AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

人間アース棒

ティム・ホッパー

The Human Grounding Rod

その日の午後は、春のノースカロライナ州にふさわしい、暖かい天候になると予報されていました。視程も10マイル(約19キロメートル)と十分でしたが、局地的雷雨が30%の確率で発生すると予想されていました。ある地方空港を基盤として作戦任務を遂行していた3機のブラック・ホーク編隊の長機に機付長として搭乗していた私は、ごく通常の潜入/離脱任務だとしか思っていなかった、その日最後の飛行を終えようとしていました。

その飛行は、空港から15マイル(約28キロメートル)離れたところで終了することになりました。部隊の運航指揮所からの無線で、その地域を雷雨が通過するという連絡があったので、直ちに着陸しなければならなかったのです。空港に戻る経路を遮るように発生した暴風圏の周辺では、雷が発生し始めていました。

激しい雨も降り始めたので、エンジンをシャットダウンして、地上で待機するしかありませんでした。すべての機体の機付長たちは、機内に戻るように指示されました。雷が近づいていたので、機外にはいられませんでしたし、100ヤード(約91メートル)離れたベース・オペレーションの建物まで走るというリスクを冒したくもありませんでした。仕方がないので、誰もが機内の機付長席に座っていました。

しばらくすると、雨が小降りになり始めたので、機付長たちは、雨に濡れないようにしながら新鮮な空気を求め、機外に出たり、機内で位置を変えたりし始めました。滑走路上は、雨水が流れていたので、他の搭乗員たちは、機内の貨物室に留まっていました。

風が機体に小雨を吹き付けていました。貨物室の左側は、ドアが開けっ放しになっていましたが、かろうじて雨が当たらない状態になっていました。私は、そこに立つことにしました。2列が背中合わせに取り付けられている座席の支柱に寄りかかって、雨がやむのを待ちました。

ラップトップ・パソコンを取り出して任務終了手続きを行ない、任務終了後の簡単なミーティングを始めていたところ、風雨がまた激しくなり、雷が3~4マイル(約6~7キロメートル)のところまで近づいてきました。それから15~20秒くらいの間に、雷は0.5マイル(約0.9キロメートル)くらいのところまで来てしまいました。慌てて機内に乗り込もうとしましたが、その時には、もう遅すぎたのです。

稲妻のまばゆい光が周囲を明るくしたかと思うと、機体の外板を電流が伝わる音が鳴り響きました。腕や首の毛が、文字どおり逆立ちました。(スパークのような)パチンという大きな音と共に、背中に痛みが走りました。電流が背中から足を伝わって地面へと流れ、呼吸が困難になりました。背中には、小さな赤いみみずばれが残りました。足がしびれて、かじかんでしまい、腰が曲がった状態で、機体から6フィート(約1.8メートル)離れたところまで動いてしまいました。

UH-60の主脚の内側には、アース線が取り付けられているのですが、(アースに関しては、)より大きなものの方がより良く働くのです。「電流は、抵抗の少ない回路の方に多く流れる」ということを思い出しました。雷の電流は、機体外板の表面を伝わり、座席の背面にある金属製の支柱に沿って流れたのです。座席の背面にある支柱を覆ってる布地には、落雷で生じた8分の1インチ(約3ミリメートル)の大きさの焼け跡が4分の1インチ(約6ミリメートル)離れて2ヵ所生じていました。この事故を防止するためにはどうするべきだったのかは分からないのですが、1つだけ確かなことがあります。「機外に立って、自分がアース棒になるようなことをしない!」ということです。

知っていますか?

アメリカ国内での雷の発生回数は、毎年2500万回に達すると推定されています。過去30年間においては、毎年、平均62名の人が雷で死亡しているのです。雷により被害を受けるのは、地上にいる人だけではありません。航空機の外板やその電子機器が損傷する場合もあるのです。雷は、通常、凍結高度から5000フィート(約1500メートル)以内の大気中に、弱い降水や乱気流が存在している場合に発生します。稲妻は、雲に沿って35マイル(約56キロメートル)以上を移動することができ、レーダー上では75マイル(約120キロメートル)も離れた場所で観測されたことがあります。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    現役の頃、何人かの先輩から、落雷で恐ろしい目にあった話を聞いたことがあります。注意しましょう。