した飛行時間は309時間であった。副操縦士の総飛行時間は14,000時間であり、そのうち連続した飛行時間は455時間であった。
考 察
パイロットは、飛行中の緊急事態に対処している間に、誤った方のエンジンをシャットダウンし、一方のエンジン故障だったのを双方のエンジン故障へと悪化させてしまった。No.1エンジン(故障が発生した方のエンジン)もシャットダウンしなければならない状況となり、草原にパワー・オフでの着陸を行わざるを得なくなった。
コックピット内に煙が充満していたため、故障しているエンジンを識別することは、困難な状況であった。しかし、例えそうであっても、誤った方のエンジンをシャットダウンしてしまったことは、既に発生していた飛行中の緊急状態を更に危険なものにしてしまったのである。
操縦士は、重大な緊急事態における操作に精通し、飛行訓練シミュレータを活用した実戦的な緊急操作訓練を行って、操縦技量の維持に努めなければならない。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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4件のコメント
本記事では、詳しく触れられていませんが、本事案がどのような経過を辿ったのか、推測してみました。
① 何らかの原因でエンジン油圧が低下
② エンジン内部の損傷が始まり、煙が発生
③ コンプレッサーのブリード・エアから排出された煙が空調系統を通じてコックピット内に流入
④ エンジン内部の損傷により、エンジン出力が低下
⑤ 燃料コントロールがエンジン出力を維持しようとして燃料流量を増加
⑥ インターステージ・タービン温度が上昇
⑦ エンジン内部の損傷が拡大し、 排気管から炎が噴出
B350(LR-2の原型機)に関する資料が手元にないので、あくまで推測に過ぎません。間違いがあったらご指摘ください。
なお、本事故に類似した事故事例としてブリティッシュミッドランド航空92便不時着事故があります。
本件のような事例において、どのような緊急操作手順をとるべきだったのかについても具体的には触れられていません。類型機であるC-12Cの取扱書によれば、次の手順によるべきであったと考えられます。
① 空調系統の停止
② 煙の排出(空調装置にダンプ機能があるようです)
③ エンジンの目視確認による故障エンジンの判定
④ 当該エンジンのシャットダウン
こちらも、誤りがあれば、ご指摘ください。
一方、事故の被害を局限できた理由についても、指摘する必要があると思います。
C-12Cの取扱書によれば、軟弱な地盤に着陸する場合は、脚を上げたままで接地するように記載されています。草地に着陸する際に、脚を上げたままにした判断は、本事故の被害を局限するのに大きく貢献したと思われます。
B350の概要については、「ビーチクラフト キングエア」および「C-12」をご覧ください。C-12Sの原型機がB350のようです。