空飛ぶ仲間たちとの共存
バード・ストライクを防止するために
ニューヨーク周辺のヘリコプター飛行経路上を高度1,500フィートで「お気楽に」飛行していた我々は、ロングアイランドの南岸上空を西に向かっていた。20マイルも離れたニューヨークのビル群が、澄み切った青空を背景に、手が届きそうなほどはっきりと見えていた。水平線上には、ゆらゆら揺れる太陽がピンク、パープル、ブルーおよびバイオレットの光を放っていたが、視界には影響がなかった。12月の張り詰めるような冷たい空気の中、まだ2時間は太陽の光が得られるはずであり、基地に帰投するには十分な時間が残っていた。
無線通話もなく、全系統が正常に機能する中、眼下には誰もいない砂浜と波静かな大西洋が見えていた。「11時、鳥」。左席のパイロットが冷静な声を発した。「了解」。右籍のパイロットが応え、滑らかにサイクリックを操作すると、機首を1時の方向に向けた。その時、右側のマンハッタン中心部の高層ビルから、何かが突然飛び出して来た。「鳥だ!」。パイロットは、ほぼ90度近くまで急激に左にバンクさせたが、それでも足りなかった。バン!ドン!ドシン!そして、静粛が訪れた。
全系統は正常であり、操舵感覚に問題はなく、確認できる範囲では機体も損傷していないようであった。このため、計器を監視し、操縦系統へのフィードバックがないことを確認しながら飛行を継続した。そして、計画していた燃料補給点までの飛行継続を決心した。着陸後、機体を点検した後に上級部隊に発生状況を報告し、飛行を継続して部隊まで帰投する許可を得た。
部隊に帰投した後に実施した細部点検においても、機体に損傷は発見されなかった。ただし、ローターブレードには、血や肉片が残っており、バード・ストライクが発生したことが明らかであった。またしても、一羽の大きな鳥を空の聖地へと旅立たせてしまったのである。
バード・ストライク(航空機と鳥との衝突)は、陸軍および民間機にとって、安全上の重大な懸案事項である。FAA(連邦航空局)によると、1990年から2013年の23年間に米国で発生したバード・ストライクの件数は、142,000件に達する。これは、米陸軍事故情報データベースに登録されている件数よりもはるかに多い。8年間(2010年から2018年)に陸軍の回転翼機で発生したバード・ストライクは、41件であった。ただし、この件数には、機体に損傷を与えたものだけしか含まれていない。危うく接触を免れたケースや、ほとんど損傷がなかったケースについては報告が求められていないのである。
陸軍におけるバード・ストライクによる事故は、その件数は少ないものの、それによる損失は無視できないものとなっている。バード・ストライクに起因する損害額は、報告されたものだけでも620万ドルを超えており、死亡者も1名発生している。ここで注目すべきことは、バード・ストライクの発生頻度が高い飛行高度である。FAAの報告によれば、米国内の民間機によるバード・ストライクの92パーセントが地上3,500フィート以下の高度で発生している。例えば、USエアウェイズ1549便は、高度約2,900フィートでガンの群れと衝突したために双方のエンジンが停止し、ハドソン川に緊急着陸することを余儀なくされている。巨大な民間機にさえも損傷を及ぼす鳥にとって、ヘリコプターを墜落させるのは、たやすいことである。ヘリコプターは、比較的速度が遅く、パイロットが鳥を発見して回避できる可能性が比較的高いものの、そのほとんどが92パーセントの領域である3,500フィート以下の高度で運用されていることに注意しなければならない。
また、将来の作戦においては、自分たちと同等もしくはそれに近い能力を有する敵と戦うことが想定される中、確実に生じると見られていることが一つある。それは、対空脅威が大きくなるため、地上近くでヘリコプターを運用する戦術または戦闘要領が必要となる可能性が極めて高い、ということである。陸軍のパイロットは、これまでよりもより一層、谷、川、木、そして鳥に近い場所を飛行しなければならない。つまり、鳥がこれまでよりも重要な計画上の考慮事項となるのである。
パイロットは、以前にもまして鳥に着意した計画を立案し、任務を遂行しなければならなくなる。過去の統計上、バード・ストライクが重大な事故をもたらしたケースはあまり多くないものの、それらの事故によってもたらされた損失額は相当な金額に上っている。戦術的環境が変化する中、運用および予算に制約に適切に対処しつつ、死亡事故の防止を図ることが陸軍のパイロットに求められている。
新しい戦術的環境において、バード・ストライクの増加を防止するために有効と考えれる手段をいくつか紹介する。
第1に、航空運用機関から提供されるNOTAM(Notices to Airmen, 航空情報)を確認することである。NOTAMには、鳥の動向に関する情報が含まれている場合が少なくない。それを確認することによって、計画している飛行経路上の鳥の活動に関し、貴重な情報が得られる可能性がある。
また、搭乗員ブリーフィングにおいては、鳥に遭遇した場合の対処要領を確認すべきである。さらに、各人への監視方向の割り当て、回避の要領、バード・ストライク発生時の対処要領についても、意思の統一を図るべきである。
パイロットは、鳥の活動が顕著になる期間と時期についても認識しておかなければならない。FAAによれば、バード・ストライクの半数以上が7月から10月にかけての期間に発生しており、その時期は昼間が最も多い。夜間に発生したバード・ストライクの件数は、全体の30パーセント程度である。
パイロットは、自分自身を防護するため、ヘルメットのバイザー(無色または着色)を下げ、顔面シールドを装着しておくべきである。このことにより、バード・ストライクによりコックピットが損傷した場合に、パイロットが負傷する可能性を低減することができる。
最後に、鳥とのニアミスや軽微なバード・ストライクについても、部隊安全担当者に報告・説明することが必要である。
以上のような手段を講じることにより、鳥の活動の傾向を把握し、それに対応するための戦術、技術および手順を確立して、自分たちのヘリコプターとそれと同じように空を飛ぶ仲間たちを守り、空の安全を確保することができるのである。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
現役の頃、バードストライクで風防が破損した機体を現地で修理したことがあります。鳥がぶつかったパイロットの腕には、青タンができていました。当たりどころが悪ければ、ケガをする可能性もあったと思います。
「バードストライク」私も現役時代のに2回ほど経験しております。飛行場を離陸して上昇中に一度、地上試運転中に鳥が回転中のローターに飛び込んで来た時。まさに鳥が航空機に突っ込んできたという印象でした。
当時の航空操縦士のヘルメットのバイザーは、着色のものだけでした。無色と併用できるタイプの航空ヘルメットが欲しかったです。今は、どんなタイプを使用されているのですかね?